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8.ドレス

 翌朝、だいたいそろそろ十時くらいかなー、というころに宿屋の前で待っていると、やけに豪華な馬車がやってきた。

 馬車には金ぴかだが成金すぎない、品のいい装飾が施され、馬も真っ白な毛並みの白馬だ。御者台の御者も心なしかものすごいイケメンに見える。


 なんだ? どこかの貴族でも泊まるのか?

 なんて思っていたら、扉が開いて降りてきたのは、当のミリアさんだった。


「おはようございます! 今日もいい天気で、絶好の謁見日よりですね!」


 朝から笑顔全開でハイテンションだ。

 着てる服も見慣れたギルドの制服ではなく、仕立てのいいドレスだった。


「いやいや、王宮内に天気なんて関係ない、っていうか、この馬車はなんですか?」


 なんとなく想像はついてたけど一応聞いてみる。

 返ってきたのはやっぱり思った通りの答えだった。


「もちろん、これで王宮まで向かうんですよ!」


「……さすがにこれは恥ずかしいっていうか、城くらいまで普通に歩けますよ」


「まあまあそういわずに! 演出も重要ですよ!」


 背中をぐいぐい押されて強引に押し込もうとしてくる。


「ま、いいんじゃない。いちいち歩くのも面倒だし」


「そうだな。ユーマはともかくアヤメと謁見しようってんだ。この程度の迎えは当然だろ」


 意外にもシェーラとダインがあっさりと乗り込む。

 二人ともこういうのは嫌いそうな気がしてたんだけどな。


 二人が乗り込んでしまうと、俺たちだけ歩くというわけにもいかない。

 俺とアヤメは顔を見合わせると、苦笑と共に乗り込んだ。

 ミリアさんは馬車内に入らず、御者のとなりに腰掛けた。


「皆さん乗りましたか? ではしゅっぱーつ!」


 馬がいななき、馬車が静かに動き出す。

 高級だからなのか、車内はまったく揺れることなく動きはじめた。


「そういえば服装とかってどうなってるんですか? 用意してくれるって話でしたけど」


「先に王宮へ運んでもらいました。客室を借りられるそうなので、そこで着替えてもらう予定です」


 うーん、さすが仕事が早い。王宮にまで顔が利くとか半端ないな。

 有能すぎていろんなことがミリアさんの思惑通りに進みすぎてる。

 このままだと本当に伝説の勇者にされかねないな。


 どこかで評判を下げておかないとな。

 なんて思いながら何気なく車内を見渡し、シェーラ、アヤメと視線を移してからダインを見た。

 ……うん、たぶんその必要はなさそうだな。


「おいユーマ、今思ったことをそのまま口に出していってみろ」


 ダインが剣の柄に手をかけながら凄絶な笑みを浮かべる。

 なんでそんなに勘がいいんだよ。

 野生の勘か? やっぱダインは人間じゃないんだな。きっとゴリラか何かが転生したんだろう。


 ちなみにこれから王宮に向かうんだが、剣だけは手放せないという理由で持ってきていた。

 頼むから王様の前で暴力沙汰とかだけは止めてくれよ。




 城に着くと、すぐに客室へと案内された。


「お召し物はあちらになります。時間になりましたらお呼びいたしますので、それまでおくつろぎください」


 案内してくれたメイドさんが、恭しく頭を下げる。

 シェーラはそのメイドさんを見て少し驚いていたようだったが、となりの部屋に案内されると、他の女性陣と一緒に大人しくついて行った。

 なので今は俺一人なのだが、めちゃくちゃ部屋が広い。


 さすが王宮。ゲスト一人のためだけにこんな部屋を用意するのか。

 とりあえずミリアさんが用意してくれたという服に着替えることにした。


 よくあるタキシードなんだが、鏡に立って見てみると、あれだな。全然似合わねえな。

 しばらく自分の姿を見ていた俺は、驚くべきことに気がついた。


「なんでサイズピッタリなんだ……」


 いったい、いつのまに計ったんだろうか。

 有能すぎて怖い。




 しばらくして部屋のドアがノックされた。


「もう着替え終わった?」


 シェーラの声だ。

 どうやら向こうも着替え終わったらしい。


「こっちはとっくに終わってるよ」


「そ、そう。じゃあ、開けるわね」


 妙に緊張した声を響かせ、やがてゆっくりと扉が開いた。


「ずいぶん着替えに時間が……」


 かかったんだな、と続けようとした言葉は、現れた姿を見て吹っ飛んでしまった。


 深紅のドレスは、まさにシェーラにピッタリで、大胆に開いた胸元にどうしても視線が吸い寄せられてしまう。

 薄く化粧もしているようで、普段とは変わりないはずのシェーラの顔が、とても大人びて見えた。

 いつもは腰まである髪をアップにまとめているため、のぞいた首もとから気品ある色気が醸し出されていて、正直たまらん。


 俺のじっと見つめる視線に、シェーラも頬を赤く染めて顔を逸らした。

「な、なに黙ってるのよ。何かいうことあるでしょ」


「いや、その、えっと」


 うまく言葉が出てこない。

 めちゃくちゃキレイだし、超かわいいと思うんだけど、それをそのまま言葉にするのはさすがに恥ずかしすぎる。


「まあ、なんだ。わ、悪くないと思う、ぞ?」


 なんだよその言い方、と自分でもあきれてしまう。

 シェーラの鋭い視線が飛んでくることも覚悟したんだが、意外にもそんなことはなかった。


「ふうん、そう………………」


 まんざらでもなさそうにつぶやく。

 とりあえず怒らせたわけじゃないようで良かった。

 ふたりして照れる後ろで、小さな影が現れる。


「あ、あの、ユーマ君。私も着替えたんだけど……どうかな……」


 もじもじと体を縮こまらせて後から入ってきたのは、アヤメだった。

 幼い彼女もまたシェーラのようにドレスで着飾っている。


「やっぱり私には、こういうの、似合わないよね……」


 恥ずかしそうにうつむく。

 そんなアヤメに、俺は心からいってやった。


「そんなことないぞ。すっげえかわいい」


「えっ」


 幼い顔が跳ね上がるように俺を見る。


「やっぱいつもとは違う服ってのは、それだけでかわいく見えるもんだよな。例えるなら、制服姿に見慣れてるヒロインがたまに見せる私服姿にグッとくるようなもんか。もちろん似合ってなきゃダメだけど、そのグリーンのドレスもいい感じだ。アヤメにはそういう落ち着いた色が似合うよな。正直、今のアヤメはめちゃくちゃかわいい」


「えっ、えっ」


「それでいて肩を出したりとさりげなく露出が上がってるところもポイント高い。髪型もいつもとは違ってて新鮮さがある。それに薄く口紅も塗ってるよな。そこだけピンポイントで大人びてるギャップについつい目を奪われて、なにかすごくいけないものを見ている気分になるというか。少女から大人に変わろうとする未成熟の色気というか、背徳感のようなものに思わず背中がゾクゾクと、……ん? どうした?」


 アヤメが真っ赤な顔で震えながら俺を見つめると、やがてその口をたどたどしく開いた。


「今日のユーマ君、ちょっと気持ち悪い……」


「ええっ!!?」


 思ったことをそのままいっただけなのに。

 まさかアヤメにそんなひどいこといわれるなんて。


「ずいぶんとたくさんほめてたけど、ユーマはアヤメちゃんのことをよーく見ているみたいねえ?」


 シェーラの鋭い瞳が俺を突き刺す。

 あれ? さっきまであんなに上機嫌だったのに、なんでもうマックスまでヘイトたまってるんですか?


「アヤメちゃんはずいぶんとかわいいみたいね?」


「そ、そりゃあ、その通りだからな……」


 何倍も美人になったシェーラにすごまれると、いつも以上に怖い。

 俺は思わず後ずさってしまう。


「ふうん。それで、あたしには他にいうことないのかしら?」


「い、いや……悪くない、ぞ?」


「………………ふ────────────ん」


「そんな納得したようにうなずきながら全力で頬をひねりあげるとレベルが上がったせいでステータス差が広がってるんだからちぎれるちぎれるって!」


 頬をひねりあげられる俺を見て、豪快な笑い声が響いた。


「オレの妹は世界一かわいいからな。おかしくなるのも仕方ないだろう」


 ダインの声だ。

 やばい。また暴力系ヒロインがきた。

 俺はなんとかシェーラの手を逃れようと身をよじり、その姿を目にしたとたんに硬直した。


 信じられないほどの美女がそこにいた。


 美少女を表す言葉としてよく「絶世の美女」なんていわれることがあるけど、正直それがどれくらいの美女かなんて、よくわからなかった。

 体感的には「マジすげーかわいい」をちょっとカッコつけた言葉で表現したようなものだ。

 とりあえず、すごい美女なんだろうと理解するにとどまっていた。


 だけど、目の前にいるダインは違った。

 鍛え抜かれた体にはいっさいの無駄がなく、意外に均整の取れたスタイルが美しいドレスによってさらに引き立てられている。

 そして前からわかってはいたが、顔つきはそこらの貴族も裸足で逃げ出すほどの美しさ。


 その美しさに圧倒される。本当にこの世の生き物なのかと疑うほどだ。

 いやいやマジで。こんな美しい生き物が存在していいの? ってレベル。

 それが、絶世といわれるほどの美女なんだろう。


「あ? どうした、そんな間抜けなつらして。潰れたカエルみてえな顔してんぞ」


 ……ほんとに、口さえ開かなければ超美人なんだがなあ。

 しかしまさかダインなんかに見とれていたなんて知られたら、なにをいわれるかわかったものじゃない。

 ここはスマートな対応で切り抜けないとな。


「ま、まあまあ、似合ってるんじゃないか?」


「……ちょっとユーマ? なんでそんなにデレデレしてるの?」


「ユーマ君は、お姉ちゃんみたいな人のほうが、好きなんですか……?」


 シェーラとアヤメに左右から責め立てられる。

 そんなこといわれてもなあ。


「ふふ、みなさんよく似合っておりますよ」


 部屋のすみに控えていたメイドさんが、控えめに笑みをこぼした。

 うっ……。今のを見られていたのは、なんかちょっと恥ずかしい。

 シェーラとアヤメも同じなのか、うつむきがちだった。


「それでは参りましょう。王様がお待ちです」


 メイドさんが扉を開けると、先導するように廊下を歩き始めた。

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新シリーズはじめました。
優しさしか取り柄がない僕だけど、幻の超レアモンスターを助けたら懐かれちゃったみたい
助けた美少女モンスターとのまったり日常二人旅(の予定)。こちらもよろしくお願いします。
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