7.王宮
サラがランサーを引き連れてどこかへと去っていった後、ミリアさんに宿の場所を聞いてさっそく部屋を取ってもらった。
ギルドのそばになんでもそろってるというだけあって、割とすぐ近くにある。
さすがにお金はもう十分にあるので、今回はシェーラとは別々の部屋になってしまった。残念。
部屋はそれなりに上等で、アインスの街よりかはだいぶキレイだ。
前のが悪かった訳じゃないんだが、さすが王都は都会だな。
部屋で適当に荷物をまとめると、ギルドの酒場に向かう。
そこで集合することになっていた。
明日の予定とか相談しないといけないからな。
酒場に着いたが、さすがにまだシェーラたちはいないようだ。
テーブルのひとつに座って待っていると、遅れてシェーラたちがやってきた。
「ずいぶん遅かったな」
「女の子は時間がかかるのよ」
そういうシェーラは鎧をはずした軽装の姿になっている。といってもそれ以外の違いなんてわからないんだが。
ダインはいつも通りだな。アヤメはローブ姿のまま変わらないように見える。
たぶんこの世界に化粧品なんてないんだろうし、違いといえば荷物を置いたくらいだろう。
……なにに時間がかかったんだろう?
シェーラたちが注文を取りに来たウェイトレスに飲み物を注文する。
シェーラとアヤメはブドウ水を頼んだ。
ブドウを絞って作ったブドウジュースみたいなものだ。甘くてさっぱりしており、価格も手ごろなので人気がある。王都ではどこの店にもある代表的な飲み物だ。
……という設定になっている。
別に王都がブドウの産地とかそういう訳じゃない。
単に俺が小説を書くときに適当なものを思いつかなかっただけだ。
確かブドウって育てるのが難しかったような?
気候が温暖で気候もそれなりに安定してないといけなかった気がする。
たしかヨーロッパ辺りがよく作ってるよな。ワインとかいっぱいあるくらいだし。
まあここの酒場でも普通に出てきたから、きっとこの辺の気候はブドウ栽培に向いてるんだろう。
ちなみにダインは当然のようにエールを注文していた。しかも大ジョッキだ。運ばれてきたジョッキが顔と同じくらいの大きさがある。
ダインが酒飲みという設定はしていなかったが、まあ酒に弱いわけがないよな。
アルコールごときに負けるようなヤワな鍛え方はしてない、とか平気でいいそうだ。
「つーか昼間っから酒とかどんだけおっさんなんだよ」
「なにいってんだ、こんなの水みたいなもんだろ」
そういって本当に水のようにグビグビと喉を鳴らす。
一息にジョッキの中を飲み干すと、そのままテーブルに叩きつけるような勢いでジョッキを置いた。
「かーっ! やっぱ王都のエールはうめえな!」
どう聞いてもおっさんだろこれ。
でも見た目だけは超美人なんだよなあ。
そのギャップがいいのか、周囲の冒険者たちがチラチラと盗み見ていた。
うらやましいだの、周りの女の子もかわいいだの、といった話し声が聞こえてくる。
ついでに俺に対する嫉妬の声も。
そりゃ俺だって毎日飲んだくれるだけの生活ならどんなにいいことか。
しかし実際には命がいくつあっても足りないような毎日だからな。
代われるものなら代わってくれよ。
しかしダインは実に美味そうにエールを飲むな。
本当に水みたいなものなのかな?
異世界ものだとこういうときに飲むのはエールってのが定番だから、俺もなんとなくエールを飲むって書いたんだけど、そもそもエールがなんなのかなんて考えたことなかったからな。
ひょっとしたら本当に水みたいなものなのかもしれない。
なので、追加で注文するダインのついでに、俺もエールを頼んでみた。
運ばれてきたのは、ジョッキの中に並々と注がれた黄色い液体。
しゅわしゅわと炭酸が弾け、水面は白い泡であふれている。
……うん。ビールだこれ。
キンキンに冷えてるわけでなく、ほとんど常温なのが日本のビールとの違いだろうか。
本場のドイツとかでは、ビールは冷えてるものじゃなくて、常温で飲むものだと聞いたことがあるけど。
まあ、あんな雪国でキンキンに冷やしたビールを飲むなんて自殺行為か。
さっそく一口飲んでみるが……。
……苦えぇ。
これ苦いだけで、美味さとかまったくわからん。
なんというか、サイダーから砂糖を抜いて苦みを足したような味だ。
よくよく考えてみれば、エールといわれてなんとなく思い浮かぶのはビールなんだから、ビールみたいな味がするのは当然じゃないか。
飲んだことはないが、苦いってよく聞くしな。そういう俺のイメージで苦い飲み物になるのは当然か。
「おいユーマ。飲まねえならオレがもらうぞ」
「いいよ。全部飲んでくれ」
俺の分と自分の二杯目もあわせて実に美味しそうに飲み干した。
俺にはわからないが、大人の味ってことだな。
……そういやダイン何歳って設定にしてたっけ?
……聞くのはやめとこう。
「明日は王宮に行く予定なんだから、あんまり酔っぱらわないでよね」
「オレを誰だと思ってるんだ。エールなんて何杯飲んでも酔っぱらわねえよ」
そう豪語して三杯目を注文する。
さすがにアヤメが少し心配そうな顔になった。
「お姉ちゃん、あまり飲み過ぎない方がいいんじゃ……」
「相変わらず心配性だな。最大で一日20杯までいけたことあるから平気だ」
水でもそんなに飲めねえよ。
どうなってんだダインの胃袋。
「大丈夫ならいいんだけどね」
シェーラが嘆息する。
「明日は十時に迎えの馬車が来ることになってるわ。それまでに用意しておいてよね」
ちなみにこっちの時間は日本と同じだ。
でも時計なんていう高価な物は貴族の家にしかない。
なので時間を計るには太陽の位置を見るか、日時計を立てることになっている。
さすがの俺だって、異世界に時計がないことくらいわかってるさ。
かといって時間がないと小説を書くうえで色々不便だからな。
だからそういうことにしておいた。もっとも、太陽の位置なんて見る人によって違うから、時間についてはアバウトだ。
迎えの馬車は十時にくるそうだが、正確には「だいたい十時の位置あたりに太陽が来たとき」である。
「王様のいるところって、やっぱりあのお城ですよね?」
アヤメが街の中央に目を向ける。
そこにはどこからでも見えるほど巨大な城が鎮座していた。
「あんなところに行くんですよね。なんだかもう緊張してきました……」
「あんなのは見かけだけだから、緊張しなくても平気よ」
「そういわれても……」
アヤメが困ったような笑みを浮かべる。
基本的には人見知りで、人混みも苦手だからな。
あんな大きい城に住むような偉い人と会うなんて、考えただけで緊張するんだろう。
ダインがそんなアヤメの頭を優しくなでる。
「変なやつがいたらオレがぶっ飛ばしてやるから気にするな」
「いやそっちの方が気になるんだけど」
ダインなら本当にやりかねないから怖い。
「ところで服とかはどうすんだ? オレはドレスなんて持ってないが」
「ミリアさんが用意してくれるっていってたぞ」
「なんだ、あんのかよ。面倒なんだよなあれ着るの」
ダインが悪態をつく。
俺もそこまで迷惑はかけられないと一度は断ったんだがな、これから伝説となる人たちがそんな格好で王様と会うなんてとんでもない、とかなんとかいわれて押し切られてしまった。
まあ、鎧が冒険者の正装とはいえ、この国で一番偉い人と会うんだ。
それなりの格好をするのも必要だろう。
とりあえず話はそういうことでまとまり、少し早い夕食をとるとその場で解散となった。
明日は王宮で王様と謁見である。
やっべ、さすがになんか緊張してきた。




