36.真実
「あーいてて……」
朝日を浴びながら、俺は痛む体をさすりながら歩いていた。
シェーラの魔法でぶっ飛ばされた俺は、そのまま街の中に墜落した。
ルビーの加護がなかったら今頃はまたベッドの上だったろう。
理由を知ったらさすがに今度はアヤメも治してくれないだろうな。
自業自得だからしかたないんだけどさ。
ちなみに部屋に戻ったら、当然のように鍵がかかっていて入れなかった。
しかたないので一階のソファで一晩過ごした後、俺はとある場所を目指していた。
ちなみに街を歩くあいだ、あちこちに泥酔して倒れている人がいた。
よっぽど大騒ぎだったらしいな。
さすがに1億を使い切ることはないと思うけど……。
……おっと、考えごとしてるあいだに着いたようだな。
足を止めると、目的地である魔術師ギルドへと入った。
中は相変わらず薄暗くて、人の気配がしない。
フォルテは……どうせまた寝てるんだろうな。
勝手に上がらせてもらおう。
「フォルテー。いるかー。入るぞー」
部屋に入ると、アルコールのにおいがあふれてきた。やっぱり飲んだくれていたらしい。
部屋の主は、ベッドから落ちて床を転がって移動した部屋の隅で眠りこけていた。
「おーいフォルテ、起きろ」
肩をゆすると、閉じた瞳が眠そうに開いた。
「んむぅ……? なぁにぃ……?」
「頼みたいことがあるんだ」
フォルテがのっそりと起きあがると、腕を伸ばして大あくびをする。
それからトロンとした目で俺を見つめた。
「あ~、ユーマくんじゃない~。昨晩はごちそうさまぁ」
「いえいえ、その様子なら楽しんでもらえたようで何よりです」
「えへへぇ~、お店にあるお酒を高い順に全部頼んじゃったからぁ、今とってもいい気持ちなのぉ~」
「本当に遠慮なく楽しんでくれやがったんですね」
思わず本音が混じってしまったが、フォルテのだらしない笑みは変わらなかった。
「それで~、今日はなんの用……あ、わたしが酔ってるところを襲おうってのねぇ。もう~、朝這いなんてダイタンなんだからぁ。でも許しちゃう。お姉さんずっと待ってたんだよ……?」
「いえ、今日は仕事を頼みたくてきたんですが……」
「ええ~、つまんな~い。仕事なんていいからぁ、お姉さんとイイコトしよぉ?」
甘えた瞳で見つめられて、おもわず意志が揺らいでしまう。
寝間着姿の薄い布がはだけて、色々とギリギリな状態になっている。
一瞬外から物音が聞こえた気がしたが、気のせいだよな。
ここにはフォルテ以外いるわけないんだし。
フォルテのしなやかな指が、俺の服を脱がしにかかる。
滑らかな肌が触れるだけで、全身が電流のような快感にしびれた。
それだけで理性が吹っ飛びそうになる。
このまま雰囲気に流されてしまおうか……と思いかけたが、そのせいで昨日ぶっ飛ばされたばっかりだからな。
鋼の意志でしなだれかかるフォルテを引きはがした。
「そういうのは、また今度お願いします。是非」
「ほんと~? 約束だよ~?」
「ええ、もちろん」
俺は力強くうなずいた。
昨日の今日で反省中でなかったら是非とも今すぐイイコトしたいところなんだが。
さすがの俺だって反省くらいするんだよ。
「うふふ~、それじゃ今日はガマンしようかなぁ。それでぇ、頼みたい仕事ってなぁに~?」
「テレポートをお願いしたいんです。魔王幹部のいた場所に、もう一度」
足下の魔法陣が輝く。
立ち上がった魔力が全身を包むのがわかった。
「本来テレポートの料金は高いんだけどぉ、お金持ちのユーマくんなら問題ないかぁ」
「いくらするんですか?」
「距離と人数によるけどぉ、これならだいたい100万くらいかな~」
うっ、そんなにするのか。
払えないことはないが、確かに高いな。
「でも特別にタダにしてあげちゃう~。昨日はいっぱいおごってもらったからぁ」
「ありがとうございます」
「気にしないで~。それ以上に飲ませてもらったからぁ」
「……え? いまなんて……」
「それじゃあ、れっつご~」
あふれ出した光が視界を白く染め上げる。
「……っていうかそれ以上ってどういうこと!? なに飲んだらそんなに行くの!? ドンペリなの!? この世界にもドンペリってあるの!?」
俺の叫びにも答える声はもちろんなかった。
途中で区切ったので、続けて更新します。