表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/120

33.宴会

 翌日、俺は冒険者ギルドへと向かっていた。

 もうしばらく安静が必要かと思ったんだが、アヤメの魔法のおかげか、だいぶ体力も回復していた。

 歩く分にはもうなにも問題ない。


 やっぱアヤメの魔法はすごいな。

 たった一晩でここまで回復するんだから。

 女神様がいないと知ったときはどうなるかと思ったけど、案外なんとかなりそうだな。


 ギルドに来たのは、もちろんクエスト達成報告のためだ。

 ギルドに入るなり周囲がざわつきはじめた。


「あいつが、あの……」「例のクエストをクリアしたらしいぞ……」「でも緋炎と竜殺しの力なんだろ……」「絶対手を組むことのないといわれた二人を従わせたんだ。それだけでもすげえだろ……」「どうせガセだろ……」「だけどこうしてクエスト報告に来たってことは……」


 なんかすっかり噂になってるな。


「そりゃね。百年以上も誰もクリアできなくて、存在しないとまでいわれてたクエストをクリアしたんだから」


 そういうもんか。

 主人公たちもこのクエストをクリアすることでトップランカーの仲間入りを果たすしな。

 受付へと向かうと、いつものお姉さんが笑顔で出迎えてくれた。


「あ、ユーマさんいらっしゃい! もうすっかり噂になってますよー。いよっ、有名人!」


 なんかいつもにましてテンション高いな。


「そりゃ当然! ユーマさんが来るのをずっと待ってたんですよ。お体はもういいんですか?」


「ええ、おかげさまですっかり回復しました」


「それはよかったです!」


 カウンターに乗り上げてずいっと近寄ってくる。


「ご用はもちろん、クエスト達成の報告ですよね?」


「確かにそうなんですけど、なんでそんなに有名になってるんですか」


「そりゃ、あんなに巨大な爆発が立て続けに起これば、誰だってなにかあったなって思うに決まってますよ」


 それもそうか。

 山を消し飛ばし、さらに大地を抉りとる攻撃を2発も打ったんだからな。

 余波がここにまで届いててもおかしくはないか。


「その直後に重傷のユーマさんやダインさんが運ばれてくるし、魔導師ギルドのフォルテさんもユーマさんたちをテレポートさせたっていうし、これはもうまちがいなしだって、わたしが言いふらしたんですよ!」


「あんたが原因じゃないか!」


 不思議でもなんでもない。

 噂の中心地がここなんだから、みんな知ってて当然だった。


「ではでは、冒険者カードをお預かりいたしますね!」


 預かるといっておきながらほとんど奪い取るように俺の手からカードを取った。

 ま、いいんだけどな。

 どうせクエストの達成報告をしに来たんだし。


 お姉さんがカードを機械に読み込ませる。

 そのあいだ、ギルド内が妙な緊張感に包まれていた。

 視線が一カ所に集中しているのを感じる。


 噂が本当かどうか見守っているんだろう。

 息をのむ音さえ聞こえそうなほどの静寂の中で、チェックを終えたお姉さんがにっこりと笑った。


「クエストの達成を確認しました。おめでとうございます! SSSランクミッション『魔王幹部討伐』達成でーす!!」


「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」」


 お姉さんの声と同時にギルド中が歓声に包まれた。


「マジかよ、本当にクリアしやがったのかよ!」「生きてるうちにこの日がくるなんて」「てか魔王幹部本当にいたのか」「宴だ、宴の準備だ! 街中に知らせろ!」


 口々に騒ぎ出す。さっそく何人かが外に飛び出していった。

 ギルド内がお祭り騒ぎとなる中で、お姉さんが受付を出てこちら側へ回ってきた。


「ああ、ついにこの日がくるなんて……」


 感慨深げにつぶやくと、古びた鍵を取り出した。

 それをギルドの隅にあった古い金庫に差し込む。

 重厚な扉の奥に隠されていたものを見て、ギルド内のざわめきが驚嘆のため息に変わった。


 中に入っていたのは、数えきれないほど大量の金貨。

 銅や銀ではない。

 黄金色の輝きが外にまであふれていた。


「いつかくるであろうクエスト達成の日のために、代々のギルド長や街の代表者が少しずつ貯め続けていたんです。百年前からずっとですからね。それはもう伝説として語り継がれるにふさわしい額ですよ」


 お姉さんがドヤ顔の笑みを向けてきた。


「これはすべてクリア者であるユーマ様のものです。さあお受け取りください! クエストクリア報酬、しめて1億ゴールド!!」


「い……いちおくううううううううううううううううううううっ!!?」


 俺の叫び声と周囲の叫び声が見事にシンクロした。

 この世界のお金は、わかりやすく1ゴールド1円で考えている。

 つまり一億円のクエスト報酬だ。


「あら、大金ね」


 シェーラが涼しい顔でつぶやく。

 金庫の中をのぞくと、いくつかの金貨を摘んだ。


「ふーん、本物みたいね。これなら1億ってのも本当かも」


 ……ってリアクション薄っ!


「おいシェーラ、1億だぞ1億! 1億っていくらかわかるか? 1億なんだぞ!?」


「誰でもわかるわよ。ユーマこそ落ちつきなさい」


 冷静にたしなめられて、俺も少し冷静になれた。


「そ、そうだな。少し興奮してしまった」


 深呼吸して落ち着きを取り戻す。

 考えてみれば主人公たちもクエストクリア報酬をもらっていた。

 といっても大量の金貨としか書かなくて、金額までは決めていなかったな。そうか、一億もあったのか。


「とりあえず、報酬は4人で山分けにしよう」


「いいの? ユーマがリーダーなんだから半分くらいもらってもいいのに」


「え? いいのか?」


 つい素で聞いてしまった。

 シェーラはあっさりとうなずいた。


「かまわないわよ。それくらいなら持ってるし」


「持ってるの!?」


「それなりに冒険者をしてれば、それくらいはね」


 マジかよ。一億だぞ。冒険者儲けすぎだろ。

 でもそういえば、オーガの群れを退治したときも300万くらいもらってたしな。

 日給300万とすれば、一ヶ月で9000万。……あ、億行くわ。


「いや、やっぱりちゃんとわけよう。リーダーっていっても俺一人じゃなにもできなかったし。こういうことははっきりしておいたほうがいい」


 お金が原因でサークルクラッシュしたなんて噂もよく聞くしな。


「ふーん。案外マジメなのね」


「案外ってなんだよ。俺はいつだってマジメだぞ」


「どうだか……。そういえばクエストをクリアしてるから経験値も結構もらってるはずでしょ。ついでに確認してもらったら」


「そういやそうだな。シェーラはレベルいくつになったんだ」


 クエストに行く前は確か50くらいだったはずだけど。


「今は158よ」


「高っ! 3倍じゃねえか」


 さすがアンデッドドラゴンにとどめを刺しただけはある。

 なにせラスボスクラスの強さだったからな。

 相当大量の経験値が入ったんだろう。


「ちなみにダインが139。アヤメちゃんが86よ」


「ダインはわかるけど、アヤメもそんなに上がったのか」


「あの戦いに参加しただけでもかなりの経験になってことでしょ。クエスト達成ボーナスに加えて、瀕死の重傷を何度も治してるし。アヤメちゃんだってがんばったのよ」


 それはもちろんわかってるよ。

「誰も死なない未来を作る」という目標において、ある意味一番貢献したのはアヤメだろう。

 アヤメの強力な治癒魔法がなければ、俺もダインもシェーラも、たぶん5回は死んでたはずだ。


 となれば俺だってそれなりの経験値をもらってるはずだろう。

 さっそくお姉さんに渡して確認してもらった。


「わわっ! やっぱり一気にレベルがあがりますね。どんどん上がって……上がって……えっと……これは………………」


 最初は無邪気に驚いていたお姉さんの顔が、しだいに無表情になっていく。

 やがて無言でカードを取ると、そのまま差し出してきた。


 え、なにその反応。ちょっと怖いんですけど。

 なんかバグでもあったの?


「ご自分の目でご確認ください」


 告げる声も固い。

 俺は緊張した手で受け取ると、渡されたカードを確認した。



【伊勢悠真 LV.999】



「レベルカンストしてるー!?」


「うわ……。まさかと思ったけど、ここまでになるなんて……」


 さすがのシェーラもとなりで驚いていた。。


「レベルがカンストしたということは、表示できるのがそこまでというだけで、実際にはもっと高いはずです」


 お姉さんが解説してくれる。

 まじかよ。まだ上があるのか。


「王都の冒険者ギルド本部で手続きをすればレベル上限解放ができますから、一度向かってみるといいかもですね」


 そういえばそんな設定もあったな。

 もっともレベル上限だけじゃなく、スキルレベル限界突破も本部でないとできないから、主にそっちで利用することが多かったんだけどな。


「それにしても、レベル上限なんて数百年ぶりですね。それこそ過去の大英雄アレキサンドロス以来じゃないでしょうか。魔王幹部を倒したんですからレベルが上がって当然なんですけど、ここまでなんて……。ユーマさんはいったいなにと戦ったんですか?」


 まじめな顔で聞いてくる。


「なにというか……エンシェントドラゴンだよ。ダインが探してた千年竜ってやつだ」


「数千年を生きた竜は人を超える知性を持つといいますが……。ひょっとすると神域に属する存在だったのかも」


 なに神域って。どこそれ。

 もう俺の知らない設定のオンパレードでもうどーにでもなーれーって感じだ。


「よくわからないんですけど、それってすごいんですか?」


 お姉さんが苦笑した。


「すごいもなにも……相手は神の眷属ですよ。それを倒したユーマさんは、神を超える存在ということです」


 なにそれすごい。

 ……ていうか凄すぎない? もう神殺しって。インフレにもほどがあるよ。

 俺たちの旅はまだはじまってもいなんですけど。


「いずれにしろ、私のほうで紹介状を書いておきますから、王都に行ったら是非冒険者ギルド本部へ行ってください」


「紹介状はありがたいんですけど、お姉さんって受付係の人なんじゃないんですか?」


 そんな人の紹介状でも効果があるものなんだろうか。

 疑問に思っていると、お姉さんがえっへんと胸をはった。


「こう見えても私、けっこう偉いんですよ」


 そうだっけ?

 設定上はただの受付係だったんだけど。


「そういえば自己紹介してなかったかもしれませんね。私はミリア=ウィドウ。冒険者ギルドの受付窓口係兼ギルド長です」


「けっこうじゃなくて一番偉い人だった!」


 でもそういえばギルド内で色々イベントが起きたけど、ミリアお姉さんしか出てこなかったな。

 他に職員は一人も出てこないんだから、ギルド長もお姉さんが兼任するしかないんだな。


年末なので連続更新してみました。

来年もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新シリーズはじめました。
優しさしか取り柄がない僕だけど、幻の超レアモンスターを助けたら懐かれちゃったみたい
助けた美少女モンスターとのまったり日常二人旅(の予定)。こちらもよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ