28.夢
闇に満たされた世界に俺は浮いていた。
暗くて遠い、閉じた世界だ。
わかっている。
ここは女神の世界。
かつては神が住み、今はもういない世界だ。
世界の中心には女の子がいた。
膝を抱え、自分の殻に閉じこもるようにして泣いている。
慰めようとしたが、この世界では近づけないし、離れることもできない。
声を出しても届かない。
それでも俺は言ってあげた。
大丈夫だ。安心しろ。世界は俺が守る。
女の子が顔を上げた。
涙に濡れた瞳がまっすぐに俺をみる。
その表情からは、なにを考えているかわからない。
わからないが、それでもきっと、俺が進もうとしている道と遠くないところにいるはずだ。
俺は力強くうなずいた。
世界を平和にしたその先にこの子の笑顔があるのなら、それはきっとこの子を救うことになる。
ちがったら、まあそのときはそのときだな。
世界を平和にした後でゆっくり考えればいいさ。
女の子はぼうっと俺を見ている。
前の時のようになにかを叫ぶことはなかった。
かたくなに自分の体を抱きしめていた腕から力がほどけた。
膝と体のあいだにはさまれていたものが見える。
それは一冊の本だった。
女の子は本を広げると、なにかを朗読しはじめた。
さすがに今度は唇の動きだけでは、内容はわからない。
長々となにかを読み上げ続ける。
声は響かない。
だけどなにかが満たされていくのを感じた。
同時に世界を光が包む。
白く、白く、世界が光に満たされていく。
どこかでなにかの音が聞こえた。
歯車のかみ合う音。
あるいは回り出すような音だ。
女の子の目が再び俺をみた。
もう涙は浮かんでいなかった。
口元をゆるめ、ほんのわずかにほほえんで見せた──
二回にわけました。次は13時に更新します。