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26.天撃

 立ち上がったアンデッドドラゴンを呆然と見上げた。


「……おいおい、こんなに強くした覚えないんだけど……」


「ゆ、ユーマ君……」


 アヤメが声を震わせる。

 しかし俺にもどうすることもできない。


 強い、なんて次元を超えすぎている。

 いくらアンデッドドラゴンが強いとはいえ、ちゃんと倒せる相手だ。

 すくなくとも主人公たちは犠牲を出しながらも最終的には倒している。


 なにかがおかしい。

 なにかが狂いはじめている。

 ここは本当に、俺が書いた小説の中なのか?


「ねえユーマ。これ本当にアンデッドドラゴンなの?」


 となりに立ったシェーラがたずねてくる。


「……よかった。無事だったんだな」


「無事、とはいえないわね。ダインみたいに強化しまくってるわけじゃないから」


 見れば所々に血がにじんでいる。

 とはいえかすり傷だ。治癒が必要なケガには見えない。


「とっさの防御結界が間に合わなければ危なかったわね」


「あの一撃を受けてその軽傷なら、大抵の人は無事だっていうだろうな」


「それより、あれよ。アンデッドドラゴンと戦うのは初めてだけど、いくら何でも強すぎじゃない」


「そうなんだが……」


 じゃあ何なのかと言われても答えようがない。

 少なくとも見た目はアンデッド化したドラゴンだ。


 頭部を失ったアンデッドドラゴンはそれでも首を回して俺たちの姿を探していたが、さすがに見つけられないようだ。

 おかげで今はまだ助かってるけど、こいつが俺たちを発見したらすぐさま攻撃してくるだろう。


 はっきりいって、今が最後のチャンスだ。

 ここで倒せなかったら、もうどうしようもない。


 でも、じゃあダインの一撃でも倒せない相手にどんな攻撃が有効なのか。

 少なくとも俺の攻撃じゃかすり傷にもなんないんだろうなあ。


「シェーラさん、どうにかしてこいつを倒す方法知りませんか」


「うーん、あるにはあるわよ」


「ですよねー。やっぱり……え? あるの?」


 神殺しの一撃でも死ななかったのに。


「念のためにどんな方法か聞いてもいいか?」


「簡単よ。神を殺す一撃でも倒せないなら、神を超える存在による一撃を当てればいいだけよ」


 だけよってそんな簡単に言われても。

 なんかシェーラの思考もダインに毒されてる気がする。


 俺が呆れるあいだに、アンデッドドラゴンがあきらめたように動きを止め、首元に力を入れる。

 肉が盛り上がり、失った頭部が瞬く間に再生した。


 早いなんてもんじゃない。

 アヤメの治癒魔法でもここまでじゃないだろう。

 まるで逆再生した映像を見せられているようだった。


 再生した頭部が俺とシェーラを捉える。

 その目が紅い光を宿していた。


「あ」


 その瞬間に気づいた。


「ちがう。こいつはアンデッドドラゴンじゃない」


「どういうことよ。ユーマの推理がまちがってたっての?」


「そうじゃない……」


 そもそも推理もなにもない。

 アンデッドドラゴンがアンデッドドラゴンであるのは、俺が小説でそう設定したからだ。

 理由なんて後付けにすぎない。


 だからまちがうわけがなかった。

 でも、設定に矛盾があったとき、世界の方から後付けで設定が追加されたり、矛盾が生じない程度に改変される。

 それはすでに経験したとおりだ。


 そして俺の設定にも一部に矛盾があった。

 矛盾というよりは、設定の詰めが甘かったというべきか。


 辺り一帯の魔物をアンデッド化させるほどの強大な障気を放つ存在。

 その存在が竜であるところまではよかった。

 でもそもそもそのアンデッド自体が、強大な不死者である必要もあったんだ。


 ドラゴンの目が赤く光る。

 血のように紅く美しい王族の色。


「ノーブルレッド……。こいつは、ヴァンパイア・ドラゴンだ」


 ヴァンパイアも不死者であるからカテゴリはアンデッドには違いないんだろうけど、アンデッドといわれて思い浮かべるゾンビのようなものとはまったく別物だ。


 通常の吸血鬼は朝日に弱く、浴びるだけで消滅するが、彼らノーブルレッドは日の下でも普段通りに活動できる。

 不死者たちの王。夜の貴族。オールド・ワン。

 様々な呼び名を持つ彼らは、並外れた魔力と、灰の状態からでも復活する再生能力を併せ持つ。


 ヴァンパイア・ドラゴンが首をもたげる。

 消し飛んだはずの半身はすでにほとんど再生していた。

 ただのアンデッドならありえないが、ヴァンパイアなら不思議でもなんでもない。


 灰からでも再生する彼らなら、粉々にされたって問題ないだろうし、聖属性にも耐性があるからアヤメの浄化魔法が効かなかったのも当然だ。


 なによりも問題なのは、今が昼間だということ。

 日の下でも活動できるとはいえ、本来の力が出るわけではない。

 彼らの本領は夜。


 つまり、今の状態でも本来の実力ではないということだ。


 夜になれば今以上の力を発揮することになる。

 冗談じゃない。

 今でも十分すぎるくらいにパワーバランス崩壊しまくってるのに、これ以上強くなったらこの世界そのものを破壊するくらいの攻撃でないと倒せないんじゃないか。


「つまり、今ここで倒すしかないってことね」


 絶望的状況に関わらず、シェーラの口には笑みが浮かんでいた。


「この魔法、使う機会なんて一生ないと思ってたけど、わからないものね」


 感慨深げにつぶやいた。

 ……ものすごく嫌な予感がする。


「そういえば答えを聞いてなかった。なにをするつもりなんだ」


「悪いけど本当に手加減できないから、今すぐ離れてちょうだい」


 答えるかわりにそういうと、祈るように目を閉じた。

 薄く開いた唇から流れるのは、歌うような旋律の声。


「──我願うは炎帝の慈悲──」


「……──ッ! そ、その呪文は……!」


 シェーラの周囲で魔力が渦巻く。

 緋色の髪が舞い踊るようにざわめいた。


「──我誘うは炎獄の死鬼──」


 荒れ狂う魔力が光を帯び、空へと立ち昇っていく。

 立ち昇った光は横へと広がり、巨大な文様を描き出す。

 光にとらわれたヴァンパイア・ドラゴンが浮き上がった。


 ドラゴンが逃れようと暴れるが、宙に浮いたまま動くことはない。

 この光に囚われた者は、たとえ神だろうと決して逃れられない。


 おいおいおいおい、マジかよ。

 これラスボスを倒すために使った魔法じゃねーか!


「アヤメ、今すぐ逃げろ!」


「えっ?」


 ダインに治癒魔法をかけていたアヤメが戸惑うように振り返る。


「逃げるって、でも、どこに……」


 ここは山の中に作られた空洞だ。

 周囲は壁に囲まれている。


「……くそっ!」


 アヤメとダインを両腕に抱えると、神殺しの一撃で吹き飛ばされた壁に向かってかけだした。


「──我請うは拝謁の秘儀──」


 空が光を放つ。

 見上げた空一面を覆い尽くすほどの超大規模魔法陣が展開していた。


 シェーラが開幕に放った「フィアフルフレア」は小型の魔法陣を描き出したが、それでも隕石程度の威力があった。

 その何十倍、あるいは何百倍という大きさがある。


 それが縦に何重にも並んでいた。


 そこから放たれる威力がどれだけの物なのか。

 ……考えたくもないな。

 わかるのは、逃げなければただでは済まないということだ。


「うおおおおおおおおおおおおっ! まにあええええええええええええええええええええええええええええっ!」


 身体狂化の力をフルに使って全力で走る。

 竜にとっては狭くても、人間にとっては十分に広い。


 空の魔法陣が高速で回転する。

 流れる文字が輝きとなり、光の声が辺りを照らす。

 人の身では発音できない神の御言葉で満たされる。


 消し飛ばされた壁面から飛び降りるのと、シェーラの声が響くのは同時だった。


「──我堕とすは天命の一撃!」



 その魔法は炎熱系最強といわれるが、カテゴリは「召喚魔法」になる。


 通常の魔法が人の魔力を使って何らかの現象を起こすものだとしたら、召喚魔法は人の魔力を使って何らかの物を呼び出す魔法だ。


 呼び出すのは普通は生物だろう。

 魔獣とか、竜とかが定番だろうし、誰だってそういうものを想像するはずだ。

 しかしとある昔、どこかの誰かがもっと別の方法を思いついた。


 人には喚び出すどころか存在を感じることさえ許されない高位の存在でも、その力の一端だけなら垣間見ることが許されるのではないか。


 かくしてその「召喚魔法」は完成する。

 ダインの一撃をも超える魔力を使って喚び出すのは、神を超える存在によるたったの一撃。

 とある国の王族にのみ伝えられる人の身を超えた禁呪。


「顕現せよ! <デミウルゴス>!!」


 幾重にも重ねられた魔法陣から現れたのは、小指の先ほどの小さな火。

 それがふわりと蝶のように舞い降り──



 ──……ッッッドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッッ!!!



 大地をめくり上げるほどの大爆発が轟いた。

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新シリーズはじめました。
優しさしか取り柄がない僕だけど、幻の超レアモンスターを助けたら懐かれちゃったみたい
助けた美少女モンスターとのまったり日常二人旅(の予定)。こちらもよろしくお願いします。
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