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24.開戦

 切り立つ岩山の周囲を歩いて上り道を発見する。

 崖を切り崩したような道を延々と登っていくと、やがて頂上が見えてきた。


「疲れた……1時間近くも坂道を歩くことになるとは……」


 先に説明しておきたいからとテレポート先を頂上ではなくふもとにしたんだが、失敗だったな。

 まさかこんなに高いとは。


「鍛え方が足りないからよ」


「シェーラは普通の身体強化があるからだろ」


 ダインの身体狂化は瞬間的にステータスを上げるスキルなので、長続きしない。


「身体強化はステータスを上げるだけで、体力まで増やすわけじゃない。この程度で疲れるのはお前の鍛え方が足りないからだ」


 シェーラとダインにダメ出しされる。

 まあ、否定はできないよな。

 なにしろほんの数日前まで立派な半引きこもりだったんだから。


 ポケモン捕まえるためにちょろっと外に出るくらいですぐへばる体力のなさだ。

 まじめに筋トレを考えた方がいいかもなあ。


 そうこうするうちに道は終わりを迎え、開けた場所に出た。


「おっと、その前にこれを渡しておく」


 鞄の中から薬を取り出した。


「対アンデッド用のポーションだ。飲めば5分はアンデッドからの攻撃を受け付けなくなり、こちらからの攻撃は威力が倍になる。昨日のうちにアヤメに言って作ってもらっといたんだ」


「用意がいいじゃない」


「そりゃ相手は魔王軍幹部といわれるほどだからな。準備は万全にするべきだろ」


「上手く出来てるといいんですけど……」


 心配そうにアヤメがつぶやくが、効果は昨日の時点で確認してあるから問題ない。

 本来なら戦いの中でドラゴンの正体に気づいたアヤメがひとつだけ作り出す高度な聖水だが、こっちは最初から正体を知ってるからな。

 とりあえず20個ほど作っといた。これだけあれば足りるだろう。


 シェーラに渡し、それからダインにも手渡す。


 小説では、この戦いのラストでダインが命を落とす。

 それはアンデッドドラゴンが死ぬ間際に放った最期の大技によるものだ。

 いくら身体強化をしまくっていても、すべてを腐らせる闇属性の一撃を食らえば、肉体の前に魂が耐えられない。


 唯一アヤメのポーションを飲んでいた主人公だけが助かったんだ。

 つまりアヤメのポーションさえ飲んでいれば、ダインが死ぬこともない、ということだ。

 ポーションを受け取ったダインが、一瞬だけ笑みを見せた気がした。


「よけいなことをしやがって」


 そう言いながらも差し出したポーションを受け取ると、一息に飲み干した。


「ふん。不味いな」


「ごめんなさいお姉ちゃん。がんばって作ったんだけど、味までは気にする余裕がなくて……」


「なにいってるんだアヤメが作ったものなら何でも美味いに決まってるだろ」


 さらりと真逆のことを言い放った。

 俺との態度ちがいすぎませんかね。

 もうちょっとくらい優しくしてくれてもいいんですよ?


 とりあえずこれで必要な準備は整った。

 あらためて周囲を見渡してみる。


 岩山の頂上は思ったよりも広かった。

 ちょっとした運動場くらいはあるんじゃないかこれ。

 考えてみれば、ここでアンデッドドラゴンとバトルをするんだから、ある程度の広さはないと困るのか。


 木々などの植物はなにもない。

 一面がむき出しの地面になっていて、隠れられそうな岩もなかった。

 空は快晴。日差しが強く降り注ぎ、抜けるような青さに手が届きそうなほど。


「ここに魔王軍の幹部が……アンデッド化したドラゴンがいるのよね」


 シェーラが油断なく剣を構える。

 ダインも口元に笑みを浮かべ、背中の竜殺しに手をかけた。


「いつでもいいぜ。叩き斬ってやる」


「ここにいるのはまちがいないはずなんだが……」


 頂上に隠れられるようなものはなく、アンデッドドラゴンの巨体はどこにも見えない。

 いったいどこに……と思ったそのとき、地面が揺れた。


 地震か、とも思ったが、それにしては揺れが不規則だ。

 何者かが地面を叩いているような、そんな生物的なものを感じる。

 そのとき、地面を割って巨大な顎が現れた。


「ぎぃぃぃぃぃぃぃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 金属を引きちぎるような咆哮が響く。

 降り注ぐ岩山の欠片をかわしながら、俺は納得していた。


 ドラゴンは山の頂上にいる。

 だけど外から見てもなにもいない。

 だとしたら山の中に隠れてるしかない。


 見事な三段論法だ。

 俺の書いたいい加減なシーンでも案外なんとかなるもんだな。


 現れたのは真っ黒な体躯のドラゴンだった。

 巨大な二本の前足が地面をつかむと、その巨体を引きずり出す。

 体長は、ざっとみただけでも10メートル以上はありそうだ。


 光を映さない濁った目が俺たちを見据えると、威嚇するように再び吠えた。

 金属質の声が耳をつんざく中で、まず最初にシェーラが動く。


「悪いけど、最初から全力全開で行くわよ!」


 空に剣をのばす。

 緋色の目が赤い輝きを灯し、魔力を受けた美しい髪がひとりでに浮き上がる。

 空に無数の小型魔法陣が現れた。


 ……って、あの魔法はまさか!


「フィアフルフレア!」


 無数の火炎弾が降り注ぐ。

 ひとつひとつが小型の隕石に匹敵する威力を持つといわれる、爆炎系最強クラスの広域殲滅魔法だ。

 轟音と衝撃が山の頂上を容赦なく削り取る。


 こりゃ冗談抜きで地形が変わるぞ!


 爆風で吹き飛ばされそうになるのをかろうじてこらえる。

 よろめいたアヤメを支えるように抱き寄せると、目の前に長身の影が立ちはだかった。


「アヤメを助けたことに免じてその肌に触れた罪は不問としてやろう!」


 ダインが爆音に負けない声で叫ぶ。

 同時に火炎弾による衝撃が途絶えた。


 見れば襲い来る衝撃はすべてダインに周囲に展開する光の盾に弾かれていた。

 どうやら魔法反射スキル「リフレクション」で俺たちごと守ってくれたみたいだな。


 広域殲滅魔法は、文字通り広範囲を一斉に攻撃する。

 たった一匹を相手にするには攻撃範囲が広すぎるが、巨体のアンデッドドラゴンはそのほとんどを体に受けることになった。


 さすがの竜鱗も小型の隕石までは防げないらしい。

 腐りかけた顎からアンデッド特有の不快な叫び声が響く。


「アヤメ!」


 ダインが竜殺しを真横にのばして叫ぶ。


「は、はいっ!」


 アヤメも慌てて立ち上がり、手を伸ばした。


「『ホーリーグレイス』!」


 ダインの剣が白い清浄な光に包まれる。

 対象の武器に聖属性を付与する魔法だ。


「シェーラにばかりいいところを持ってかれるかよ!」


 ダインの長身が跳躍する。

 リフレクションで守られているのをいいことに、未だ爆炎の降り注ぐ中を強引に突き進んでいった。


「ダイン! 狙うなら頭を狙え! アンデッドでも頭部を破壊されれば活動が止まるし、たとえ倒せなくても動きがだいぶ鈍るはずだ!」


「いいだろう! その手に乗ってやる!」


 ドラゴンの背中に乗って頭部まで駆け上がると、いつもは片手で振り回す竜殺しを、両手で天高くに振り上げた。


「こっちも出し惜しみなしだ、一撃で死ね!! 『グレイブバスター』!!」


 白い光を帯びた一撃は、まるで流星のような光の尾を引いてアンデッドドラゴンの頭蓋を粉砕した。

 首から上が爆散して弾け飛ぶ。


 なるほどこれが「並の攻撃がダメなら、並じゃない攻撃をぶち当てればいい」か。

 なんつー威力だよ。あらゆる攻撃を防ぐはずの竜の鱗が粉々に砕かれてるじゃねーか。

 小型の隕石より強い一撃ってどんだけだよ。


 首から上を失ったドラゴンは本来ならすぐに再生するはずだったが、白い光に浸食されて逆にどんどん崩れ落ちていった。


「はっ、これで終わりか。あっけなかったな。まあ勝負はオレの勝ちってことだ」


「あたしが先に弱らせておいたからでしょ。つまりあたしが倒したも同然。最後にちょっとだけ出てきてでかい顔しないでよね」


「あ? オレの一撃がトドメだろうが。あんな弱い攻撃じゃ注意を引きつけるくらいの役にしか立たないんだから、役に立ててよかったな」


「二人とも、まだだ! 気をつけろ!」


 俺の声に、シェーラとダインが弾かれたように飛び退く。

 直後に、アンデッドドラゴンの巨大な前足が二人のいた大地を叩き割った。

 大地が水面のように波打ち、亀裂が走る。


 元々シェーラの無差別攻撃のせいでもろくなっていた地面が、最後の一押しによって崩壊した。

 崩れた地面の下にあるのは、ドラゴンが隠れ潜んでいた巨大な空洞。


「きゃああああああああああっ!」


 アヤメの悲鳴が響き渡る。

 俺たちはなすすべなく落下していった。

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新シリーズはじめました。
優しさしか取り柄がない僕だけど、幻の超レアモンスターを助けたら懐かれちゃったみたい
助けた美少女モンスターとのまったり日常二人旅(の予定)。こちらもよろしくお願いします。
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