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19.武器屋

「本当に武器屋にきたよ……」


 あんなこと言ったのは実は照れ隠しで、本当はデートがしたかっただけ……なんてラブコメな展開なんてまったくなく俺はダインと武器屋にきていた。

 無口な店主は女連れで入ってきた俺に鋭い視線を向けたが、その相手がダインだとわかるとすぐ元の無表情に戻った。

 さすがにダインは一目置かれているらしい。


 ダインは迷うことなくまっすぐに店主のいるカウンターへと向かった。

 背中のドラゴンスレイヤーを引き抜き、カウンターに置く。


「手入れをしてほしい。今日中に頼む」


 片手で置かれた馬鹿でかい剣を、店主のおっさんは両手で抱えるように持ち上げた。

 刀身を持ち上げ、刃のこぼれなどを確認する。


「あまり使ってないように見えるな」


「明日はでかいクエストがある。万全を期しておきたい」


「いいだろう。今日中となると刃を研ぐくらいしかできないがいいか」


「それでいい。頼む」


「そっちの坊主はどうする」


 一瞬誰のことかわからなかったが、店内にはダインの他には俺しかいないから、俺のことなんだろうな。

 腰の剣を抜き取ると、店主に差し出した。


「せっかくなんで俺のもお願いします」


 店主は無言で受け取ると鞘から引き抜いた。

 刀身を様々な角度から眺め、剣の腹を軽くたたいて音を響かせる。

 店主の目がわずかに見開いた。


「粘り気のあるいい鉄だ。これは、鋼か?」


「ええと、たぶん?」


 剣の材質までは知らない。設定もしていない。

 でも剣の作り方と聞いて思い浮かべるものは、砂鉄を集めて溶かしてカーンカーンと打つあの鍛冶の場面だ。


 日本の砂鉄を集めて鋳錬する方法は、非常に質のいい鋼を作ると聞いたことがある。

 日本刀は芸術品としても評価が高いくらいだしな。

 そんな俺が想像したんだから、剣もそうやって作られたものなんだろう。


 俺の持つ剣自体はわずかに反りがあり、刀身には波紋もある。

 うん。よく見ればこれ日本刀に近いな。

 柄の部分だけがなんというかこう、ロングソードって感じのあれになってるだけだ。


「ふむ。刃こぼれも見あたらないし、刀身の歪みもない。手入れの必要はほとんどないな。美しい剣だ」


「たぶんそれ剣じゃなくて刀ですね」


 剣と刀の違いは、大まかにいうと用途の違いにあるらしい。

 剣は相手にたたきつけて鎧や盾ごと相手を倒すための武器だが、刀は鎧の隙間から相手を切るため武器、とかなんとか。昔なにかで読んだことがある。

 だからより鋭く美しく精錬されていったらしい。


「カタナ……? なるほど、噂には聞いていたが、これが……」


 興味深そうに眺めている。

 無愛想な人だと思ってたけど、こういうものには興味があるみたいだな。なんか職人って感じだ。


 そういや小説では一言もしゃべらなかったもんな。

 無口な設定だったとかじゃなくて、単に出番がなかっただけなんだけど。


 やがて店主は竜殺しと俺の剣を持って店の奥に消えていった。

 そういや剣の名前決めてなかったな。

 なにかカッコいい名前をつけたいよな。「カシナート」とかにでもしとこうか。


 店主もいなくなったので店の中を見て回ることにする。

 色々な武器があったが、俺にはルビーの剣があるから必要ないんだよな。

 武器屋だが盾などの防具類もあるにはあるんだが、こんなのをつけて動き回れる気がしないしな。俺には必要のないものだろう。


 それにしても、ダインはいったい何のために俺を連れてきたんだ。

 まさか武器屋巡りがダインにとってのデート、なんてことはないよな。

 そう思っていたところ、ダインの方から近づいてきた。


「その剣はどこで手に入れたんだ?」


 ダインが聞いてきたが、俺は首を振った。


「詳しくは知らない。俺が『漂流者』だって話はしたよな。こっちにきたときに最初から持ってたんだ」


 小説じゃ女神様が主人公に世界を救ってもらうために与えたチートアイテムってことになってるが、そもそもこの世界には女神様がいないからな。

 ほんとどこからきたんだろ。


「なるほど。それでか」


 ダインが一人で納得している。


「その柄にはめられているルビーも普通のものじゃないな」


「よくわかったな。こいつは加護のルビーといって持ち主を一日に一度だけ守ってくれるんだ」


「鋼で作られた名刀に、持ち主を守る強力なマジックアイテム。そんなものが理由もなく与えられるなんて聞いたことがない。お前はいったい何者なんだ」


 何者、といわれてもな。


「ただの『漂流者』だよ」


 その説明ではダインは納得しなかったようだ。


「オーガは強い。ただの漂流者が殴ってよろめかせるなどありえないことだ。だがお前は実際に素手で殴り、オーガをよろめかせた。

 あのシェーラと組んでいるのだから、実は実力を隠しているだけなのかと思ったが、何度か殺気を送ってみたが反応はない」


 なんかちらちらこっちを見てるなと思ったらそんな理由だったのか!

 本当に甘酸っぱいラブコメとは無縁なやつだな。


「お前は普通の冒険者だ。しかしその強さやアイテムは説明が付かない。お前はいったい、何者なんだ?」


 なるほど。

 武器屋に連れてきたのは、それが聞きたかったからか。


「何者ということもないよ。『漂流者』は特別な力を持っていることがあるというのは聞いたことがあるよな?

 俺にもそれがある。「ラーニング」っていって、相手のスキルで攻撃されると、そのスキルを取得可能になるんだよ。オーガを素手で殴れたのも、ダインの『身体狂化』をラーニングしていたからだ」


 その説明にダインが驚愕の表情を浮かべる。


「他人のスキルを修得する? そんな強力な能力、聞いたことがないが……」


「本当だよ。ほら」


 証拠に冒険者カードを渡す。

 そこに書かれた「身体狂化Lv.21」を見て、ダインの顔色が変わった。


「確かにこれはオレのスキルだ……。それに他の必須スキルがないのも説明が付かない……」


 ダインはぶつぶつとなにやら独り言をもらしたあと、不意に顔を上げた。


「ちょっと腹に力を入れろ」


「えっ」


 いきなり言われても訳が分からないが、俺の第六感が反射的に腹筋に力を込めた。

 直後。


「はぁっ!」


 ダインの拳が俺の腹に突き刺さった。

 攻撃する瞬間がまったく見えないまま、腹部に衝撃が走る。


 が、まったく痛くない。

 見ればダインの拳は俺の肌に触れるギリギリのところで寸止めされていた。


「本気で殴りはしない。弱い者イジメの趣味はないんでな」


 あ、はい。そうすか。じゃあ何でいきなり殴られたんですかね。


「お前の言ってたことが本当かどうか確かめただけだ」


 そういって冒険者カードを返してくる。

 そこには新しく取得可能スキルが追加されていた。


【格闘スキル 疾風突きLv.12】


「今オレが使ったスキルだ。目にもとまらない早さの突きを繰り出す格闘家のスキル。さっきまでのお前の取得可能スキルにはなかったが、オレが使ったことで追加された。お前の言ってたことは本当のようだな」


 そういうと、オレにまっすぐな視線を向けた。


「お前は、オレのパーティーに入る気はないか」

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新シリーズはじめました。
優しさしか取り柄がない僕だけど、幻の超レアモンスターを助けたら懐かれちゃったみたい
助けた美少女モンスターとのまったり日常二人旅(の予定)。こちらもよろしくお願いします。
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