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18.休憩

 ギルドに戻ると、クエストを完了させたことはさっそく知られているようだった。


「無事隊商のみなさんを救出できたようですね」


 受付のお姉さんがにこやかに出迎えてくれる。


「ええ、おかげさまで。といってもほとんどはシェーラとダインが倒したんですけどね。回復はアヤメに任せっきりだったし」


「あら、ユーマ様もご活躍されたと聞いてますよ」


 そんなことをいって持ち上げてくれるあたり、このひともいい人だな。

 俺なんて本当になにもしてないし。


「そんなことないよっ」


 そばで聞いていたアヤメが声を上げてくれる。


「ユーマ君は一生懸命走ってくれたし、襲われそうになった人を助けたりしたじゃない」


「そうね。それにアンデッドオーガにもいち早く気づいたしね」


 シェーラまでフォローしてくれる。


「ふふっ。ほら、みなさんもそうおっしゃっていますよ」


 うーん、本当に大したことはしてないと思うんだけどな。

 どうにもこそばゆいというか、気恥ずかしいというか。


「ではこれはクエストの報酬です」


 そういって渡された金額を見て、俺は驚いた。


「300万ゴールド!? こんなにですか……!?」


 この世界では1ゴールドが1円の価値を持つ。そのほうがわかりやすいからな。

 つまりさっきのクエストで300万円ももらえた計算だ。


「あの隊商は王都でも有数の商人でして、報酬の方もそれだけ奮発してくれたんですよ。

 それに、今用意できるのがこれだけだったということで、後ほど追加報酬もあるといってました」


 300万も払っておいて、さらに追加まであるだと……?


「みなさんの活躍に感謝し、次の依頼も頼みたいといっていました。これはそのお近づきの印、という意味もあるんですよ」


 なるほど。

 そりゃこの世界でも有数の高レベル冒険者が二人もいるんだからな。

 恩を売っておくのも悪くはないのか。


「そもそも『緋炎』のシェーラさんと、『竜殺し』のダインさんの二人がいるわけですから、安すぎるくらいですよ。お二人のレベルの冒険者を雇おうと思ったら、その十倍は必要ですね」


 さんぜんまんえん!


 おお……、すごい世界だな……。

 とはいえ命がけの職業でもあるんだしな。

 300万で命捨てられますか、と聞かれたら、そりゃうなずけない。


 そう考えれば妥当な金額ともいえるわけか。

 ま、お金はあって困るものでもないし、この先も色々と必要になる。

 ありがたくもらっておくことにしようか。




 ギルドを出ると昼を少し過ぎたところだった。


「ちょうど運動したあとでおなかも空いてるし、お昼にしましょうか」


 シェーラがそんなことをいう。

 それ自体には賛成なんだが。


「飯っていうと、あの宿屋兼食堂で食べるのか?」


「そうだけど、なにか問題でもあるの?」


 問題っていうか、味が薄すぎるのがなあ。

 決して不味いわけじゃないんだけど、美味いわけでもないというか。


「近くにいい店があるから、今日はそっちに行かないか」




 アインスの街は王都から離れているため田舎といわれているが、決して狭いわけではない。

 むしろこのあたりでは広い方だといえるだろう。


 大通りから少しはずれると、人気の少ない道に入る。

 そこをどんどん奥へと進んでいった。


「本当にこんなところに店なんてあるの?」


 あとをついてくるシェーラが疑問の声を上げる。


「心配するなって」


 街並みを実際にこの目で見るのは初めてだが、それでも行き方はわかる。

 武器屋の正面にある裏路地に入り、右に二回、左に一回曲がった先にその店はある。


「あ、ひょっとしてこの先って……」


 さすがに読者のアヤメは気づいたようだな。


 最後の曲がり角を曲がると、目印になっている赤いサンルーフが見えてきた。

 近づいてみたが、看板もなにもない。

 扉に小さく店の名前らしきプレートがはられているだけだ。


「本当にここなの?」


「オレの妹をこんな暗がりにまで連れ込んでおいてウソだったら承知しないぞ」


 シェーラとダインが未だに疑っている。

 まあしょうがないよな。


 外装は周りの建物と同じでなんの特徴もないし、唯一の窓にはカーテンが掛かっていて中は見えない。

 赤いサンルーフだけがたったひとつの目印になっていたが、これだってそういう家だっていわれればそうにしか見えない。

 俺でもこれだけを見たらここが店だってわからなかっただろう。


「大丈夫だ。ここでまちがいない」


 扉を開けて中にはいる。

 くくりつけられていたベルが軽やかな音を響かせた。


 飛び込んできたのは小ぎれいな内装の店だった。

 輝くようなスマイルを浮かべた女の子がやってくる。


「いらっしゃいませー! ここはレストランで食事を提供してますけど、それでよろしかったですか?」


「ここがレストランだと確認してくるレストランなんて初めてなんだけど」


「ほら、ここって看板とかないからわかりにくいじゃないですか。だからたまにまちがえて入ってくるお客様もいるんですよ」


 ウェイトレスの女の子がすかさずフォローする。


「一応自覚はあったんだな」


「まあ、わざとそうしてますからねー。それでは四名様でお食事ということでいいですか?」


「ああ、頼むよ」


「ではこちらへどうぞー!」


 うなずくと、元気よく奥の席へ案内してくれた。

 店内は狭く、10人も入ればいっぱいになってしまうだろう。

 けれど今は俺たちの他には誰もいない。


「注文はどうしますか?」


「うーん、初めてだしオススメのものでいいかな」


「はーい。では少々お待ちくださーい!」


 元気よく答えて店の奥に入っていく。


「ふうん。いい感じの店じゃない。よくこんなところ知ってたわね」


「昨日たまたま見つけてな。気になってたんだよ」


 本来は主人公たちももう少し先になってから偶然見つけ、それ以来毎日通うようになる店だ。

 しかも開店したばかりだから人も少なく、まさに隠れた名店。

 店長も大勢の人で混雑するより、少ない常連に楽しんでもらえるようなこじんまりとした店を望んでいるという。


 どこかの有名店で料理長もしていたとか、宮廷料理を任されていたとかの噂もあるが、真偽のほどはわからない。

 主人公たちが気に入るのはもちろん美味しいからだが、それ以上の理由がある。


「はーいおまちどうさまー!」


 運ばれてきたのはどこかで見たことのある料理。

 それよりなにより、漂う匂いが懐かしすぎた。


「醤油だ……」


 この懐かしく独特の匂いはまちがいようがない。

 思えば異世界にきてまだ三日しか経っていないのに、もう何ヶ月も食べていないような気さえしていた。


 味の方も完全に同じだった。

 四人ぶんの料理が運ばれてきていたのに、気がつけばあっという間になくなっていた。


「いやー食った食った」


「本当、美味しかったわね。それに食べたことない味だったし」


「お兄さんいい食べっぷりだったね。そんなに美味しかった?」


「ああ、すげえ美味かった。それに、懐かしくてな。それでついつい食べ過ぎちまった」


「懐かしい? ひょっとしてお兄さん、漂流者かなにかなの?」


「よくわかったな」


「うちの料理は、店長が昔に漂流者の人から教えてもらったものらしいんだ。同じ材料は用意できなかったけど、なるべく同じ味を再現できるように色々試した結果らしくてね。

 他の漂流者がきたときに食べてもらいたくて、うちの店長に作り方を伝えたらしいんだ。だから漂流者のお兄さんに喜んでもらえたなら、きっと店長も喜んでくれるよ」


 なるほど、そういういきさつだったのか。

 細かいところは決めていなかったが、こっちの世界の住人が日本の醤油味を作ろうと思えば、そういう設定なるんだろうな。


「よかったらまたきてくれないかな。教えてもらった料理もまだ完全じゃないところがあるみたいでさ、そのあたりもお兄さんに食べてもらえれば色々改良できると思うし」


「おお、いいぞ。そういうことなら喜んで協力する」


「やった! ありがとう。そのぶんお代はサービスしておくからね」




 食事をすませたあとは自由行動になった。


「じゃ、あたしはアヤメちゃんと行くから」


 アヤメを見ると、いきなりのことに戸惑ってはいるみたいだが、嫌そうでもない。

 元はよく読んでいた小説のキャラクターだしな。人見知りのアヤメでも平気なんだろう。


「いいけど、あんまりヘンなことするなよ」


「しないわよ。ユーマじゃないんだし。女の子同士でしか買えないものもあるでしょ」


「そういうことなら、アヤメのことはよろしく頼むよ」


 アヤメが行くならダインも一緒に行くだろう。

 なら俺は一人で自由行動だな。

 なんて思っていたら、長身のダインが腕組みをしたまま見下ろしてきた。


「オレはこいつと一緒に行くところがある」


「へっ?」


 これは意外だな。

 超がつくほどのシスコンのこいつが妹とは別行動をするなんて。

 ひょっとして……ひょっとして俺と一緒にいたいとか?


 いやー、やっぱ主人公はモテる運命にあるんだよなあ。

 やっぱあれかな。オーガとのバトルで俺の活躍に見直したとか、秘められた才能に惹かれたとか、そういうパターンかな。

 ダインまで攻略完了したらさっそくハーレムパーティーの完成だなあ。いやー、まいっちゃうなあ。


 なんて思っていたら、ダインは薄い笑みをたたえたまま近づき、低い声でささやいた。


「アヤメのことをよろしく頼んでもらって悪いな。ところで、いつからアヤメはお前のものになったんだ?」


 あっ。

 死んだな俺。


 速攻ダッシュで逃げようとしたが、その前にダインが俺の手をつかんだ。

 はたから見てると長身の美女が俺の手を取ってくれた甘いシーンように見えるかもしれないが、じっさいは万力のような馬鹿力で握りしめているせいで骨が軋んで悲鳴を上げて痛い痛いほんとに痛い!


「オレはこいつと武器屋にいってくる」


「武器屋? すでに背中に最強の武器があるじゃん! 今さら武器屋なんかにいってどうするの!」


「なにを当たり前のことを聞いている。武器ってのは相手を殺すための道具だろ。あとは、わかるな?」


「わからない! わかりたくない! シェーラ、アヤメ、助けてー!」


「それじゃあたしたちは防具屋にでもいこうかしら。いろいろ見たい服とかもあるしね」


「完璧にスルーされた!?」


「グズグズするな。行くぞ」


 ダインの手にズルズルと引きずられていく。

 いーやーだー! 助けてー!

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新シリーズはじめました。
優しさしか取り柄がない僕だけど、幻の超レアモンスターを助けたら懐かれちゃったみたい
助けた美少女モンスターとのまったり日常二人旅(の予定)。こちらもよろしくお願いします。
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