13.未来
ダインの幼い頃の設定はない。
なんとなく、スーパーモデルみたいな細身の美女がベルセルクみたいな大剣を振り回してたらカッコよくね? と思って作ったキャラだ。
そもそも最初は男だったからな。だから口調以外は男だと思って書いていた。
竜殺しをしているのも、武器が由来だ。深い理由があるわけじゃない。
でもダインの竜に対する憎しみは本物だった。
なんて言い方をすると、自分で作ったキャラのくせになにを言ってるんだ、と思うかもしれない。
でもこればっかりは本当に「キャラが勝手に動いた」としかいえない。
襲いかかるアンデッドドラゴンに対して一歩も引かず、自分の体がどれだけ傷つけられようと必ず倍以上のダメージを返していた。
そして最後。
自身の命と引き替えに放たれたドラゴンブレスがシェーラを襲う。
それを、ダインがかばって受けたんだ。
誰よりも驚いたのがシェーラだった。
当然だろう。それまで二人はいがみ合い、アンデッドドラゴンとの戦いの中でさえ連携もとれないくらいだったのに、最後の最後でシェーラを助けたんだから。
理由は書かなかった。戦いの中で絆が芽生えたのか。あるいははじめから仲間としてみていたのか。
正直に言えば、書くことは出来た。
それこそ今上げた理由をでっち上げればそれっぽくなっただろう。
でも、ちがう気がしたんだ。そんな言葉なんかでは表せないようななにかを、俺は感じていた。
結局答えはわからないまま、命と引き替えに放たれたドラゴンの一撃を受けて、ダインもまた命を落とした。
主人公たちは何度死んでも女神様の力で生き返るが、それは魂を核として肉体を再生させているにすぎない。
ドラゴンブレスの圧倒的破壊力はダインの魂をも消滅させた。
こうなるともう、女神様の力でも復活させることは出来なかったんだ。
妹であるレインだけでなく、シェーラもまた泣いてダインの体にすがりついた。その後ろに立つ主人公も、己の無力に涙をこらえることが出来なかった。
ダインはもう二度と動くことはなかったが、その顔は静かな微笑みを浮かべていたという。
微笑みの理由は、作者である俺にもわからないままだ。
冒険者ギルドをでた俺たちは、そのまま装備を整えた。
さすがに魔王幹部と戦うっていうんだ。
自信家のシェーラだってそれなりの準備はする。
俺だって鎧もなにもなかったからな。制服のままじゃ防御力もなにもない。
ゴブリン退治のクエスト報酬は俺にも振り込まれていたため、そのお金で一通りそろえた。
だけど、そのときのことはよく覚えていない。
気がつけば宿屋で相変わらず不味い夕食を食べていた。
「ユーマ、どうしたの?」
「どうしたって、なにがだ……?」
「自分の顔を見てみたら? ひどい顔してるわよ」
そんなにか。
自分の顔を確認しようとしばらく目を動かして──
「……って自分で自分の顔見れねえよ!」
気づかない俺も俺だな。
シェーラがあきれたようなため息をついた。
「ほんとに大丈夫なの?」
心配するように声をひそませる。
「もしも魔王幹部退治のクエストを受けたことを気にしてるんなら、やめてもいいのよ」
「いや、そういうわけじゃ……」
ない、と言おうと思ったが、決してそうは言い切れないのでつい言葉がとぎれてしまった。
「ユーマを巻き込んじゃったことは悪いって思ってるのよ。あのダインはうざいからそろそろなんとかしときたかったんだけど、別にあたし一人でもどうということはないわ。だから、ユーマは抜けたかったら抜けても構わないわよ」
「ひとりでドラゴ……魔王軍の幹部と戦うのか?」
「こう見えてもあたしは強いのよ。ほら」
そういって冒険者カードを見せてくる。
【シェーラ=ユークリウス Lv.48
職業:魔法剣士Lv.18
炎術師Lv.9
プリンセスLv.3
★魔法使いLv.10
★剣士Lv.10】
職業の横に★がついてるのは、その職をマスターした証だ。
ちなみに職業ごとのレベル上限は決まっていない。
剣士と魔法使いがともにLv.10でマスターしてるのは、たまたまだ。
序盤に選ぶ職業なんだし「まあだいたいこれくらいだろ」っていう俺の気分で決められている。
職業が複数あるのは、ぶっちゃけ深く考えてなかった。完全に後付けの設定だったな。
でもまあひとつしか取っちゃいけないって決まりもないし。
バイトの掛け持ちだって出来るんだ。職業も出来るだろ。たぶん。
作者である俺がいうのもなんだが、この世界のことをよく知らない俺が冒険者カードを見せられても強いのかどうかなんてわからない。
だがまあ、シェーラは強い。そういう設定になっている。
炎術師による高威力の爆炎魔法と、魔法剣士による接近戦スキルのおかげで近距離から遠距離まで安定して戦える。
ソロでも十分に戦えるように考えられたスキル構成だが、ドラゴン相手に一人でも戦えるかといえば、答えは無理だ。
ダインのように攻撃に特化し、防御やその他は仲間に任せる、というくらいでないと厳しいだろう。
「いや、俺もいくよ」
シェーラひとりでは勝てないから、という理由じゃない。
「そう言ってくれるのはうれしいけど、いいの?」
「俺だって男なんだ。女の子を守るのは男の役目だろ」
俺は少しだけ強がりを言った。
夕食後は部屋に戻る。
といってもこの世界はテレビもないしネットもない。
やることといえば寝ることだけだ。
「いっとくけどヘンなことしたら消し炭にするからね」
シェーラが釘を刺してくる。
手なんて出そうものなら本当に消し炭にされかねない。
だから小説でも主人公はさっさと眠って次のシーンに移る場面だ。
だからこそ試してみたかった。
俺がここでちがう行動をしたらどうなるのか。
それでも小説と同じになるのか。違う展開に変えられるのか。
カッコよくいうのなら、未来は変えられるのか。
変えられるならそれでいい。
しかし変えられないとするならば──
床の上で眠る準備をしていると見せかけながら、ベッドに潜り込むシェーラに目を向けた。
シェーラもすぐ俺の視線に気づく。
「どうしたの?」
「頼みがある」
真剣さに気づいたのか、シェーラはベッドの上に座り直した。
「……なによ」
緊張しているのか、声が固い。
それは俺も同じだ。
次の一言にダインの命が、ひいては世界の命運がかかっているといっても過言ではない。
震えそうになる声を何とか抑え、慎重に言葉を選んだ。
「シェーラのおっぱいを揉ませてほしい」