6.終焉
今更だが、神ってなんなんだろうな。
《デミウルゴス》の魔法を設定したのは俺だ。
神の力の一端を切り取るという設定を作りはしたものの、その意味については考えていなかった。
そもそもこの世界に女神や魔王はいるけど、「神」はいないんだよな。少なくとも小説に出てくることはない。でも俺がそう設定した以上、神はどこかにいるはずだ。
それがなんなのか俺は知らない。
知らないが、これまでに出た設定を突き詰めれば答えはすぐにでる。
それは、俺だ。
ここが俺の書いた小説の世界なんだから、創造主は俺に決まっている。
デミウルゴスが神から奇跡の力を引き出すのだったら、それは俺に奇跡を起こす力を──万物創造の主として、万能の力を与えられることになるだろう。
といっても今の俺にそんな力はない。
必要なのは自覚だ。
俺が神であると自覚すること。それが禁呪完成の切り札になるだろう。
そのためになにをすればいい?
俺がこの世界の創造主であると自覚するためにするべきこと。
そんなの決まっている。
小説を書くんだ。
今度はすべての設定を補完した、完璧で、その上でハッピーエンドになる物語を。
そう、もうわかっただろ。
「これ」だよ。
俺の今までの物語を形にした上で、そしてこれからの物語を描いていく。
この世界は紛れもなく俺が作ったものだ。
それを確認するため、俺は時空を超えたゲートをくぐって過去に戻り、この小説を書き上げた。
アヤメを通じて魔王の時空に干渉する力と、俺のゲートの魔法を合成することでタイムマシンを作り上げたんだ。
いつだったか、タイムマシンが開発されれば時の流れもさわれるようになるっていったけど、あれ本当だったわ。
時は流れてるんじゃなくてただ在るものであり、俺たちがその中を移動してるから、時の流れって感覚はちょっと違うんだが、まあとにかく俺は時をさかのぼった。
そして、それまでの経験を元にした新しい小説を書いた。
今度はまったく矛盾がなく、勝手に付け加えられた設定によって苦戦することもなく、すべてがうまくいくハッピーエンドの物語を。
もしかしたらまた物語の修正力に邪魔されるかもと思ったのだが、今度はそうならなかった。
俺が書いたことと全く同じことが俺の目の前で次々に起きることを確認した。
ここまでくればさすがの俺も自覚するしかない。
俺は間違いなくこの世界の創造主だ。
ならばここから先の未来を作ることも簡単だ。
神として覚醒した俺の超パワーで人間界と魔界は引き離される。衝突する心配がなくなり、世界は滅びの運命を回避したんだ。
これですべて元通り。世界の破滅は回避された。
にはなったんだが、ちょっとだけ困ったことが起きた。
「ちょっと! ユーマは私と婚約してるんだから離れてくれる!?」
「ああ? シェーラみたいな雑魚よりもオレと子供作ったほうが人類のためだろうが」
「わたくしは別に、ユーマ様のそばにいられれば、愛人でも構いませんので……」
「そ、そんなのダメだよ! け、結婚はちゃんと、好きな人と一人だけするものだよ……!」
「うふふ~、お姉さんはセフレでも全然オッケーだよ~?」
「ちょっとー、みんなパパから離れてくださいー!」
すっかりモテモテになってしまったんだ。
シェーラだけじゃなく、あのダインまで今では俺を取り合う輪の中に入っている。
まあ俺は名実共に神になったわけだからな。世界中の女の子からモテるのは仕方ない。
仕方ないんだが、こうしてハーレム状態になってみてわかったけど、思ったほどうれしくないな。なんというかこう、ありがたみがないというか。
それにこれは好かれてるというより、崇められているって感じな気がする……。
ちなみにパパと呼んでるのは女神様であって、俺と誰かの子供ってわけじゃないから勘違いするなよ。
女神様からしてみると、すべての創造主である俺はパパに当たるのだそうだ。その理屈だとすべての存在が俺の子供ということになってしまうのだが。
対象に入らないのはアヤメくらいか。やっぱアヤメはこの世界での俺の唯一の癒しだな。
まあそんなわけで、俺はもう勇者として転生する側じゃなくて、勇者を転生させる側になっちまったってわけだ。
いや、それも新しいか?
異世界転生したと思ったら女神様に生まれ変わったのでとりあえず自分好みのヒロインを次々転生させることにした、って話とかどうだろう? 割とありじゃね?
まあいいか。
時間はたっぷりあるんだし、ゆっくり考えていけばいい。
さてさて、それじゃあ次は、どんなハッピーエンドを書くとしようかな。
これで完結となります。
なんとなくで書き始めたのですが、まさか2年も続くとは思いませんでした。
これも読んでくださった皆様のおかげです。
本当にありがとうございます。
新作もはじめましたので、そちらも楽しんでいただけると幸いです。
それでは、最後まで読んでいただきありがとうございました!