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12.仲間

 思わぬところで再会した俺と彩芽は、お互い無言のまま見つめ合っていた。

 まさかこんなところで彩芽に会うとは。

 驚きに立ち尽くしていると、彩芽の瞳に涙がたまりはじめた。


「ユーマ君? ほんとうに、ユーマ君なの……?」


 たずねる声が小刻みに震えている。

 彩芽とは長いつきあいだ。なにを思っているのかなんてすぐにわかる。

 安心させるように大きくうなずいてやった。


「もちろん本物だよ。彩芽もこっちにきてたんだな」


「ユーマ君! よかった!」


 すがりつくように抱きついてきた。

 不安に怯える体をしっかりと受け止めてやる。

 細い腕が力一杯にしがみついてきた。


「ううう……怖かったよ、怖かったよぉ……!」


 せき止めていたものがあふれ出すように、ぼろぼろと涙がこぼれはじめる。

 いきなりこんな世界にやってきてしまって心細かったんだろう。

 俺なんかはむしろ待ってましたって感じだったが、彩芽は普通の女の子だからな。


 いきなり知らない世界に飛ばされれば、そりゃ普通はこういう反応になるよな。

 腕の中でしばらく泣き続けていた彩芽だったが、やがて腕の中でもぞもぞと動きだした。


「えっと、その……」


「ん? どうした?」


「もう、大丈夫だから、そろそろ離してくれると……」


 おっと、そういや抱きしめたままだったな。

 離してやると、真っ赤な顔をうつむかせたまま後ろに下がった。


「ずいぶん仲がいいみたいだけど。あんたたち知り合いなの?」


 シェーラが刺のある声でたずねてくる。


「知り合いといえばそうなんだが……」


 いいかけた俺の後頭部がやけに強い力でつかまれた。


「オレの妹は世界一かわいいからな。手を出したくなる気持ちは分かる。人として生まれた以上あらがうことのできない本能だろう」


 そういいながらも、俺の足が地面を離れて浮き上がった。


「あ、あの、ダインさん……?」


「ただしその代償はお前の命で払ってもらおう」


 そうだったこいつこういうキャラだったー!

 つかまれた後頭部がミシミシと音を立てる。

 さすが素手で熊を殺す怪物とまでいわれるだけあって痛い痛い痛い割れるマジで割れる!


「お、お姉ちゃんやめてください!」


 彩芽が止めに入ってくれる。

 ダインが舌打ちしながら手を離した。


「……アヤメがそういうなら、しかたない」


 よかった。あのままだったら確実に殺られてたよ。

 ……ん?

 いまアヤメっていったか?


 ダインの妹の名前は、レイン。

 ダインとレインなら覚えやすいだろ?

 そう思ってつけた名前だから間違えるはずないし、この超がつくほどのシスコン野郎が最愛の妹の名前をまちがえるなんてもっとあり得ない。


 アヤメだけに聞こえるように小声でたずねる。


「名前はレインじゃないのか?」


 アヤメも小声で答える。


「それが、この世界に来たときからアヤメって呼ばれてて……」


 そういや俺も主人公とは名前が違う。

 俺たちにあわせて色々修正されてるようだな。


「そういえば、呼び方もお姉ちゃんだもんな」


 レインはダインのことを「お姉様」と呼ぶ。

 妹大好きな姉と、姉大好きな妹による百合姉妹なんだ。

 指摘すると、アヤメは顔を赤らめた。


「お姉様はちょっと、恥ずかしくて……」


 うーん。そういうもんなのかな。かわいいのに百合姉妹。

 アヤメがこっそりと耳打ちしてきた。


「ところで、あの、やっぱりここはユーマ君の小説の中、なんですよね?」


「だろうな。俺は昨日来たばかりなんだが、アヤメもそうなのか?」


「うん。朝起きたらいきなりこの世界にいて……。ダイン……お姉ちゃんが優しくしてくれたから大丈夫だったけど」


 どういう理由かはわからないが、俺とアヤメは同時にこの世界にきたみたいだ。

 そりゃ不安にもなるよな。


 それにしても、レインがアヤメになるのか。

 元々のレインは髪の色こそ違うが、小柄で性格も控え目だ。


 本人には言っていないが、実はアヤメをモデルにして作ったキャラクターなんだよな。

 だからなのか、アヤメもレインのことを気に入っていたようだった。

 ひょっとしてそのあたりも関係しているんだろうか。


 アヤメがレインとして転生したのが偶然でないとしたら。

 俺は主人公に感情移入しないほうだけど、それでも自分の書いた主人公に自分が反映されていないとは言い切れない。

 多少は自分の性格をモデルにしてしまっているところがあるだろう。


 となりに住む幼なじみが、モデルにしたキャラクターに転生したのはただの偶然、はさすがにありえないだろう。

 もう少し情報交換しようとしたところで、わざとらしい咳払いの声が響いた。


「さっきからずいぶん仲がいいのねぇ?」


 シェーラだった。

 しかもなんか怒ってるっぽい。

 どういう理由かわからないが、とりあえず謝っておこう、と思ったところで再び肩をつかまれた。


「アヤメが言うから命だけは取らないでやる」


 そう言いながら背中の大剣を引き抜いた。


「腕2本で許してやろう」


「腕は2本しかないんですけど!?」


「そうよ、両腕を切り落とすなんてかわいそうだわ」


 シェーラがかばってくれた。

 やっぱり本当はいい子なんだな……!


「片方だけにしてあげましょう」


「切り落とすことにかわりはないの!?」


 どうやらこの話はここではあまり出来なさそうだな。

 あまり人に聞かれたくない話でもある。

 ダインの腕から逃れつつこっそりとアヤメに耳打ちした。


「悪いなアヤメ。またあとで話そう」


「あ、うん。そうだね」


 そういって小さくほほえんだ。

 そのかわいい笑みについほっとする。

 向こうにいたときは何度もみた、控え目な性格のアヤメらしい笑みだ。

 いくら自分の書いた小説の中とはいえ、やっぱり知り合いがいるというのは安心するな。




 その後、アヤメをクエストのパーティに登録した。

 これで魔王幹部退治にはこの四人で挑むことになった。


「え? 魔王幹部退治って、あのクエストですか……!?」


 今知ったらしいアヤメが驚いた声を上げる。

 そりゃ驚くよな。

 なにしろいきなり魔王軍の幹部と戦うんだから。展開早すぎだろ。


 と思ってたら、どうやら違う理由だったみたいだ。


「ゆ、ユーマ君、本当にこのクエスト受けるんですか……?」


 出来れば俺も受けたくなかったけど、当の二人がやる気だからどうしようもなくてな。


「あの、実はここに来る前の夜にユーマ君の小説を最初から読み返してて、それで覚えてるんだけど、このクエストって最後に……」


「クエストの最後?」


 クエスト中は色々あるが、最終的には主人公たちは魔王軍幹部であるアンデッドドラゴンを倒す。

 そして、その最後の戦いで──


「あ……」


 思い出した。

 アンデッドドラゴンとの戦いは熾烈を極め、多くの犠牲を払ってなんとか倒すことに成功する。

 その最後に、竜殺しのダインがその命を落とすことになるんだ。

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新シリーズはじめました。
優しさしか取り柄がない僕だけど、幻の超レアモンスターを助けたら懐かれちゃったみたい
助けた美少女モンスターとのまったり日常二人旅(の予定)。こちらもよろしくお願いします。
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