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5.問い

 魔王ケリドウィンが俺たちの目の前に現れた。

 あまりにも突然すぎて、俺もアメリアも身動きひとつとれなかった。

 シェーラだけがとっさに剣の柄に手が伸びていたが、抜くことができないまま冷や汗を浮かべた表情で目の前の存在をにらみつけている。


「なにしにきたってのよ……!」


 声を震わせないよう精一杯の強がりで問いかける。

 魔王の無機質な目がシェーラを睥睨した。


「我は我が子らを守るために」


 相変わらず端的すぎてなにをいってるのかわからない。

 だけど今回に限っては大体のところは推察できた。


「いっとくけど今の状況は俺たちのせいじゃないぞ」


 今、魔界と人間界は互いに引き寄せあい、衝突寸前という未曾有の危機にある。

 魔王が魔界の神というのなら、彼の目的は魔界を守ることだろう。

 無機質な目が俺を射抜く。


「世界は終わりを迎える。時を巻き戻しやり直すならば今しかない」


「時を巻き戻す……?」


「道程を変えられても辿りつく結果は同じ。何度未来を修正しても運命は変えられなかった」


 そういえば、魔界に満ちる魔素は、神のごとき存在が魔界の未来を変えようとした結果といっていたな。

 魔王が時間を巻き戻して何度も魔界を救おうとした結果生まれた、ゆがみのようなものだったということか。

 概念すら合成してみせる何でもありなこいつのことだ。それくらいはやってしまえるんだろう。


 物語を変えるために何度でもコンテニューする。それが魔王の力だったんだ。


 今にも世界は滅びようとしている。

 時を巻き戻しやり直すなら、確かに今しかないだろう。

 だがその前に俺のところにきたということは。


「お前にこの結末を変える力はあるか?」


 やはり、それか。

 つまり最終通告に来たわけだ。

 俺に世界を救えるのか否か。


 できるのならやって見せろ。

 できないならやり直す。

 魔王は俺にそう迫っているんだ。


「ユーマ……」


 シェーラの不安気な瞳が俺を見つめる。

 魔王のいうことのほとんどは理解できなくても、なにか重要な決断を迫られているというのは感じているんだろう。

 俺は怯えた体を必死にこらえるアメリアに目を向ける。


「アメリア、未来は見えるか?」


 はっとしたように我に返ると、すぐに目を閉じる。

 ややあって、しかしアメリアは首を振った。


「わかりません……。ただ、見えないのではないのです。なにかがわたくしの前に現れようとしているのですが、靄がかかって見通せないといいますか……。揺れている、というのが正解かもしれません」


「未来は未だ定まっていないということか」


 このままでは世界の崩壊は避けられないはずなのに、その未来は未だ確定していない。

 つまり、助かる可能性が残されているということだ。

 だけどそれは魔王にも、おそらくは女神様にもできない。


 だから俺のところに来たんだろう。


「方法は……ある」


 俺の言葉に、魔王が初めて表情らしい表情を見せた。

 驚きでも怒りでもなく、かすかな、笑みのようなものを。


「ならば為してみせよ」


「……今ここでか?」


「終焉まで残り一刻もない」


 マジか。一刻って確か30分だよな。いきなりかよ。いやまあ魔王がそういう意味で使ったのかはわからないけど。

 いずれにしても、ここに来てとんでもない無茶ぶりだな。ぶっつけ本番にもほどがあるだろ。


 とはいえ冗談を言うような相手にも見えない。

 時間がないというのなら、本当に時間がないんだろう。


 世界を救う方法はもうわかっている。

《デミウルゴス》を完成させ、本来の力を引き出せばいい。

 問題はどうやって完成させるかだ。


 その方法も……実はすでに思いついている。

 ヒントは十分に出ていたからな。たぶん最終的にこうなればいいんじゃないかっていうイメージはあるんだ。

 あとはどうそこまでもっていくかだ。


 とはいえその具体的な方法はまだ完成していない。

 なにしろ世界の命運がかかっているんだ。もう少し時間をかけて考えたかったんだが、どうやら時間切れらしい。


 方法はある。

 だが確実とはいえない。

 しかしもうやるしかないようだった。


「わかった。やろう。ただそのためには、魔王、あんたの力が必要だ」


「いいだろう」


「シェーラ、悪いけどアヤメを呼んできてくれないか」


 俺と魔王のやりとりを警戒しながら見守っていたシェーラが、心配そうな表情になる。


「それはいいけど……」


 剣の柄に手をかけながら、常に視界の中に魔王が入るようにしている。

 未だ信用してないみたいだ。


 まあ前回王宮を襲撃して半壊させた張本人だからな。圧倒的チート能力であっさりと全滅しかかったことは俺だって未だにトラウマだ。

 だけど今回は敵じゃない。


「大丈夫だ。滅びようとしてるのはこっちも魔界も同じだからな。争ってる場合じゃないってのはわかってる」


「我が子らの敵とならない限り、お前たちの敵となることはない」


 それでもシェーラは疑うような表情を見せていたが、やがて納得したのか、部屋の外へと駆けていった。アヤメを呼びにいってくれたんだろう。


 ところで、魔王は以前から「我が子ら」とかいってるけど、たぶんこれって魔界のことだよな。

 魔王は魔界を守ろうとする意志の現れだという。自分の世界や、そこに住む者たちは、守るべき対象としての子供のように思っているのかもしれないな。


 やがてシェーラがアヤメを連れて戻ってきた。


「ユーマ君、私に用があるって……うわっ!」


 急いで部屋にやってきたアヤメは、部屋の中央にいる魔王を見て驚きの声を上げた。

 魔王は声をした方向に視線を向けるのみで、それ以上の反応を見せなかった。


 アヤメは魔王が呼んだ魔界の勇者のはずだが、特別な感情は見られないな。

 そもそも魔王は、厳密な意味では生命じゃないらしいからな。

 俺たちと同じ様な感情を持っているとは限らない。


 俺たちは感情とか、小さな脳から生み出される理性とかで行動しているけど、魔王はもっと広い視点で行動を決定してるんだろう。

 そもそもアヤメは魔王が呼びだした「魔界を救うための勇者」のはずなんだが、前回の襲撃の時にアヤメを巻き込んでいたのに全く気にするそぶりもなかったからな。

 俺たちの常識とはかけ離れた存在であることは確かだ。


「アヤメ。力を貸してくれ」


「う、うん。それはもちろん構わないけど……」


 魔王の存在を強く意識しながら、おずおずとした足取りで近づいてくる。

 アヤメは魔王がこの世界に呼んだ存在だ。

 俺が女神様から力を与えられているように、アヤメは魔王から力を与えられているはず。


 女神様は俺を召還し、ラーニングなどのチート能力を与えたことで自らの力をほとんど失ってしまったといっていた。

 だけど魔王はその圧倒的な力を持ったままだ。


 チート能力を与えられた俺に対し、アヤメはなんの能力も与えられていない。

 確かに回復魔法はすさまじい力を持っているが、それ自体は特殊でもなんでもない。誰でも使える魔法だ。


 おそらくだが魔王は、アヤメに自分の力を分け与えるのではなく、自分の魔力をそのまま使えるようにしたんじゃないだろうか。

 回復魔法がすさまじい効果を見せるのも、時空すら超越する魔王の魔力を使っているからなんだ。


 あの<祈りの樹>もきっとそうだろう。あれは魔王の魔力をそのまま放出したものだったんだ。だから強力な呪いも元に戻してしまった。

 それだけじゃなく「物語を書き換える」第二の作者としての力もあるから、魔王ですら消すことのできなかった魔素すらも消してしまった。


「アヤメ、手を借りるぞ」


 アヤメの手を軽く握る。

 それは少し小さい普通の女の子の手だ。


 だけど、そこには圧倒的なまでの巨大なパワーが流れている。

 物語を修正し、そのためならば時空さえ超越してみせる反則的なまでの力が。

 その力を借りることができれば、世界を運命を書き換えることもたやすいだろう。


 俺はつないだ右手に魔王の魔力を感じながら、左手でスキルを発動する。


「合成。<時空><ゲート>」


 魔王の力がゲートをねじ曲げ、時空を超えた扉を作り出す。

 その先はもはやここではない別の世界だ。通れば帰ってこれないだろう。

 俺は万感の思いを込めてみんなを振り返る。


「じゃあな、みんな。ここでお別れだ」


 答えを聞いたら決心が鈍る。

 俺はみんなの答えを待つことなくワームホールへと飛び込んだ。

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新シリーズはじめました。
優しさしか取り柄がない僕だけど、幻の超レアモンスターを助けたら懐かれちゃったみたい
助けた美少女モンスターとのまったり日常二人旅(の予定)。こちらもよろしくお願いします。
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