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3.魔道書

 空が異様な風景に様変わりしたことで、国中がパニックに陥っていた。


 まあそりゃそうだろう。

 俺だって魔界ではじめて見たときにはすげーびっくりしたもんな。

 一目見ただけでただならぬことが起こっているとわかる。国中が騒ぎになるのも当然だった。


 そんなわけで今俺は、この国の王女であるアメリアに呼び出されていた。

 謁見の間ではなくアメリアの自室なのは、外に聞かれたらまずい話になると予感してのことだろう。


「ユーマ様、一体なにが起こっているのでしょう」


 アメリアが厳しい表情で直球の質問を投げかけてくる。

 どう答えるか迷ったのだが、うまくごまかせる自信がない。

 それに嘘を付いても仕方がないしな。


 俺もアメリアに頼みたいことがあったことだし、ここは正直に答えるしかないだろう。


「魔界の軍勢が消えたことはアメリアも知ってるよな」


「はい。ユーマ様のおかげと聞いています」


「その結果、魔界と人間界を隔てる《大結界》が消えてしまった。元々《大結界》は二つの世界の戦争を止めるためのものじゃない。二つの世界が衝突するのを防ぐためのものだったんだ」


 俺の説明にアメリアの顔色が蒼白になる。


「二つの世界が衝突する……? ということは《大結界》がなくなった今……」


「そうだ。もうすぐ世界は衝突し、崩壊するだろう。空の異常はその前兆だ。魔界も同じようになっていたからな」


「それを防ぐことはできるのですか?」


「そのためにアメリアに頼みたいことがあったんだ」


「わたくしにできることなら何でもおっしゃってください」


「禁呪について教えてほしいんだ」


「……ッ!?」


 アメリアの表情が目に見えて変わった。


「王族には二つの禁呪が代々受け継がれてきてるんだろう。それがどうやら、二つの世界を守るために作られたものみたいなんだ」


「そうなのですか……。ユーマ様がおっしゃるならそうなのでしょう。しかし詳しいことはわたくしにもわからないのです。お姉ちゃんなら何か知ってるかもしれません」


 確かに《デミウルゴス》を覚えてたのはシェーラだったもんな。

 レベルもめっちゃ上げてたし、なにか知ってるかもしれない。




「それでアタシを呼んだってわけね」


 アメリアの部屋にやってきたシェーラがそういった。


「それにしても、魔界と人間界が衝突するなんて……。スケールが大きすぎて本当なのかどうかもわからないわ」


「俺だって信じられないけど、実際なんかやべーことになってるからな」


「禁呪についてはわたくしもあまり知らないので、お姉ちゃんの方が詳しいかと思って」


「といってもアタシも詳しくは知らないけど……。アタシが知ってるのは、禁呪は何百年も昔から王家にのみ代々伝わる魔法で、あまりにも強力な力を持っているということ。そのため軽々しく使ってはならないこと、くらいよ。誰がどうやってこの魔法を作ったのかはわからないし、そもそもこんな魔法を作れるということじたい驚くべきことよね」


「シェーラでも知らないのか」


「ユーマは禁呪のなにが知りたいの。ユーマの特殊能力のおかげでアタシの魔法も使えるんでしょ」


「それなんだが、ラグナによれば、あの《デミウルゴス》は未完成らしいんだ」


「そうなの?」


「今の世界の破滅は何百年も前に起こったことで、禁呪は当時の人間達がその破滅を回避するために作ったものらしい」


 その破滅の原因となった異世界召還については伏せておく。

 今はそれは必要ない情報だと思うし、たとえ何世代も前の話とはいえ、自分たちの祖先が世界を滅ぼす原因となったなんて話は知りたくないだろうからな。


「そして《デミウルゴス》は、完成することで世界の衝突を防ぐ奇跡を起こせるらしいんだ」


「神の奇跡で世界を救う魔法、ね。確かにこんな強力な魔法なんのためにあるんだろうと思ってたけど、そう考えれば納得もいくわね」


「そもそもあれは「召還魔法」だしな。召還して終わりじゃなく、召還したものでなにかを成すかの方が重要だったんだな」


「わたくしの《未来視》もそのためのものだったんですね」


「いつかくる人類の破滅を事前に予期するためのものだったらしい」


「とはいえこれ以上詳しいことは宝物庫に行かないとわからないわね」


「宝物庫?」


 そんなのがあったのか。


「そりゃあるわよ。一部の関係者しか入れない王宮の地下にあるんだけど、財宝だけじゃなくて、古くからある貴重な資料なども保管されてるの。アタシが《デミウルゴス》について知ったのも書庫にある資料のおかげだしね」


「そうですね。わたくしはあまり行かないのですが、内部は宝物が劣化しないよう特別な魔法が施されているため、王族にとって重要な資料もそこに保管されているといいます」


「ならまずはそこにいってみるとするか」


 調べてみないことにはなにもわからないからな。




 王宮の地下にあるという宝物庫は厳重な警備がしかれていた。

 屈強な兵士が護衛する頑丈な扉を抜け、王族のみが持つ特別な魔力でしか開かない扉を抜けた先の長い階段を下りた先にそれはあった。


「ここが宝物庫か」


 扉を開けて中にはいる。

 入った瞬間黄金色の光に出迎えられるきらびやかな空間を想像していたんだが、想像と違って現れたのは質素な空間だった。

 石造りの室内にたくさんの棚などが並べられているだけだ。


「思ったよりも質素なんだな」


「ここにあるのはどれも貴重な品ばかりだからね。むき出しのまま保管なんてする訳ないでしょ」


「ごもっともです」


 宝物庫は陳列するための場所でもないしな。

 博物館のようにショーケースに入れて飾っておくわけもなかったか。


「目的の本はこっちよ」


 シェーラに先導されて奥へと進む。

 見た目は質素だが中はかなり広い。部屋自体の数も多いし、扉でつながっていたり、長い通路でつながっていたりと作りも一貫していない。

 盗賊対策なんだろうが、案内がなかったら迷ってしまいそうだな。


 その部屋のどれにも棚や宝箱がいくつも並べられていた。

 どれにも貴重な物が納められているんだろう。


「そういえば今さらだが、宝物庫って関係者以外入っちゃいけないんだろ。俺が来てもよかったのか」


「本当に今さらね。世界が滅ぶかどうかって時にそんなこと気にする必要もないでしょ」


 シェーラが呆れたように答えたあと、少しだけ顔を赤くした。


「それに、将来結婚すればユーマも王族になるんだし、無関係ってわけでも……」


「ん? なにかいったか?」


「別になんでもないわよ!」


 なぜだか怒ったようにいうと先に進んでしまった。

 うーん、相変わらずたまにシェーラはよくわからない理由で怒るよな。

 俺が困惑していると、アメリアが俺にだけ聞こえる声でささやいた。


「ふふっ、お姉ちゃんはですね、ユーマ様が王女であるわたくしと結婚すれば王族の一員になるのですから、別に無関係ではありませんといったのですよ」


「え、ええっ!? け、結婚って……」


 そりゃ確かに俺とアメリアが結婚すればそうなるだろうけど……。

 アメリアがほっそりとした自分の指を眺める。

 その人差し指には、いつだったか俺がプレゼントした指輪がはめられていた。


「新しい指輪がもらえる日を楽しみにしていますね」


 照れ笑いの表情で告げると、シェーラの後を追うように小走りで駆けていった。

 もっと強い加護の力が込められた指輪がほしいってことか?

 そんなのこの宝物庫にいくらでもありそうだけど。


 うーん、姉妹そろって時々よくわからんよなあ……。




 やがてたどり着いたのは一番奥の部屋だった。

 中にはいると巨大な書庫になっていて、天井まである巨大な本棚がいくつも並べられている。

 ざっと見ただけでも数千冊はありそうだ。これ全部を調べるとなるとちょっとやそっとの時間じゃ終わらないだろう。


「えーっと、どこにあるんだっけ……」


 いくつもの本棚が並ぶ中をシェーラが歩いていく。

 奥に行くほど古い本が増えていくようだ。

 やがてひとつの本棚の前で立ち止まった。


「あったあった、これだわ」


 取り出したのは一冊の本だった。

 めちゃくちゃボロボロなのを想像してたんだが、見た目は普通の本と変わらなかった。


「何百年も前の物にしてはずいぶん真新しいな」


「魔法で保護してあるからね。普通の人じゃそもそも開くこともできないわよ」


 シェーラが本の上に手をかざし、何事か呪文のようなものをつぶやく。

 淡い光が本全体を取り巻くように輝くと、ひとりでにぱらぱらとめくれだした。


「検索。禁呪について」


 命令に従って本が自動的に高速でめくれていく。

 やがて目的のページでぴたりと止まった。


「あったわ。このページね」


「ずいぶん便利なんだな」


 俺の本棚にもこの機能搭載してくれないかな。

 どこに何の本があるかとか覚えてないんだよな。


「それで、禁呪についての詳しい説明だったわよね」


「ああ、そうだ」


 俺がうなずくと、シェーラは目的の場所をゆっくりと読み上げ始めた。

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新シリーズはじめました。
優しさしか取り柄がない僕だけど、幻の超レアモンスターを助けたら懐かれちゃったみたい
助けた美少女モンスターとのまったり日常二人旅(の予定)。こちらもよろしくお願いします。
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