2.禁呪
王城の客室で、俺はラグナから世界を救う方法を聞いていた。
「《未来視》と《デミウルゴス》が世界を救うために作られた魔法だということか?」
ラグナがうなずく。
「そうじゃ。やがて自分たちの世界が崩壊すると知った人間達は、世界が崩壊するタイムリミットを知るために《未来視》を作り、世界を救う奇跡を起こすために《デミウルゴス》を作ったのじゃ」
「《未来視》がタイムリミットを知るためというのはわかるが……、《デミウルゴス》が世界を救うためというのはどういうことなんだ」
禁呪は山ひとつを消し飛ばす超強力な炎系最強魔法だ。奇跡を起こすような魔法ではない。
「まさかあの魔法で魔界を消し飛ばそうとしたってことか?」
「まさか。そんなことが不可能なのは主も知るとおりじゃ」
「確かにそうなんだが……」
山ひとつを消し飛ばすとはいえ、世界全体から見たら、それは星の表面を少し削った程度だ。世界ひとつを滅ぼすには到底至らない。
「実をいえば《デミウルゴス》は未完成での。当時の技術力を持ってしても結局完成しなかった。そのため研究を次代に託すため、今の王族に代々伝えられていたのじゃが、長い年月の中でその目的は失われてしまったようじゃの」
「そうか……」
そもそも、強力なだけならば「星座をひとつ消滅させるほどの魔法」が存在するからな。
だがそれを使うことは魔界の住民すべての死を意味する。
そんな方法を使うわけにはもちろんいかない。
魔界も人間界も両方滅ぶよりはマシ、と言われればそうかもしれないが……。
「《デミウルゴス》の効果については主の方が詳しいじゃろう。神のごとき存在の力の一端を切り取り、こちらの世界に落とすことで強大な威力を発生させる。それはなんの加工もなされていない純粋な魔力の固まりじゃ。じゃが、取り出すのが力の一端ではなく、神の力のすべてじゃとしたらどうじゃろう」
「神の力をそのまま……?」
確かにそれは考えたことがなかった。
《デミウルゴス》の説明は、神の力の一端だけなのにこんな強力な威力があるとかすごくね? という理由だけで作ったものだ。
だから当然、神の力をすべて引き出した場合のことは考えていなかった。
だけどラグナの言う通り、本当にすべての力を引き出すことができたとしたら。
「それこそが《デミウルゴス》の完全版での。神のごとき力を使って神の奇跡を起こす。それが《デミウルゴス》の本来の目的じゃよ」
奇跡を起こし世界を救うための魔法。
それが、代々王家に伝えられてきた禁呪の本当の意味だったのか。
もちろんそんな設定は俺はしていない。物語が作り出した、設定の穴を埋めるための新しい設定だろう。
「なら、《デミウルゴス》を完成させれば……」
「うむ。なにが起こるか我にもわからぬが……もしかしたら世界を救えるかもしれんの」
世界を救う究極魔法。
物語が勝手に作り出した設定だから、俺にもその効果はわからない。もしかしたら山を消し飛ばす程度では済まない超強力な威力を生み出してしまうのかもしれない。
危険な賭ではあるが、他に方法はなさそうだ。
「ならやるしかないか」
「うむ。主が今度はなにをなしてくれるのか期待しておるぞ」
そのとき、部屋の扉が勢いよく開いた。
「ユーマ君、空が……!」
アヤメが息急ききって駆け込んでくる。
俺はすぐに窓に駆け寄り空を見上げた。
「ついにきたか……」
そこにはもう青空はなくなっていた。
空がひび割れ、隙間からゆがんだ空間がのぞいている。
魔界の空と同じだ。
終末のカウントダウンが、ついに人間界でも始まったんだ。