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36.正体

「それにしてもすごい魔法だったわね」


 シェーラが感嘆のため息と共につぶやく。

 辺りには光の残滓が残るのみで、アウグストのいた痕跡はなにも残されていない。

 それを成し遂げたのが、アヤメの放った<祈りの樹>だった。


 ダインが大きくうなずく。


「オレの妹だからな。当然だ」


「た、たまたまだよ。私もどうやってあれを使ったのかわからなくて。ついカッとなったら出ちゃったというか……」


 アヤメが恥ずかしそうに顔を赤くする。

 確かにアヤメのあの<祈りの樹>はすごかった。

 フォルテですら完全には解呪できなかったアウグストの呪いをあっという間に解いてしまったんだから。


 それどころかラグナの話によれば、魔素すらも消してみせたという。


 俺もスキル合成の際に使ってみてわかったが、<祈りの樹>は癒しの力とはまた別の力だった。

 それにアヤメが使ったときと明らかに威力が落ちていた。

 完全再現できないのはいつものことだが、そもそも別の魔法にすら感じた。


 アヤメの力は魔素すらも消してみせた。

 しかし、果たしてそんなことが可能なのか?

 自分で書いた小説の世界とはいえ、俺もまだ完全に理解してるとはいえない。だから絶対とはいえないんだが、魔素を消すなんてことはできるのだろうか?


 魔素とは世界が滅んだ残骸。何者かによってなかったことにされている、今の魔界の本当の姿だという。

 それを消すなんてことは、つまり、世界を消すということに他ならないのではないだろうか……。


「そこに気がつくとはさすが主よの」


 心を読んだらしいラグナが答える。


「結論からいうと不可能じゃ。魔素とはこの世界に残る破壊の残滓。変えられなかった未来の片鱗であり、この世界を今も蝕み続けている因果のようなものでの。今の世界を保ったまま魔素だけを消すことは、すなわち未来を書き換えるということになる」


「魔素を『消す』なんてことはできないわぁ。別の場所に移動させたり、過去を変えることで魔素が発生しなかったことにならもしかしたらできるかもしれないけど、この場で消すなんて不可能なのよぉ」


「でも、さっき魔素が消えたって……」


「そうなのよぉ。だからアヤメちゃんはとーってもすごいのよぉ」


 そう語るフォルテの目は少しも笑っていなかった。


 どうやら魔素を消すとはすなわち、滅びるしかない魔界の未来を変えたということになるらしい。


 今この魔界は、神のごとき存在によってなんとか維持されていると前にいっていた。

 しかし、そんな神のごとき存在ですら、魔界の滅亡は回避できなかったんだ。

 それを、局所的とはいえアヤメが塗り替えてしまったという。


 アヤメの白魔法はすごい。

 それは前からわかっていた。

 しかし、これは、あまりにもすごすぎるのではないか。


「………………。まさか……」


 俺があるひとつの仮説に行き着いたとき、突如として周囲の城が鳴動しはじめた。

 大きくひび割れ、崩れた天井が次々と落下していく。


「どうやらあやつの魔力が切れたことで、呪いの力よって補強されていた城が崩れはじめたみたいだの」


「そりゃまずいな。脱出するぞ!」


 俺はゲートの魔法で宿屋までの道を作る。

 それから天井を見上げた。

 振動によって亀裂が走り、今にも崩れそうだ。


「あの天井が崩れてきたら危ないよな?」


「え? まあ、そうね。だから早く脱出しないといけないんでしょ」


 シェーラが不思議そうな顔になる。

 なにを当たり前のことを聞いてるんだろうという表情だ。

 そんなシェーラに俺は頼んだ。


「俺は今から倒れるから、あとのことはよろしくな」


「倒れる? ユーマ、なにをいって……」


 俺は右腕を天井へと向け、力を集中させる。


「スキル発動! <ディケイドロアーLV.1>!」


 放たれた巨大な閃光が天井を吹っ飛ばす。

 全身の魔力を使い果たし、ともすれば寿命をも消費しかねない強力な一撃だ。

 俺の意識はあっというまに闇の中へと落ちていった。

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新シリーズはじめました。
優しさしか取り柄がない僕だけど、幻の超レアモンスターを助けたら懐かれちゃったみたい
助けた美少女モンスターとのまったり日常二人旅(の予定)。こちらもよろしくお願いします。
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