31.突入
「よし、いくぞ。アウグストの城へ!」
ゲートを開いた俺たちは、さっそくアウグストの城へとやってきた。
見張りの兵士に見つからないようすでに潜伏のスキルも発動している。
とはいえ城全体に張り巡らされた結界によってこれ以上は近づけない。
「フォルテ、頼んでいいか」
「もちろんよ~、お姉さんに任せなさい。じゃあラグナちゃんの魔力をもらうわねぇ」
「うむ。好きにするがよい」
フォルテがラグナの小さな頭に手を乗せ、なにかを受け取る。
そして両手を空に向けると、小さく呪文のようなものをつぶやきはじめた。
「さあ、いくわよ~」
両手の先に小さな魔法陣が現れる。
魔法陣がゆっくりと回転するたびに、ひとまわり大きな陣が現れ、5回転もする頃には城の半分を覆うほどの大きさに広がった。
「特製魔法陣起動。<アンチシールド>最大展開~」
気の抜けた声とは裏腹に、魔力で編まれた魔法陣がひときわ強烈な光を放つ。
同時になにかの砕け散る感覚があった。
見えない薄いガラスが音もなく砕けるような、なにもないけど確かな手応え。
「うふふ~、成功したわぁ」
「よし、ありがとうフォルテ」
「どういたしまして~、お礼は夜にたっぷりと返してもらえればいいわぁ」
そういって妖しい笑みを俺に向ける。
夜にお礼ってなにをさせられるんだろう……。
ついたくましくなる妄想を脇に押しのけて、すぐに次の計画を実行する。
「ラグナ、頼む」
結界が破られたことはアウグストもすぐにわかるだろう。
ここからは時間が勝負だ。
「うむ。わかっておる。見つけたぞ」
「さすがはやいな」
ラグナには、フォルテが結界を解除すると同時に、城の中で最も魔力の高い場所を探知するように頼んでおいた。
それでなくとも、俺とラグナは魔力でつながっているらしく、心の中まで筒抜けになっているからな。
頼まなくてもわかってしまうんだよな。
「場所は……説明するよりもこうしたほうが早いかの」
ラグナの小さな手が俺の手を握る。
やわらかな感触に一瞬ドキッとしそうになるが、すぐに俺の頭に魔力の流れが映し出された。
城全体を膨大な魔力が循環しているのがわかる。
どうやら結界が解除されたことにより、結界を構成していた魔力が周囲にあふれ出しているようだ。
その魔力は増水した川のように勢いよく流れ、城のとある一点へと目指して渦を巻いていた。
膨大な魔力がそこに集中している。
間違いなくそこが目的の場所だろう。
「見つけた。行くぞみんな」
俺の言葉に、全員が真剣な表情でうなずく。
説明するまでもないだろうが、アウグストの城には大量の敵が待ちかまえている。
番犬のケルベロスをはじめ、強力な魔獣が大量にひしめいているし、危険なトラップも数多く設置されている。
俺の小説でも、主人公たちはアウグストにたどり着くまでにたくさんのバトルと、トラップをくぐり抜ける必要があった。
まあ、相手はラスボス級の敵だからな。
簡単にたどり着けるわけがない。
それに道中の敵が強ければ強いほど、それを操っているボスの強さに対する期待感も高まるしな。
こんなに強い魔獣を使役できるアウグストってのは、どんだけ強いんだって感じでな。
それになにより、この城にはアウグスト以外の四天王、「最強のジャガーノート」と「最善のミュートス」も待ちかまえている。
史上最強の生命体と呼ばれるジャガーノートと、魔王の右腕と呼ばれるミュートスは、強さだけならアウグストよりも遙かに格上だ。
そのバトルはいうまでもなく熾烈を極める。
もちろん最終的には主人公が勝つのだが、そのためには多大な犠牲を払うこととなる。
多くの仲間と力を失い、満身創痍の状態となってアウグストと戦うことになるんだ。
それは最終バトルを盛り上げるためでもあったんだが、小説ではない現実でそんなことをしていたら命がいくらあっても足りない。
そこで俺は事前に計画を立てていた。
魔力の奔流が集まる中心点に向けてゲートを開く。
ゲートの先に、病的なほど白い肌をした男の姿が見えた。
ゲートを乗り越えると同時に男が驚く。
「貴様等、いったいどこから……!」
ゲートの先は、アウグストの居城で最も魔力の高い点。
すなわち、アウグスト本人の行る場所だ。
「悪いが一撃で終わらせてもらうぜ」
ゲートを超えた俺に続いてシェーラやダインが現れ、即座に攻撃を放った。
「燃え尽きろ! <フレアインパクト>!」
「凍って砕け散れ! <アイスハウル>!」
「主の頼みでの。何も言わずに死ぬがよい」
「新作魔法行くわよ~。<ライフエラー>」
シェーラの火炎魔法とダインの魔法剣に加え、ラグナの黄金色のブレスに、天才魔法使いフォルテの新作魔法が一度に炸裂した。
燃えて凍って光で灼き払われて書き換えられた遺伝子が自己崩壊をはじめる。
どんな相手だろうとまず耐えられない波状攻撃だ。
ボス相手にゲート魔法で奇襲をかけて、最大火力による先制攻撃で一方的に戦いを終わらせる。
これが小説なら、ラスボス戦なのに盛り上がりもなにもないダメなバトルの典型的な例になってしまうだろう。
でもここは小説じゃなくて現実だからな。
バトルを盛り上げるなんて気遣いは無用だ。
最も犠牲が少なくなる方法で確実に勝つ。
悪いがてめーの見せ場なんて作らせないぜ。
しかし……。
「なるほどな。お前たちがヤシャドラを倒したとかいう人間どもか」
俺なら百回死んでもおつりが来るような波状攻撃をまともに受けたにもかかわらず、ニヤリとアウグストが余裕の笑みを浮かべていた。