7 人あらざる者さん、いらっしゃーい
「えー、この世には私たちの他にも3種類の人型の生き物がいます!」
朔莎はそう元気よく言うと、ぱらりと1枚ページを捲った。
「ひとつめに術師です。これは術を使うことが出来る人のことを言います。ふたつめが徒人です。これが術を使うことが出来ない人のことです。そしてみっつめ!吸血種というものです。それじゃスレアスさん、説明お願いしまっす!」
明らかに面倒くさそうにスレアスはさっきまで朔莎がいた場所に立った。
「えー、吸血種って言うのは、なんか難しそうなカタカナのの名前がついていますが、簡単に言えば吸血鬼のことですねー」
(なっ……なにぃ?!)
更紗は頭が真っ白になった。衝撃で、ではなく(もちろんそれもあったが)歓びで、である。今なら半裸で喜びの舞を踊る自信があるぞ!さあ!誰か音楽をどうぞ!
更紗にとっては吸血鬼とは愉しさを求め、時にヤンデレになりつつ、何だかんだで耽美で背徳的な奴らという認識であった。本当にいるのなら全力で血を捧げさせて頂きたい。
「といっても、最近は私のようにあまり血を吸わない人たちもいるから血を吸うことに愉しさを見出して無理矢理大量の死体を発生させるようなやつらもいないから安心してね」
なんでだよ!なんでだよ!更紗は悔しさに血の涙を流した。私の夢を返せぇ……
はっとそこで更紗は気づいた。
え、私たち?てことは……
「あははは〜、スレアスさん、皆固まっちゃってますよ?」
「あれ、こんなはずじゃなかったんだけど……?」
朔莎が諦めた様に乾いた笑い声を立て、スレアスが困惑したかのように頬をかいた。
「じゃあどんなつもりだったんですか?」
「へぇ、なるほどそれで?みたいな感じかな」
更紗の目の前では相変わらず2人が漫才を続けている。
「あのー、続き聞いても良いですか?」
こんわくする さらさたちのまえに ゆうしゃがあらわれた!
更紗の脳内に流れるテロップと共に、祐仁が手を少し挙げて言った。
その言葉に2人ははっとしたように続きを喋り始める。
「えー、スフェラトスは吸血種という意味の他に生きている死人という意味もあります。それゆえ体か腐らないように月に4Lの血を飲む必要があります。で、それを摂取しないと……」
「ハイハイッ!鬼になります!」
勢いで叫んでしまった更紗は後悔した。視線が、皆の視線が痛い…
「えー、こほん。”咎”というスフェラトス化する術式を相手に植え付けられるようになり、大変迷惑なので仲間内で処分します」
言っちゃったよこのひと…あっさり処分って言っちゃったよ…!
「しかしながら、研究の成果により、鉄分サプリを摂取することで月に1~0.5Lだけで充分足りるようになりました。めでたしめでたし」
ぱちはちぱち。
反射的に更紗たちは拍手をした。
「じゃあ続けて各部屋と共用スペースの案内と使い方を説明するねー」
朔莎が椅子から立ち上がってそう言った。彼女がこちらですよー、と案内を始めようとしている姿を見ながら、更紗は気になっていたことを近くに来たスレアスに聞いた。
「あのー、ひょっとしなくても銀髪の快楽主義者っぽいスフェラトスっていますか…?」
その更紗の言葉にスレアスはうーん、と首を捻ると、
「ねぇ朔?銀髪の赤みがかった瞳の親戚いたよね?」
と朔莎に声を掛けた。
丁度部屋を出る所だった彼女は振り返って、
「ん、ああ、いるよ。望月さんって言うけど、イケメンイケボの人で変態な人。あ、でも…」
うおおおおおおおお!
うおおおおおおおお!
うおおおおおおおお!
たちまち更紗の頭は真っ白になった。待ってよ。それって、ひょっとして…!
頭ががんがんとする。
奇妙な浮遊感もする。
やがて更紗の世界は闇に包まれた。