3 異世界の裏路地にて
更紗は裏路地をさまよい歩いていた。
(なんなの……あの人。私初めてここに来るから、道案内はしてくれると思ったのに……)
ぶつくさと心のなかで不満を垂れていると、ぎゅみゅ、と何かを踏んだ。
「〰〰〰〰〰っつ!いったぁぁ……」
どうやら踏んだ物は、少年の足らしい。ごめんなさい、と言おうとして少年の深い闇を思わせる瞳に釘付けになった。
「お主、何をしておる?おい?我の足を踏んだのはそなたであるう?!はよう謝れ」
更紗は動けなかった。
少年の美貌があまりにも美しかったからだ。深い闇を思わせる瞳に、射干玉の髪。手足や首は細く、その白い肌と合わさって生きているようには見えなかった。
(お人形だ……)
どうやら異世界には動く生意気な人形がいるらしい。
「おい、どうした?」
気付けばその美貌が間近にあった。
(負けたっ)
その白くシミひとつない肌に更紗の普通の肌は白旗を上げた。
「生きておるのか?」
少年が、更紗の顔の前で手を振ると、更紗は後ずさった。その拍子に地面に置いてあった鞄を倒してしまう。
ざざざ、と音を立てて中身が出る。
その中身を見て、更紗はつい半眼になってしまった。
「な、なんだ、これは、その、そう!我のものじゃない。こいつのものだ!」
と、生意気人形少年は後ろの男性を指差して言った。
「いえ、天に誓ってあり得ません。私にはストーカー趣味はないので」
鞄の中身-ーそれは大量の写真(隠し撮り風も多い)と、高性能のデジタルカメラだった。双眼鏡もある。
「すっ、ストーカー⁉いい加減なことを言ってほしくないものだな」
声が震えているぞ!
「我はただあいつがどんな生活をしているか気になって後を付けているだけだ!」
「それを世間一般ではストーカーと言うのです!」
ぎゃおぎゃおと後で騒ぐ二人組をおいて、更紗はゆっくりと離れて行った。
動く生意気なストーカー人形のいる異世界はやっぱり危険だ。
そういえば、と更紗は立ち止まった。
ーー異世界で、一人きりで路地裏にいるのはやはり不味いのかもしれない、と……
「あの、すいません」
後ろから突然聞こえた声に更紗はびくりと体を震わせた。
今日、8月16日は私の無二の親友の誕生日です!
この場をかりて、一言。
誕生日おめでとう!いつもありがとう!
以上、兎月兎でした~