2 ついに異世界に着いてしまいました
「しゃら………ちゃんと帰ってきて」
中1からの親友の矢名瀬万雪が大きな瞳を潤ませていう。
「あー、もう、泣かないでよ、ふー。一杯変態が集まってきちゃう」
それほど万雪の泣き顔に魅力があるということだ。瞳が大きく童顔な彼女は同時にフランス人形のような美しさも備えていた。
「大丈夫だよ。万雪は私がちゃんと面倒を見るから、お土産買ってきてよ」
と、七華万雪が言う。矢名瀬と七華は名前が同じもの同士仲良くしていた。更紗自身も矢名瀬を通じて七華と仲良くなっていた。
「にしても、異世界かぁ、いーなぁ、羨ましいなぁ、代わってほしいなぁ」
と、矢名瀬がいうと、七華がうんうん、とうなずいた
「落ち着いたら招待してよ」
「はいはい」
そう更紗は返事をして、手を振ると隣の案内人に促されて学校の地下の門を通って行った。
「……いっちゃったね………」
矢名瀬がしみじみと言った。
「赤間のことだからうまくやるよ」
七華が少し笑って、前髪を押さえた。
「よーし!記念になんか食べに行こう!」
「そうだね!何にしよっか!」
2人は瞳に寂しさを秘めたまま笑顔で歩き出した。そんな2人の前髪を春風が揺らしていた。
扉を開けるとそこは異世界でした。
どこの小説だよ!と突っ込みたくなる一文が更紗の脳内に浮かんだ。
「ようこそ!私たちの世界へ!」
黒髪に紅い瞳の女性が彼女を迎え入れた。なるほど、異世界というものは目の色はやはり色とりどりなのか、と思った更紗は「よろしくお願いします」と頭を下げた。
「更紗さんが今日から住む寮は、特殊人種収容場って言うんだけと、朝顔の宮っていう別名があるから、どこの寮かって聞かれたら、朝顔の宮です。って答えたらいいから」
「はぁ………」
なんだか物騒な名前が聞こえたので、更紗はそれを忘却の彼方へ放り投げた。
「それじゃあ、悪いけど私これから仕事があるから、地図を見て、どこに朝顔の宮があるか自力で探して自力で着いてね。あと、ここは翠都学園だから」
「え?!ちょっとまっ……」
黒髪紅瞳の女性がその長い黒髪を靡かせて走り去って行くのを更紗は見つめることしか出来なかった。