第19章 永遠(とわ)の祈り(3)
ラムゼイは、最後まで忠実にボスの命令に従った。
抗うシヴァを無理やり押さえこみ、無言のまま担いで地下へ駆け下りた彼は、建物内の案内表示にしたがって旧地下街へ向かった。かつて殷賑を極めたであろう無人の通路を、無骨な大男は一気に走り抜ける。そして、たどり着いたいちばんはずれの出口から、地上へと逃れた。ビッグ・サムの咄嗟の機転が功を奏してか、執拗な追捕の手は、それ以降、彼らに伸びることはなかった。
不気味なほど深閑とした街はずれで無人タクシーをつかまえたラムゼイは、車内で出血の止まらぬシヴァの足に応急手当を施した。ラムゼイが心中、なにを思っていたのかはわからない。そしてシヴァ自身も、後部座席のドアに身を凭せかけたまま、窓外に流れる景色を放心した表情でぼんやり追うだけだった。
ふたりが言葉を交わすことは、ついにただのひと言もなかった。
電波妨害波の届かぬ場所までなんとか逃げ延び、《セレスト・ブルー》に救援を求めてほどなく、シヴァの身柄は仲間たちの許へ帰された。無事役目を果たしたラムゼイは、その足で、いずれともなく姿を消した。彼の消息は、それっきり杳として知れなくなった。
ラムゼイがふたたび仲間たちのまえに姿を現すのは、それから半日以上もの時を経た後のことである。
夕闇にまぎれて、ひどく怪しげな足取りで帰参した彼は、《セレスト・ブルー》の勢力圏内に足を踏み入れたところで力尽きたように膝をついた。倒れ伏すと同時に、その背から滑り落ちたものがどさりと道端に転がる。見張り役の少年たちがそれに気づいて駆け寄ったときには、彼はすでに事切れていた。
足もとに転がる、ふたつの遺体。
仲間たちは、はじめて彼が姿を消したその意味を理解した。
無骨で無口な、隻眼の大男。
不器用ながらもつねにボスの傍らでその補佐に徹し、グループをとりまとめ、裏方の仕事を愚痴ひとつこぼすことなく黙々とこなしていた《シリウス》のサブ・リーダー。
己のボスに心を寄せ、彼は最後まで忠義を尽くした。
その忠実なる副官のおかげで、ビッグ・サムは仲間の許へ帰還を果たすことが適ったのだった。




