第17章 救命措置(4)
ふと目が覚めたのは、人の気配を感じたからなのか。
なにかに誘われるように意識が現実へと浮上すると、翼は心地よい眠りから、ごく自然に覚醒していた。
目を開けると、傍らに人影が映る。自分の手を取り、心配そうに瞶めていた人物に、翼は笑いかけた。
「翼……っ!」
呼びかけに応えるように、翼はそっと手を握り返した。
掌のあいだに、固い感触のなにかが挟まれている気がした。けれども、それがなんであるかまで認識することはできなかった。
「気分は? どこか痛むか?」
「大丈夫」
囁くように答えて、翼はもう一度微笑した。
「すまない、翼。俺が油断したばかりに、おまえをこんな目に遭わせて。おまえを、護ってやれなかった……」
「──そんな顔しないで、ルシファー。僕は大丈夫だから。ね、一緒に頑張ろう? 絶対負けないで、戦おう」
「翼……?」
「僕ね、こんな自分でもなにかの役に立てるってわかって、すごく嬉しいんだ。いつもいつも君の負担になってばかりで、迷惑かけてばかりで、ちょっとつらかったから。臆病で、いつも人の評価を気にしてる自分が、本当は嫌いだった。そんな殻、打ち破りたくて、少しでも自分に自信が持てるようになりたくて地上に来たはずなのに、やっぱりいざとなると、なんにもできなくて苦しかった。どうしていいか、わからなかったんだ。
でも、僕にもできることがあるって君が教えてくれた。君が僕を必要としてくれて、僕を選んでくれた。ルシファー、感謝してる。君のために、僕は頑張れるよ。君が、勇気をくれたから……。僕のやりかたで、君とともに戦える方法を見つけた。だから、一緒に頑張ろう?」
翼の手に自分の頬を押し当て、ルシファーは何度も頷いた。
「君の瞳、すごく綺麗だなって、はじめて逢ったときから思ってた。やっとわかった。本物の蒼穹の色とおんなじ……。どこまでも透明に澄んで、耀いてて──」
「……翼?」
途切れた言葉は、そのまま夢に吸いこまれた。
お守りのように握らせていたものが、掌から滑り落ちる。バングル型の小型端末。持ち主の個体情報に反応して像を結んでいた立体の画像は、白い、清潔なシーツの上で崩れて、ほどなく消え去った。
ふたたび深い眠りに墜ちた安らかなその寝顔を、ルシファーはいつまでも眺めていた。
その夜、《セレスト・ブルー》はゾルフィンらによる奇襲を受ける。
グループは、大混乱に陥るとともに、壊滅的な大打撃をこうむることとなる。




