第13章 グレンフォード一族(3)
ひとりの少年が、崩れかけの廃屋のビルに入っていった。
これといって特徴のない、スラムでは、ごくありふれた光景の一部である。
少年は、ごく慣れた様子で建物内の階段を下りていくと、ひとつの扉を押し開けた。薄暗い部屋の中に集まっていた、仲間らしき少年たちの複数の視線が、いっせいに集中する。少年は、彼らには目もくれず、まっすぐに奥のカウンターで酒を飲んでいる人物の許へ向かった。
「ゾルフィン」
「首尾は?」
声をかけられた人物は、取り巻きたちに自分の周りをかためさせながら、振り向きもせずに言った。かつて、《メサイア》というグループ勢力を、飾り物のボスの陰で、真に支配していた人物。そして現在、《セレスト・ブルー》によって覆滅せしめられたグループの残党及び反セレスト派を集めて、報復と権勢剥奪を狙う中心人物である。
「うまくいったか?」
ゾルフィンの問いかけに、少年は、いやと首を振った。
「失敗だ。どうも別方向から例のブンヤに手ェ出そうとした奴がいて、あっというまにルシファーの粛正を受けたらしい。ヤツェクのヤロウ、完璧ビビッちまって、俺らとは手を切りてえなんぞとぬかしやがる。あれじゃ、どうにも使いもんにならねえ」
「ふん、腰抜けが」
「どうするよ、警戒が強まった以上、おなじ手は使えねえ。人質の件は諦めるか?」
「まあ、そう焦るな。ともかく、横槍入れてきたバカがだれか調べろ。それと、ヤツェクだが、役立たずのネズミに用はねえ。足がつくまえに始末しておけ」
「OK、ボス」
不穏なやりとりは、短時間のうちに終わった。
スラムのはずれで、ひとりの少年の惨殺死体が上がるのは、それからまもなくのことである。




