第9章 造反部隊との協定(2)
午前9時42分。敵の退却に合わせて、スラム側でも一時撤退を試みた。
被害状況とそれに伴うグループの再構成、データの分析、戦闘員の疲労度合い等を考慮しての判断である。
「ご苦労だったな、デル」
ボスの最終指示を仰ぐため、前線で総指揮を務めた金髪の黒人から入った連絡を受け、ルシファーは慰労の言葉をかけた。モニターの向こうからは、疲れきった表情のわりに、存外元気な反応が返ってきた。
「まったくよ。徹夜で害虫駆除なんて最低! こっちはもうへとへとだわ。睡眠不足はお肌の大敵なんですからねっ」
「わかった、わかった。悪かった」
つい数時間前の賭けの話を思い出して、笑いを噛み殺しながら司令部のボスは言った。
「デル、おまえはもういい。戻って好きなだけ休め。あとは俺が引き受ける」
「あら、ほんと? しぶといのがまだ数匹残ってるみたいだから、引き上げついでにカタしちゃったほうがいいんじゃないの?」
「いや、いい。軍側の退却命令無視して、こっちに乗りこんでくる気満々のようだからな。俺がじかに出向いて、たっぷり歓迎してやる」
「んま、それは素敵。やっとセレストの出番てわけね」
「ミッドタウンのいちばん西側の地下通路使って戻ってこい。そうすれば鉢合わせしないで済む」
「りょーかーい。即刻戦闘グループに解散かけて、デルちゃんはまっすぐおうちに帰りまぁす」
軽く請け合って、報告者は画面から姿を消した。ほぼ同時に、ルシファーはコンソールのキーを叩く。通信中、画面の右上端に出ていた地図を全面に表示させると、それを睨みながら背後の人物に声を飛ばした。
「メンバー全員、いますぐホールに招集かけろ」
命令を受けた人物が、一揖して部屋を出ていこうとする。それを呼び止めて、ルシファーは向きなおった。
「カタは、一気につける。それでいいな? シヴァ」
返答はなかった。なにもかも諦観したような表情で目礼すると、青年はドアの向こうに姿を消した。




