第9章 造反部隊との協定(1)
「なんたることだっ!」
戦闘が始まってからわずか数時間。その間、続々ともたらされる凶報に、《公安特殊部隊》地上派遣部隊の最高責任官、クライスト・ロイスダール大佐は指揮卓を叩いて呻いた。
さまざまな前科を持つとはいえ、相手はたかが子供。たかが素人。
ホテルを爆破炎上させた手際から、そこそこの技術と能力があることは認めていたが、訓練された戦争のエキスパートである部下たちが、まさかここまで翻弄され、苦戦を強いられるはめに陥ろうとは予想だにしていなかった。
手を抜いたつもりはない。だが、所詮は社会に適応することさえできなかった落ちこぼれの不良集団と、心のどこかで相手を軽視していたことは否めなかった。
部下たちをスラムに送りこんでから、およそ6時間が経過。投入した27部隊のうち、すでに約半数が壊滅させられていた。残るはあと15部隊のみ。目を覆いたくなるような悲惨な数値が、ロイスダールに容赦なく厳しい現実を突きつけてきた。それはまるで、指揮官の無能を嘲笑うかのような無様な結果だった。
「第7部隊より通信が入りました。『09時21分、MT・C3地点にて敵と遭遇せり』。繰り返します。第7部隊より入電。『09時21分――』」
機械的な口調で受信内容を解読、報告するオペレーターの言葉を、ロイスダールは疲れたように片手を挙げて遮った。
これでまた、不名誉な被害が拡大する。
疲弊した思考の一端で、それでもロイスダールは冷静に状況を判断した。
「全部隊に命ずる。ただちに戦闘を中止し、一時退却せよ。負傷者の手当て、休息の後にあらためて作戦を立てなおす。一時撤退だ」
命令は、ただちに高性能の通信システムを介して、現在戦闘中の全軍に伝えられた。
それは、軍結成以来はじめて出された、『潰走』と同義語の退却命令であった。




