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地上に眠る蒼穹~Celeste blue~  作者: ZAKI
第2部 楽園編
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第41章 楽園の崩壊(3)

 それからまもなく中央塔を脱出した一行は、すぐ近くで待機していた《自由放任レッセフェール》のメンバーと合流し、そこでふた手に分かれた。

 集団を離れたのはザイアッドとシヴァ、そしてルシファーの3名。

 彼らはトレーラーの軌道修正を試みる軍の許へ向かい、翼をはじめとするあとのメンバーは、ラフたちの待つ、当初の集合場所まで戻ることになった。

 気をつけて、と言葉をかけて別れる際、翼は、ルシファーではなくザイアッドのほうに、あるものを手渡した。


 ひょっとして、なにかで役立つこともあるかもしれないから。


 そう言葉を添えた翼を、男は一瞬驚いたように見返したが、すぐに渡されたものを軽く投げ上げて掴み取ると、ニヤリと笑って背を向けた。


 そして――






 ルシファーたちを連れたザイアッドが軍と合流したとき、すでに、予定の時刻まで残り10分を切っていた。

 刻々とカウンターの数字を縮める時限爆弾を積んで暴走する大型トレーラーの左右を、複数の軍用車が挟みこんで懸命に調整を図ろうと試みている。わずかにかしいだトレーラーのタイヤが潰れているところを見ると、パンクさせてバランスを崩し、その重心の傾きによって軌道を修正させようとしたらしい。だが、それがかえってトレーラーの暴走に拍車をかける結果となった。

 状況をひと目で把握したルシファーは、すぐさま通話回線を開いた。


「ラフ、カレンに加速機能と遠隔操作機能はついてるか?」

「おう、当然だ。おまえがまた、どんなムチャやらかすかわかんねーからな」


黒い羊(ペコラ・ネーラ)》のトップは自信満々にけ合った。


「よし。ならばこれから俺が合図したら、カレンのハンドルを一時おまえに預ける。その間、マシンがずっとおなじ間隔でトレーラーと併走するよう操作してくれ。できるか?」

「でっ――」


 相手の無謀すぎる要求に、ラフは一瞬絶句した。


「できるか、って……、そんなおまえ、さも簡単そうに……」

「無理ならいい。別の手を――」

「わーっ、待て待てっ! 切るなっ! できねえとは言ってねえだろっ。ったく、気のみじけぇ」

「やれるんだな?」


 念を押すルシファーの不敵な顔を見て、ぐっと詰まったラフは自分がカマをかけられたことに気がついた。その結果。


「ダーッ、もう、わかったよっ、チクショーッ! やってやるよっ!! けどなっ、ムッチャクチャ高度なテクが要求されるし、失敗する可能性のがたけーんだぞ! もしうまくいかなくても、俺は責任取れねえからな。それでかまわねーんだなっ!?」

「ああ、かまわない。おまえになら、安心してカレンと俺の生命を預けられるさ」


 金髪の覇王がさらりと答えると、画面の向こうで『鬼神』の顔が耳まで真っ赤に染まった。すぐ隣で、ジュールの爆笑が派手に弾ける。


「いっぺん死ねーっ!!」


 般若のような形相で絶叫するラフに、ルシファーは笑いながらまた連絡する旨を伝えて通話を切った。


「そういうわけだ。ザイアッド、軍の連中を下がらせろ。あとは俺が引き受ける」

「ボスッ!」


 異論を唱えようとする副官を制し、ルシファーは眉間に皺を寄せて黙りこむ男の返事を待った。


「――勝率は普通なら1割もない。本来であれば当然反対すべきところなんだが、あんたならその確率を9割まで引き上げられる。その認識で間違いないな?」

「ああ」


 気負いのないルシファーの答えを聞いて、地上派遣部隊の長ははらを決めた。


「よし、わかった。存分にやってこい。援護が必要なら俺がまわる」


 言うなり、ザイアッドは軍幹部が参集し、司令塔がわりの役目を果たしている1台の軍用車へと引き上げていった。


 ルシファーは不安げな眼差しを向けてくる美貌の青年に、大丈夫だと笑ってみせた。

 ザイアッドの命を受け、トレーラーの周囲をかためていた軍用車が次々に離れていく。それを契機に、ルシファーはみずからの愛車を駆って単機で勝負に打って出た。


 かろうじて肉眼で視認できるトレーラーの様子と軍用レーダーの双方で、ザイアッドをはじめとする軍幹部らが後方から今後の行く末を見守る。


 自分たちにさえ不可能だったことを、たかが一介の不良ごときに成し遂げられるわけもない。そこにいる大半の連中が、『身の程知らずの生意気な小僧』がやがてたどるだろう末路を、底意地の悪い思いで予想していた。しかしロイスダールは、部下たちと一緒になって悪意ある眼差しを向ける気になれなかった。


「大丈夫なんすかねえ」


 トレーラーの軌道修正を中断して引き上げてきたキムが、仲間たちとともに車から降りてくる。そして、複雑な表情でザイアッドの傍らに立った。

 男は腕を組んだまま、無言でその場に佇んでいた。

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