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地上に眠る蒼穹~Celeste blue~  作者: ZAKI
第2部 楽園編
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第40章 死闘(7)

「そろそろだな」


 配下の少年たちを率いて先頭を走っていたルシファーは、エンジンをかけたまま愛車を止めると、時間を確認しながら呟いた。あたりに爆音が響きわたる中、かろうじてその言葉の断片を聞きとった翼がリアシートから身を乗り出した。


「本当に跡形もなく壊しちゃうの?」


 騒音に掻き消されないよう、翼は声を張り上げた。その彼らの眼前には、天井まで見上げる、高い塔がそびえ立っている。

Xanadu(ザナドゥー)》の象徴――中央塔インペリアル・タワー


 ルシファーは愉しげな様子で翼に顔を寄せて怒鳴り返した。


「よく見とけ。最後に一発、でかい花火を上げて有終の美を飾ってやる」


 言って、後方のラフに合図を送る。それを受けたラフは、愛車を降りてこちらに近づいてきた。


「ほれ、押しな」


 自分に向かって差し出された小型端末を、翼は驚いた表情で眺めた。


「え? あの……」

「このバカ騒ぎの最後を締めくくる、大事なショウの開始ボタンだよ。まだ少し間があるが、カウントがゼロになったら同時に真ん中のボタンを押しゃあいい」


 言われて、翼はさらに困惑してルシファーを見た。


「爆薬を仕掛けるのに、おまえの手書きの地図が役立った。功労者に相応ふさわしい役目だろう」


 穏やかに促され、翼は端末を受け取ろうと手を伸ばした。そのとき、ルシファーの通信機が着信音を響かせた。


「ルシファー、エリスはそこにいるか?」


 通信画面に現れ、いつになく硬い顔で問い合わせてきたのはザイアッドだった。


「いや。まもなく合流するはずだが、まだ戻ってない」

「だれも、中央塔から出てきた姿を見ていない。招待客の避難誘導と移送作業に関わった《自由放任レッセフェール》の連中も含めてな。誘導作業終了時にジュールが連絡を取り合ったのが最後。移送機の運行操作が終了する15分後にエントランス・ホールで落ち合う約束だったそうだ。かれこれ30分以上もまえの話になる。端末に呼び出しをかけても応答もなしだ。ひどく、胸騒ぎがする」


 緊張しきったその様子に、ルシファーの周辺に集まっていた外野たちは互いの顔を見合わせた。表情を引き締めたルシファーが、中央塔を見据える。そして、そのままラフに問いかけた。


「ラフ、リミットまで、あとどのくらいある?」

「もう30分切ったとこだぜ? ――おい、まさかとは思うが、ルシファー……」

「シヴァを、連れ戻しに行ってくる」

「ムチャゆうなっ! トレーラーに取りつけた時限装置はとっくに作動してるんだぞ!?」


「だから行くんだっ!!」


『鬼神』の異名を持つ男が思わず怯むほどの剣幕でルシファーは怒鳴り返した。

 いつのまにか、すべてのエンジン音が消え、あたりは水を打ったように静まりかえっていた。緊迫した静寂の中で、表情を険しくしたまま思考回路をフル回転させていたルシファーは、不意に翼に向きなおった。


「翼、地図はどうした?」

「え? さっきラフから返してもらっ――」

「違う。そのまえに返したヤツだ」


 鋭く指摘されて、ルシファーの言っているのが、防犯装置の影響で使い物にならなくなったと分けたほうだと気がついた。あわててポケットを探り、翼が差し出した紙片を、ルシファーはひったくるように受け取って熟視した。そして、


「やっぱり、そうだ……」


 呟くなり、紙片の1枚を翼の眼前に突き出した。


「ジオラマにはなかったルートがある。ここに書かれているこの部分に、書き間違いや記憶違いということはないか?」


 指摘された場所は、翼がアナベルとともに建物内外を散歩していたときによく使用していた通路だった。


「間違いないよ。ここにたしかに、専用の通路が存在してる」


 翼が自信を持って断言すると、ルシファーはかすかに頷いた。


「悪いが、案内してほしい」

「うん、いいよ」

「おいっ、ちょっ……、待てルシファーッ!」


 あわてふためくラフと仲間の少年たちに、ルシファーはすかさず待機を命じた。


「大丈夫だ。管制室への最短ルートが見つかった。必ずリミットまでにシヴァを連れて戻る」


 言って、ルシファーはバイクのエンジンを強く噴かした。もはや止めることも、行動をともにすることも許されないとさとった少年たちは、しかたなく命令を受け容れた。そんな中でただ1台、赤毛の女傑が運転するバイクだけが、おなじようにエンジンを作動させた。


「悪いけど、あたしも同行させてもらうよ。あたしは翼のボディガードだからね」


 レオの後ろに乗っかっていた一の子分も、置いてきぼりをくうまいとちゃっかり兄貴分にしがみついている。ルシファーは、彼らを一瞥しただけで異論は唱えなかった。


「俺もすぐにタワーに向かう」


 ザイアッドの言葉に頷いて通話を切ると、ルシファーは愛車を発進させた。

 2台のバイクは、仲間の少年たちが見守る中、瞬く間に林立する建物の奥へと吸いこまれていった。

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