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地上に眠る蒼穹~Celeste blue~  作者: ZAKI
第1部 スラム編
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第4章 アジト潜入(3)

「クローディア! あんた、なにしに来たのよっ」

「ご挨拶ね。決まってるじゃない、ルシイからお呼びがかかったのよ」


 ふふんと顎を突き出す美女を、デリンジャーは憎々しげに見やった。


「まったく、ボスの気が知れないわ。あんたみたいな性悪しょうわる女、いつまで関係つづける気なんだか。取りっていったら、かおと躰くらいじゃない」

「取り柄があるだけまだマシよ。この美貌とゴージャスな躰、それだけで充分だわ。あたしは女として『最高級品』だと、あの《ルシファー》に認めさせるだけの魅力を持ってるんだから。むしろ、あたしの誇りってもんだわ。あんたも悔しかったら妙な嫉妬してないで、実力で奪いとってみせたらどう? デリンジャー」

「余計なお世話よ、この尻軽女っ。あたしはオカマだけどそっちのケ(・・・・・)は皆無だって、何遍言えばわかんのよっ! たとえボスでも男なんてまっぴらゴメン。もっとも、この世に女があんたひとりしかいないってゆうんなら話は別だけどっ。あんたなんか伴侶パートナーに選ぶくらいなら、男に走ったほうがよっぽどマシだものね!」

「こっちこそ願い下げよっ。悪いけどあたし、自分に充分つりあう男じゃなきゃ相手にしない主義なの。あんたじゃ役者不足もいいとこよ」

「んまあっ、あんたに言われたかないわね、この性格ブス! 気分悪いわ。さっさと消えなさいよっ」

「言われなくたって消えてやるわよ、もう用事・・はとっくに済んだんだから。じゃあね、ごきげんよう、取り柄なしの不細工なオカマさん」


 美女は、これ見よがしにせせら笑って豊かな黒髪を掻き上げると、悠然と立ち去っていった。


「きーっ、悔しい! なによ、このバカオンナッ! あばずれ! 二度と来んじゃないわよーっ!!」


 デリンジャーは、曲がり角の向こうに消えた宿敵に向かって地団駄を踏みながら叫んだ。


「っとに、もう! ボスの周りって、人格形成失敗した奴らばっかでやんなっちゃうわっ。シヴァといい、あの女といい、なんだってああ底意地の悪い、性格破綻者ばっかそろってんのかしら。新見ちゃん、あんたも気をつけなさいよ。あんな女の毒牙にかかったりしちゃダメ。あんた、それでなくてもそーゆうのうとそうな、ぽやっとした顔してんだから」

「そ、そうだね、気をつけるよ」


 デリンジャーの剣幕にたじたじになりながら、翼はひきつった笑顔で応えた。


「ねえ、ところでいまの人……」

「クローディア・セシル。ボスのオンナよ」

「本物?」


 質問の意味をしかねて、デリンジャーはキョトンとした。


「本物? 本物ってなにが?」

「いや、あの、こんなところ――って言ったらなんだけど、まさか女の人がいるなんて思わなかったから、ちょっとびっくりして……」

「ああ、そういうこと。そうね、性格に問題はあるけど、あの女は正真正銘、生まれたときからのXX(ダブル・エックス)、本物の女よ。スラムにだって女ぐらいいるわ。もっともあの女は、地上こっちに赴任してるエリート官僚の情婦で、スラム(ここ)住人にんげんじゃないし、この辺はとくに治安が悪すぎて警察も介入できない無法地帯だから、スラムの女たちだって普通は寄りつかないけどね。あの女くらいじゃない、平気で出入りしてるのなんて。心臓に毛が生えてんのよ。ボスのオンナにだれも手が出せないってことも、ちゃんと計算に入れてるし。厚かましい顔してたでしょ?」


 デリンジャーはどこまでも、クローディアに対する攻撃の手をゆるめようとしない。よほど相性が悪いのだろうと感心する反面、翼は先程のふたりのやりとりを思い返して危うく吹き出しそうになった。高尚とは言いかねる言い合いを真剣にしていた彼らは、ある意味、なかなかいいコンビなのではないかと思ったのだ。


「なによ?」


 笑いをこらえて一瞬妙な顔をした翼を、デリンジャーは怪訝けげんな表情で見返した。


「ねえ、デリンジャーってもしかして、人の好き嫌い激しい?」

「もしかしなくても超激しいわよ。あたし、結構好みがうるさいの。でも、安心して。新見ちゃんのことは気に入ってるし、意地悪したりしないから」


 ふうんと頷いて、翼はチラリと意味深な視線を相棒に向ける。傍観者を決めこんでいたレオは、途端に一緒にされちゃ迷惑だと言わんばかりに顔を蹙めて横を向いた。


「さあ、とにかくボスのところへ行きましょう。こんなところでもたもたしてると、また変な邪魔が入りかねないわ」


 デリンジャーは翼を促した。横に並んで歩く青年に向かって、彼はまだなにごとか、自分の天敵たちに対する憤懣ふんまんをぶちまけている。そのたくましい背中を見つめながら、レオはわずかに口角を吊り上げた。


「――食指が動かない、ね。よくゆうよ、まったく」


 ぽつりと漏れた呟きは、だれの耳に届くことなく沈黙に上書きされた。デリンジャーに対するレオの評価が、そのひと言で決定したことは、ほぼ間違いのない事実だった。

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