第34章 幻惑の果て(1)
それは、全世界を揺るがすニュースとなった。
会場内に突如流れた映像を、最初、人々はただ呆然と眺めるばかりだった。
なにが起きたのか、理解した者はひとりもいなかった。
巨大スクリーンが映し出す映像の意味するものは、いったいなんなのか。
次々に展開される信じがたい光景に、人々はただ圧倒され、息を呑むばかりだった。
ざわめいていた室内が、次第に静まりかえっていく。
空調が完備されているはずの大広間に、底冷えのする冷気が立ちのぼった。それは、瞬く間に侵蝕する範囲をひろげ、空間全体を覆い尽くしていった。
起こりつつある事態の重大性に、はじめに気づいたのはだれだっただろう。
スクリーンを背後にしたがえ、やがて、ひとりの人物が壇上に姿を現した。
「本日、このような晴れの席に、かくも大勢の方々にご来場賜りましたこと、心より御礼申し上げます。また、本式典の趣旨及び名目が、ただいまをもちまして急遽変更となりましたことを、主催者に成り代わりまして深くお詫び申し上げたいと存じます」
壇上の人物は滔々と語る。
人々は、やはりなにが起こっているのかわからぬまま、壇上の人物を注視していた。
主催内容の変更。
突発した予期せぬ事態に、会場内にはふたたび不安げな人々のざわめきが満ちた。
全報道のトップを華々しく飾るであろう一大イベントをスクープすべく参集したマスコミ陣営の中で、あることに気づいた数名が、ほぼ同時に声をあげた。
「おい、あれってまさか……」
「そんなばかな……っ!」
会場内にひろがる動揺は、それらの声により、さらに緊張を帯びていった。
「ご臨席の皆様にご覧いただいております映像につきまして、これより仔細をご説明申し上げたいと思います。が、そのまえに──」
壇上の人物は、そこで思わせぶりに言葉を区切った。そして、自分を見て騒ぎ立てている報道陣に向かって昂然たる笑みを投げかけた。
「ここでまず、申し遅れました、わたくし自身の身分をあきらかにしておきたいと存じます。すでにお気づきの方もおいでのようですが、多くの方々は、突然現れて、この場を取り仕切っている胡散臭い人間に不信の念を抱いておられることでしょう。
わたくしの正体、そしてその目的があきらかとなれば、皆様の、よりいっそう深いご理解と共感をいただけるものと信じてやみません」
謐かな声が、ひとりひとりに語りかけるように響く。
壇上の人物は、ひと呼吸置いて堂々と告げた。
「私の名は、ジョー・ハロルド――」
驚愕は、全世界に深刻な波紋を投げかけた―――




