第31章 再会(5)
《Xanadu》に緊急警戒態勢が敷かれるのとほぼ同時に、主催者側であるグレンフォード及びその最主賓たるシルヴァースタイン両家親族が募っていた控えの間は、外に繋がる出入り口すべてを強制的に何者かに封鎖され、逼塞を余儀なくされた。
「なんなのこれ……、いったいどういうこと?」
不安げにさざめくきらびやかな装いの眷属一同を見渡しながら、女はひとり、茫然と呟いた。その傍らに近づいた男が、これもまた可能なかぎり声を低めて囁いた。
「落ち着けよ、マグダレーナ。俺たちが平静を装わないでどうする」
グレンフォード家の長女は、異母弟であり、もっとも信頼する片腕でもある男を極めて何気ない様子で顧みた。
「わかってるわよ、そんなこと。でも、わたしはなにも聞いてないわよ、バーナード。いったい、なにがあったというの? あの子は──アドルフはなにをしているの?」
「さあ、それがさっぱり」
バーナード・グレンフォードは、端整な風貌にコミカルな表情を浮かべて肩を竦めた。
「この部屋は、外界と完全に隔絶されちまったらしい。連絡をつけようにも、通信機能の悉くがうんともすんとも反応しないときちゃ、お手上げだな」
「なんてこと……」
「俺たちが騒いでも、いまはどうにもならんだろう。ま、俺たちにどうにもできなくとも、我らが頼もしき弟殿がなんとかするさ。じゃなきゃ、もうすでに手を打っているころだろうよ。新総裁のお手並みを、ゆっくり拝見といこうじゃないか、姉さん」
「そうね。それしかないようね」
静観する覚悟を決めたマグダレーナは、毅然とした眼差しを室内に向けた。
「バーナード、アナベルがあの子を呼びに行ったきり、まだ戻ってないわ。ご夫妻が心配しておいででしょうから、あなた、行って、うまくお慰めして差し上げてちょうだい」
「はいはい。なんとまあタイミング良くというか悪くというか」
剽げた口調そのままに、男は深刻さの欠片もない様子で肩を竦めた。
「あいつめ、しっかり婚約者を護り抜くぐらいの度量を見せてくれよ。俺はあとで恨まれたくないからな」
暢気な口調で独りごちて、バーナード・グレンフォードはゆったりと姉の許を辞した。
「バーナード」
マグダレーナは、均整のとれたその後ろ姿へ声をかけた。異母弟は歩みを止めて肩越しに振り返る。
「カルロスも、見当たらないようね」
「――ああ、たしかに」
最初からわかっていたようによどみのない、きっぱりとした応えが返ってきた。
「……なにを、知っているの?」
長姉の問いかけに、男はゆったりと笑んだ。
「なにも」
応えた男の態度に、隙はなかった。
「俺たちはあくまで総裁の手駒にすぎない。それが、《グレンフォード》だろう?」
言って、バーナード・グレンフォードは悠然と身を翻した。




