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地上に眠る蒼穹~Celeste blue~  作者: ZAKI
第1部 スラム編
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第3章 取材活動(5)

 咄嗟に相棒を庇って身構えたレオと、緊張と不安の色を浮かべた翼、そして、突然の大物の登場に、くらい戦慄を湛えて立ち竦むディック。3人の様子をおもしろそうに観察していたデリンジャーは、やがて身を起こすと、ゆっくりと近づいてきた。


「いやあねえ、そんなヒト、化け物でも見るみたいな目つきで見て。安心なさいな、だれも捕って食いやしないわよ」


 レオと張る体格の、筋骨隆々(りゅうりゅう)たる男のその言葉遣いに意表を突かれ、ディックを除くふたりは面くらって思わず目をまるくした。その反応をますますおもしろがるように眺めてから、デリンジャーは翼に向かってニコリと愛想よく笑いかけた。


「あんた、新見翼でしょ?」

「あ、え? あの……?」


 警戒を強めたレオが、さらに翼を自分の後ろに押しやり、鋭い視線を投げつける。それを見て、デリンジャーはやれやれといった具合に眉を上下させた。


「大丈夫よ、あたしはあんたたちの敵じゃないわ。もちろん味方ってわけでもないけど。でも、いますぐあんたたちをどうこうしようなんて考えちゃいないから、安心してちょうだい」

「あんたが信用できる人間だって証拠が、どこにある?」

「証拠? そんなものありゃしないわよ。でも、あんたたちはずっと、うちのボスに用があっていろいろ探ってたんじゃないの? だったら、あたしを信用するもなにもないんじゃない? あたしはれっきとした《セレスト・ブルー》のメンバーで、いま、その子が言ったように、一応はナンバー・スリーの座に就く人間なんだから。ねえ、そうよね、ディック?」


 そう振られて、少年はふるえながら何度も大きく頷いた。


「そうら、ごらんなさいな。あんたたちがうちの情報集めるのに苦労してるっていうから、わざわざこっちから出向いてやったってのに、いまさら証拠を出せもないもんだわ。違う?」

「けど、こっちだって生命は惜しいからね。あっさり始末されてやるわけにはいかないんだよ」

「だから、そんなことしやしないって言ってんでしょ。ちょっと様子を窺いに来ただけよ。始末するつもりなら、最初からひとりでのこのここんなとこまで出てきて、こんなふうに悠長に立ち話なんかしてないわ。有無を言わさず囲って、さっさとっちまってるわよ。そのほうが手っ取り早いんだから。ディック(そのこ)があたしを怖がってるのは、もう条件反射。しかたないのよ。それだけの威力をセレスト(うち)は持ってるから」


 誇示するわけでなく、ごくあたりまえのことを口にするようにさらりと言ってのけ、デリンジャーは愉しげにヒラヒラと手を振った。


「べつにいいのよ、信用できないっていうんならそれでも。あたしは気まぐれで顔出しただけだし、こっちにはとくになんの用事もないんだもの。このまま引き上げるわ。でも、よく考えて、どうするのが自分たちにはいちばんトクか、計算したほうがいいんじゃない? あたしなら、あんたたちが咽喉のどから手が出るほど欲しがってる《セレスト・ブルー》に関する情報も、《ルシファー》に関する情報も、死ぬほど持ってるのよ? 直接ボスに会わせてあげることだってできるわ。

 そこのあなた、かなり腕が立つようだから、あたしに含むところがあるかどうか、殺意があるかどうかくらい、わかるんじゃない?」


「ほんとですかっ!?」


 デリンジャーの問いかけに、レオが応えるより早く反応したのは翼だった。


「本当にルシファーに会わせてもらえるんですかっ?」

「おい、ちょっと、翼!」


 意気込んで身を乗り出す青年を、あわてた相棒が急いで引き戻そうとする。翼はかまわずその手を振り払って、デリンジャーに詰め寄った。


「だったらお願いしますっ。ぜひ彼に会わせてください!」

「翼!」


 相棒の軽率すぎる行動を、レオはなんとか思いとどまらせようとした。しかし、青年は聞く耳を持たなかった。


「彼に会いたくて、ずっと捜してたんです。会わせてくださいっ、お願いします!」

「会わせるぐらい、かまやしないけど、あの人、取材にはきっと応じないわよ」

「かまいません! とにかく会って話がしたいんです!」


 翼の真剣なさまを、デリンジャーはしばし無言で見つめていた。が、やがて組んでいた腕をほどいて片手を顎に当てると、唐突に莞爾かんじたる笑みを浮かべた。


「いいわ、ほんとは様子見るだけのつもりだったんだけど、《ルシファー》に会わせてあげる。口滑らしたのは、あたしのミスだしね。大丈夫、デリンジャーさんは約束は必ず守るのよ。ついてらっしゃい」

「はいっ、ありがとうございます!」


 元気に頭を下げた翼を見つめる黒い瞳が、やわらかくなごんだ。


「いい子ね。きちんとお礼が言えて、潔く謝れる子は、それだけで立派に胸を張って、みんなに自慢していいのよ」


 そう言って翼の肩にまわされた褐色の大きな手は、思いのほかあたたかく、そして優しかった。

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