第31章 再会(2)
「あーっはっはっはっはっはっはっ!!」
唖然とする一同を後目に、その場の雰囲気を完全にぶち壊しにして大爆笑したのはジュールであった。突然の事態に、いったいなにごとが生じたかとポカンとした翼であったが、どうやらその反応は、眼前に現れた『絶世の美女』に起因するらしかった。
「い…、いや、失礼。俺にはかまわず、どうぞ先をつづけて」
感動の再会を台なしにした張本人は、涙を拭いながら言うものの、まだ笑いつづけている。
すっかりシラケてしまった中で、『美女』は憮然と、笑いすぎで苦しんでいる青年を睨みつけた。
「おまえよお、ここでそういう反応しちゃうか、普通?」
ベルボーイの制服を着た人物が、呆れ返った様子で相方にあたる青年を窘めた。だが、青年のほうは完全に笑いのツボに陥ちてしまったらしく、どうあってもそこから浮上しきれないようだった。
「いや、悪い。あらかじめ話には聞いてたし、たしかにふるいつきたくなるような完璧な美女ぶりなんだけど、なまじ原型を知ってるだけに、なん、て、いうか……」
言うそばからプククククッとこみあげる笑いを漏らして、ジュールは口許とおなかを押さえ、躰をふたつ折りにした。そして、
「ちょっと失礼」
目に涙を浮かべながら、躰を折り曲げた不自然な格好でよろよろとその場を離れると、数メートル先の角を曲がって姿を消し、
「あーっはっはっはっはっ……!」
遠くで笑いを炸裂させた。
「やっぱりあの子って、相当変わってるわよね」
ジュールの消えた角を見やりながら、興醒めした顔で金髪の黒人がボソッと漏らした。
「だからあいつにだけは、この格好で会いたくなかったんだっ」
低く吐き捨てた『絶世の美女』は、乱暴にティアラやイヤリングなど、豪華な装飾品を毟りとって床に投げ捨てた。美しく結い上げていたウィッグもついでに引きちぎるように頭から取りはずし、金髪の黒人が手にしていた紙袋をふんだくる。そして、ヒールの足音も高く、憤然とすぐわきのレストルームへ姿を消した。
「あん、ボス! あたしの着替えまで持っていかないでちょうだい!」
デリンジャーがあわててそのあとを追いかけていった。
取り残された翼たちは、各々複雑な表情で互いに目を見交わした。
「とんでもねえ兄ちゃんだな。あの陛下を、あそこまで笑い飛ばしちまうかね」
礼装の紳士が、タイをはずして襟元をゆるめながら、なかば感心した口調で呟いた。そのセリフに、傍らに立つベルボーイが肩を竦めた。
「奴を弁護する気はさらさらねえんだがよ、あいつはもともと、すげえ笑い上戸なんだよ。ま、だからって、あの天下の《セレスト・ブルー》のルシファーを、ああまでコケにできんのはあいつぐらいなんだけどよ」
俺だって、あの人相手に、あそこまでの無礼は働けねえよと述懐するベルボーイに、紳士がそうだよなあと深々と同調した。
そして、この間ずっと沈黙を保っていた黒髪の美女は──
「……いやだわ。レズになった気分」
蒼い顔で呟いて、一同をギョッとさせた。
笑い声は、まだ遠くで谺していた。




