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地上に眠る蒼穹~Celeste blue~  作者: ZAKI
第2部 楽園編
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第28章 事前準備(2)

「ねえ、いまみんなでティー・ブレイクにしてたのよ。よかったらあなたも休憩して、一緒にお茶飲まない?」

「いえ、申し訳ありませんが急ぎますので」

「あらあ、そんなこと言って、あなたいっつも朝から晩まで働きづめじゃない。無理すると過労で倒れちゃうわよ、そうじゃなくても、こんなに細いんだもの。顔色だってあんまりよくないみたいだし、ちゃんと睡眠とってるの? それに食事も。たまには息抜きぐらいしなきゃ。あんまりあなたばっかりに過重労働させてるんだったら、あたしがあなたのボスに文句言ってあげるわ。なんだったら、いまちょっと言ってくるから、あなたここで少し休憩してらっしゃいよ、ね?」

「いえ、あの、本当に結構です。大丈夫ですから、どうぞおかまいなく」

「えー、でもォ」

「お気持ちだけありがたくいただきます」


『そそくさ』という表現のぴったりした動作で立ち去ろうとしたシヴァであったが、ジェーンのほうが半瞬だけすばやかった。逃げかけた青年の腕をしっかりと捕まえて、彼女はそこに自分の腕をさっさと絡めてしまうと、有無を言わさず皆のほうへ引きずっていく。


「え、あの、ちょっ…と……」

「いいからいらっしゃい。ずっととは言わないから、せめて5分だけでもあなたの時間をあたしにちょうだいな。そのくらいならいいでしょう?」

「でも……」

「どうしても気が進まないなら、一緒にお茶を飲めとは言わないわ。そのかわり、美味しいお茶を淹れてあげるから持ってらっしゃい。あたしがあなたの部屋まで押しかけて運んでったりしたら、あなた、もっと嫌でしょう? だから、いまこの場でカップ渡してあげる。あなたにだって、少しくらい息抜きできるひとときがあってもいいじゃない。こんなに頑張ってるんだもの。そのくらいのご褒美があってもいいと思うの」


 言って、ジェーンはデリンジャーの隣のスペースに青年を座らせた。


「で、なにがいい? コーヒー? 紅茶? ホットチョコレート? グリーン・ティーくらいまでなら淹れてあげられるわよ」


 たたみこむように訊かれて、シヴァは困り果てた様子で視線を彷徨さまよわせ、ついには観念して小さく答えた。


「あの、それでしたら紅茶を」

「いいわ。とっておきの葉っぱで、最高に美味しい紅茶を淹れてあげる。家から持参したのがあるから。あたし、紅茶の淹れかた、すごく上手なのよ」


 言ったことがでまかせではない証拠に、じつに手慣れた様子でジェーンはポットに葉を落とし、カップを温める。

 おとなしく待つ青年のすぐわきに、ニヤニヤ笑いを浮かべた男が並んで座った。


「成長したじゃねえか。ほっといてくれって他人の厚意つっぱねなくなっただけ、いくらか素直になったんじゃねえか?」

「おかげさまで」


 青年は、厭味とも本気ともつかぬ語調で応じた。


「あら、シヴァはもともと素直で優しい人よ。ただ、シャイで感情表現が苦手なだけ。ザイアッド軍曹こそ、彼のことそんな目でしか見られないなんて、性格歪んでんじゃない?」

「いやあ、こんなハニーに惚れちゃうくらいだから、相当歪んでんだろうなあ」


 きついひと言にもいっこうに堪えた様子もなく、男はへらへらと笑って青年の肩を抱く。その手をピシャリと叩いたのは、シヴァ本人ではなく、背後に立った人物であった。


「俺の大事な右腕に、余計なちょっかいは出すなと言ってあるだろう、ザイアッド」

「ボス!」


 驚いた青年があわてて立ち上がりかけるのを、ルシファーはやんわりと押しとどめた。


「なんだよ陛下、野暮な真似すんなって。馬に蹴られんのがオチだぞ」

「なんでおまえの悪ふざけを窘めて、俺が馬に蹴られなきゃならないんだ?」

「そりゃ、なんたって、俺たちゃ相愛の仲だからよ」

「んまあ、最近シヴァがなんにも言わないからって、すっかりつけあがってるわね、この男」

「図に乗ってるわ」


 デリンジャーとクローディアが、絶妙のコンビネーションですかさず男の言動を酷評した。


「いつまでも馬鹿なこと言ってないで来い、仕事だ」


 ルシファーは男を促した。ザイアッドはへえへえと不真面目に応じると、テーブルに両手をついて立ち上がった。


「またな、ハニー」


 一緒に立ち上がりかけたシヴァの肩を、男はポンと叩く。そして、ルシファーのあとを追っていった。

 なんとなく取り残されたかたちでその場に留まったシヴァのまえに、鮮やかな色合いのお茶が注がれたカップがほどなく置かれた。あたりまえのようにトレイに載せられたそれが3つであることに気づいた青年が顔を上げる。そんな青年に、ジェーンはニコリとした。


「ついでに、あの人たちにも持っていってあげてくれない? お使い立てなんかして申し訳ないんだけど」

「あ、いいえ。ありがとうございます」


 所在なげな様子がたちまち払拭され、素直に礼を述べるとシヴァはトレイを受け取った。


「──シヴァって、可愛いわよね」


 その姿が視界に映らなくなるまで見送ったあとで、ジェーンがぽつりと言った。


「なんか、けなげで一途なところが、すごく初々(ういうい)しいわ」

「そぉねえ、天然記念物に近い世間知らずだから、一生懸命さも不器用さと相俟あいまって、際立つわねえ」

「ルシイにも結構愛されてるわよね。『俺の大事な右腕』、とか言っちゃってさ」


 3人三様に感想を述べて、なんとなしに輪からはずれた場所に佇むレオへ視線を向ける。


「いや、ま、いいんじゃないかね。うまく人間らしいバランスがとれてるってことで」


 無言でコメントを強要されて、レオはしどろもどろになりながら、ややピントはずれな感想を述べた。

 少年たちが遠巻きになる理由が、なんとなくわかる気がするレオであった。

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