第25章 楽園計画(4)
壁中にコンピュータが埋めこまれた薄暗い小部屋の中央に、曇りひとつなく磨き抜かれた筒状のガラス容器が置かれていた。
床から天井まで、柱のように伸びたその容器は、複雑な回路を通じて周囲を取り囲むコンピュータと密接に繋がっていた。
特殊溶液で満たされたその内部に、あらゆる角度から無数のコードが伸び、ある一点で放射状に交わっている。
その中心に、それはあった。
まるで、絶海に浮かぶ孤島のように。
無色透明の液の中で、薄桃色の輝きを保つ、無数の襞と皺に覆われた、やわらかな物体。
それは、かつて絢爛たる栄華に彩られた玉座に座す者の一部だった。そして、《グレンフォード》という名の一大叙事詩を美しい調べにのせ、完全なる調和と、究極の芸術性をもって紡ぎ上げた『名器』――その、なれの果てであった。
かつて、ウィンストン・グレンフォードと呼ばれし者――
ガラス容器のまえに立ったカルロスは、父の脳を無感動に眺めやった。
「分析状況は?」
視線を前方に据えたままカルロスが低く尋ねると、傍らの人物が、それに満足げに答えた。
「順調に進んでいるとも。もうじき、なにもかもが我々の望みどおりとなる。そしてカルロス、世界は君にひれ伏すことになるだろう」
スタニスラフの阿諛を、カルロスは黙然と受け流した。
生を諦め、手放したその瞬間から、どんな偉大なる王者も敗残者と成り下がる。目の前にあるモノこそが、そのいい見本ではないか。
自分は、決して負け犬に甘んじる末路など受け容れはしない。
父よ、真に賢明なる選択が如何なるものであるか、地獄の底で己の無力を呪い、歯噛みして眺めているがいい。
カルロスの薄い口唇の両端が、ゆっくりと吊り上がる。
妄執に取り憑かれた者の、悽愴たる覚悟がそこに浮かび上がっていた。




