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地上に眠る蒼穹~Celeste blue~  作者: ZAKI
第1部 スラム編
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第3章 取材活動(1)

旧世界ガイア》の行政機関は、《メガロポリス》より配属された各支局が、ひとつの巨大な合同庁舎の中で、本部及び連係機関と必要に応じた情報のやりとりをしながら機能・運用する仕組みになっていた。地上勤務を言い渡された官僚の多くは、庁舎に隣接するマンション、あるいはホテルを赴任期間中の仮の住まいとし、行政区画内に整えられたさまざまな施設を利用することで、地下都市となんら変わることのない、安全で便利な暮らしを保障されていた。

首都キャピタル》の大手新聞社、ユニヴァーサル・タイムズより派遣された新見にいみつばさとその相棒のフリーカメラマン兼ボディガードのレオナ・イグレシアスもまた、それら新設の区画に用意されたホテルに滞在し、そこを拠点に1カ月間、取材活動を行うこととなっていた。



「こちらが、本日の新見翼及びレオナ・イグレシアスの取材活動に関する調査報告です」


 美しく磨き上げられた重厚な造りの木製の執務卓に、一式の書面が置かれた。

 内務省地上保安維持局長執務室。肩書に比して年若い、端整な貌立かおだちをしたその部屋の主――アドルフ・シュナウザーは、手にしていたタブレット端末をわきに置くと、秘書の持ってきた報告書に目を走らせた。


「なかなか精力的に、取材に励んでいるようですね」


 感情の読み取れぬ、平淡な声で私見を述べた秘書に対し、シュナウザーは紙面から顔を上げると、朗らかな様子で片手を振ってみせた。


「頑固――というか、一途な目をした生真面目な青年だったからね。危険を理由に少しくらい牽制したところで、そう簡単には引き下がってはくれないだろう。忠告に従ってもらえないのは残念だが、それもいたしかたあるまい」

「わざと煽られたのは貴方でしょう? ご自分で蒔かれた種なんですから、責任はしっかりお持ちください」

「わかってるよ、マリン。このところ、どうも私にだけ当たりがきついようだが、おまえは私のしていることが不満なのかな?」


 機嫌を窺うように自分を覗きこむライト・グレーの双眸そうぼうを、秘書のフィリス・マリンは無感動に見つめ返した。


 先月30歳の誕生日を迎えたばかりのこの青年は、シュナウザーの持つ華やかさとは対極的に、どちらかといえば冷ややかな印象を与える、硬質の美貌の持ち主であった。

 ダーク・ブロンドにロイヤル・ブルーの瞳。シュナウザー同様若くして高位にあり、見事に采配をふるうだけのことはあって、右腕とするにはじつに申し分のない、沈着冷静、極めて有能な秀才タイプの辣腕らつわん家であった。


 ただ――と、シュナウザーはひそかに思う。才気煥発(かんぱつ)な彼自慢の秘書は、切れすぎるがゆえに、時折、彼の真意を見透かして、非難の眼差しを向けてくることがある。むろん、表立ってマリンがそれを口にすることはない。しかしながら、日々、仕事をともにしているシュナウザーには、その心中が手に取るように理解できた。


「……不満など、なにもございません」


 須臾しゅゆ、沈黙がつづいた後に、美貌の青年はきっぱりと否定した。


「では、もっとはっきり言おう。おまえは私に愛想を尽かしている。違うとは言わせないよ、マリン。そんなことも見抜けぬ私ではないのだから」

「いつもの貴方らしからぬ、姑息な手段を使われると思っているだけです」


 忌憚きたんのない物言いに、シュナウザーは随分だなと苦笑を漏らした。


「だって、しかたがないじゃないか。こうでもしなければ、あれ(・・)の居どころを掴むことなんて到底不可能なんだからね。いままでいったい、幾度試みたことか。そしてそのすべてがことごとく失敗に終わっている。だったら私は、少しでも可能性のあるものに賭けてみたいんだよ。

 新見翼――殺されて当然の状況にいながら、彼は奇蹟的にも、たいした怪我もなく生き残っている。しかも、間違いなくあれ(・・)に会っているにもかかわらず、だ。どういうつもりであれ(・・)が息の根を止めずに彼を見逃したのかはわからないが、彼ならばおそらく、なにかを突き止めるに違いない」


 同意を求められても、マリンの表情は動かなかった。


「――あの少年に、なぜそこまで執着なさるのか、私には理解できませんね」


 抑揚のない声でそう述懐する秘書に、シュナウザーはからかうような視線を投げかけた。


「かわいいね、マリン。もしかしてやきもちかい?」


 まともに相手にするのもバカバカしいと思ったのか、控えめで有能な秘書は、冷たい沈黙とともに無情な一瞥を上司に投げつけると、慇懃に一礼して退室していった。

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