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地上に眠る蒼穹~Celeste blue~  作者: ZAKI
第1部 スラム編
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第23章 13番目の仕掛け(1)

 11番目の装置が爆破した直後、ルシファーは、リーダー格の男が姿を消していることに気づいて舌打ちした。


 かなめ抜きのチェイスでありながら、男たちの追撃は執拗さを増して、つけいる隙をなかなか見せなかった。あらゆる角度から絶えず銃口が青い車体を狙い、息つくまもなく次々に攻撃を仕掛けてくる。トラップの存在と、ルシファーがあえてこのエリアを選んで彼らを引き入れたその意図を重々承知しているであろうにもかかわらず、男たちは一心、標的を追いかけることをやめようとしなかった。


 その理由は、考えるまでもなく明々白々。

 いまごろ、ただひとり戦線を離脱した男は、《セレスト・ブルー》の拠点を目指して疾駆しているに違いない。


 任務のまっとう。捕らえるべき獲物が明確に示されている以上、その他の余分な虫けらを排する手間は、彼らにとって無駄な労力にすぎなかった。



「デルッ、ミウたちの現在地は!?」

「ラフやロルカたちとは別行動をとってるわ。いま、港湾北第2ブロック西南部の航空機整備場近くよ。ボスからの命令待ち。ついでに単独で戦線離脱したおじさまは、ボスとミウたちの位置を対角線で引っ張ったちょうど中間あたりにいるわ。やあね、ひょっとしてセレスト(こっち)に向かってるのかしら、往生際の悪い。西に向かって驀進ばくしん中よ」

「よし、雑魚ざこをカタすまでのあいだでいい。進路妨害してミウたちに時間稼ぎをさせろ!」


 通話マイクに向かって、ルシファーは鋭く命じた。


 急カーブを描いて飛びこんだ路地裏のすぐ正面に、崩れかけの工員寮が立ちはだかる。巧みにハンドルをさばいて手前の階段の手摺りに車体を乗り上げたルシファーは、そのまま階上まで突っ走り、欄干沿いを走破して別棟へ移ると、ふたたび地上へ降り立った。


 あとにつづいて路地裏へ飛びこんできた数台が、ハンドルをかわしきれずに建物の壁に激突して炎上する。中庭に逃れるいまいましいその姿をとらえた後続の男たちが、飢えた野獣のように目を光らせて別々の方角から建物をまわりこみ、獲物を挟み撃ちにしようとした。

 建物が複雑に入り組んだ中庭は、東西の各棟とそれを繋ぐ渡り廊下に取り囲まれ、深いコの字型を描いて行き止まりとなっていた。東棟、西棟それぞれの側道と、そのあいだに伸びる間道の三方向から狭い中庭。すなわち抜け道のないコの字型の最奥部へと青い車体を追いこんだ男たちは、ブレーキをかけて停止した標的に狙いを定め、中庭へと進入した。


 進退窮まった獲物が、男たちを顧みる。だが不意に、その口唇が不敵な様子を見せて吊り上がった。


 次の瞬間、青い車体の前輪が、前方の壁に向かって突進する。そして、行き止まりになっている壁面を蹴って、見事な動きで車軸を返した。


 青い大型車は、そのまま壁面と垂直――すなわち、地面に平行の体勢を保ったモトクロッサーを思わせる動きで建物の壁を走破すると、来た道を勢いよくとって返した。


 自分たちに向かって突進してくるその無謀な行為に、さすがの男たちも驚愕し、あわてふためいた。その頭上ギリギリを通過して、追いつめたはずの獲物は、あっというまに閉塞した空間の外へと抜け出していた。

 度を失った男たちが、思わずハンドルを切りそこねて互いに激突する。派手な衝突音を背後に流して、ルシファーは時間と残存する敵の数とをあらためて確認すると、強くアクセルをふかした。



「うわっ、ボスッ!!」


 司令部でスクリーンを注視していたディックが、その動きを見て思わず悲鳴をあげた。それも無理からぬことで、ルシファーは、いままさに、起爆スイッチが入ろうとしている12番目の爆破装置に猛スピードで接近しようとしていた。


「ちょっ、マジこれじゃ吹っ飛んじまうっ!」

「あんた、ちゃんと正確な位置教えたんでしょうね!?」

「言いましたよ、間違いなくっ。どうしよう、チェイスに夢中んなってて気づかねえのかな。ボス、ボスッ、引き返してください! このままじゃつっこんじまうっ。ボスッ!!」

「ムダよ、もうまにあわないわっ!」


 マイクに飛びついて絶叫するディックの声に、デリンジャーの悲鳴がかぶった。

 コンピュータのカウントがゼロの値を表示した刹那、スクリーン上で爆破装置を示す印とルシファーの通過点とが重なった。絶望的な思いで一同が息を呑む。が、次の瞬間、ディックは目を疑ってスクリーンにかじりついた。


「あ、あれ? あれえっ?」


 爆破と同時に点滅した光点が、瞬きをするあいだに、実際上の距離で200メートルほど離れた位置へと移動していたのである。


「──いやだ、ほんっとにやることがムチャクチャなんだから……」


 途端にデリンジャーが、がっくりと肩を落として疲れきった声で呟いた。


「あのバイクの『特別仕様』って、こんなぶっとんだ意味だったのね」

「超加速機能……。ハ、ハハハハハ……」

「取りつけるほうも乗りこなすほうも、すげえ技術テクだな」


 へたへたと床に座りこんだディックの横で、そういった方面に詳しいレオが、いたく感じ入った様子で独語した。


「もうっ、冗談じゃないわ。()ってみんな反応が一緒なんだから! どんなに性能がよくて運転技術がたしかでも、あんな無鉄砲な真似ばっかしてたら、生命がいくつあっても足りないのよっ。そんな輝かせて感心なんてしないでほしいわ!」


 喰ってかかるデリンジャーに、レオは謝罪の言葉を口にしながら小さくホールド・アップした。機嫌を損じた妻のまえで、平謝りに謝る亭主の図を思わせる。やりこめる側とやりこめられる側の複雑極まる性別に、はたで見ているディックたちは珍妙なおかしみを感じたが、そのことを口にできる者はだれもいなかった。

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