第22章 熾烈なる攻防(6)
《セレスト・ブルー》では、相変わらずスクリーンを睨んでいたデリンジャーがルシファーの動きを見て歯噛みした。
「ああ、もう! やっぱり予定変更しない気ねっ。せっかく一度は安全圏まで離れたのに、また単機でつっこんでく。これだから若い子って嫌いなのよ、ムチャばっかやらかすんだから」
「いくら若くったって、あんなん、ボスにしかやれないっすよ」
うっかりボソッと漏らしたディックは、途端にクワッと牙を剥かれて20センチほど飛び上がった。
「もとはと言えば、あんたがビッグ・サムの首に縄つけて、しっかり見張ってなかったのがいけないんでしょ! このおバカッ。もしこのままボスが木っ端微塵になっちゃったら、どうしてくれんのよっ」
「そっ、そんなぁ」
半ベソ状態の弟分を庇って、レオがまあまあと神経過敏になっているデリンジャーをとりなした。
「ここで不毛な言い争いしてたって事態は好転しやしないよ。タイム・アウトまでにはまだ時間がある。最後まで信じて、ルシファーに任せよう。狼だって、もうじき連絡をよこす頃合いだろ」
「それはそうだけど……」
言って、デリンジャーはしぶしぶながらも鉾をおさめた。
そうするまにも、ルシファーは単身で引き受けた20台を後方から煽り、危険地帯へと誘導していった。10番目の時限装置は、その先頭グループが目標エリアに突入した直後に作動した。黒塗りの集団は、その爆裂に巻きこまれて4割近くが吹き飛ばされた。
姑息な罠から辛くも逃れた男たちが、プライドを傷つけられて殺意を剥き出しにする。ルシファーは、その心理を嘲笑うかのように男たちのわきをすり抜け、先頭に躍り出た。
残る装置は3つ。
11番目、12番目の仕掛けの位置はすでに確認済みである。できれば、ルシファーとしても、問題の13番目が作動するまえに決着をつけたいところだった。
後方を窺いながら、ルシファーはエンジンの回転数を上げていった。そして、速度を保ったまま、狭い路地のひとつに飛びこんだ。追ってくるのは4台のみ。残りはさらにふた手に分かれて、建物の別方向からまわりこんだようであった。
プロだけあって、さすがに反応が早い。
後方からの狙撃を巧みに躱しつつ、ルシファーはさらに加速した。路地に飛びこむと同時に作動させた消音装置がフル稼働しているため、一度姿を見失えば、男たちがふたたび自分を視覚にとらえるのは容易ではないはずだった。
青い大型二輪は幾度となく右折左折を繰り返し、追っ手を攪乱する。さんざんに男たちを引きまわして、適当なところで本道へ戻ろうとした刹那、優れた動体視力を誇る両眼が、行く手に待ちかまえる敵影をとらえた。瞬間、ルシファーは車体を力いっぱい左へ引き倒した。
直角に近いカーブを描いたタイヤが悲鳴をあげる。彼は、そんな愛車をなだめて手前の自動車整備工場跡と思われる建物内に乗り入れると、速度を維持したまま、錆びついて埃をかぶった機械類のあいだを縫うように走り抜け、前方に迫った階段をも走破して回廊をまわった。
視界の端に、しつこく追い縋る敵の姿が映る。その眼前で、彼は狙いを定めると、躊躇うことなく窓のひとつを破って大通りへとジャンプした。
青い車体は、乗り手の期待に応えて見事な着地を決め、鮮やかなスピードでその場を走り去った。
リーダー格の男が、遠ざかるその後ろ姿を見つめながら、新たなる指示を部下たちに言い渡した。




