第3話 4つの大陸
説明回
さて、とりあえずダリス村に入る事に成功した。
ふむ、初めての人里だな。
俺はまず周囲を見渡してみる。
当然ながら人がたくさんいるな。
人々は俺を恐れを抱いた目で見ている者もいれば、それとは違う憧れのような眼で見ている者もいる。
正直に言うと、少しだけ緊張するな。
そんな考えをしているとオーグルが話かけてくる。
「すみませんラシルさん。こんな田舎な村ですので皆見慣れない人には敏感なのですよ。それに皆ラシルさんが放った魔法を目にしている。このような村だと魔法など見る機会がほとんどないので恐れてしまう者もいるのです」
「かまわん。俺は気にしていないさ。未知の者に恐怖を抱くのは人として当然の感情だからな。しかし中には俺の事を恐れていない者もいるようだな。あれはなぜだ?」
「それはラシルさんがガーゴイルを倒して村を救ってくれたからですよ。この程度の村であの数のガーゴイルに襲われるとひとたまりにありませんからね。」
なるほどな。
俺の事を恩人のように思っている人間もいるというわけか。
あんなハエの駆除で恩人になれるのだから楽なものだな。
「ではラシルさん。これからあなたを村長の元へと案内するので私についてきてください。まぁこんな村なのではぐれたりはしないとは思いますけどね」
「了解だ。案内してくれ」
「ではこちらです」
そう言い俺とオーグルは村の中で一番大きな建物に向かい歩いていく。
しかし、小さな村だ。
木造らしき家が数十件建っているだけ。
しかもかなり年期が入っているのかぼろぼろな物もある。
正直俺が住んでいた魔王城からすれば比べるのもおこがましい程度だろう。
しかし、なんだろうか。
なぜか心が安らぐような。そんな感じがする村だな。
「どうしましたかラシルさん? 少し笑っているようですが」
「いや、いい村だと思ってな。それだけだ」
「おお、気に入っていただけたようでうれしいですね!」
そんな話をしながら歩く事数分。
俺とオールグは村長の家に到着した。
「着きましたラシルさん。ここが村長の家になります。では入りましょう」
「ああ」
そうして俺とオールグは家の中に入っていく。
ふむ、まぁさすが一番偉い者の家というとこだろう。
中はかなり綺麗だ。
そして歩くこと数秒、
「ラシルさん、こちらが村長のおられる部屋になります。一応確認ですがラシルさんの事やガーゴイルの事は私から村長に説明させてもらいます」
「了解だ」
「では入りますね」
そして部屋の中に入っていく。
部屋の中には老人が一人。
それとおそらくは護衛の者だろうか。
老人の後ろに二人控えている。
しかし、護衛にしては弱いな。まぁこんなものなのだろうか。
すると老人が口を開く、
「ようこそ客人、わしの名前はダリウス。この村の村長をしているものだ。」
「ああ、俺の名前はラシルだ。よろしく頼むぞダリアスよ」
俺がそう言うとダリアスの背後に控えていた護衛の一人がムっとした顔になり、武器に手を伸ばそうとしている。
おいおい、護衛のくせに短気すぎないか?
「よさぬかゴレイ。この者は客人だ。無礼な真似はするな。いいな?」
「も、申し訳ございません」
「では客人よ、村の者から大体の事は聞いているのだが、詳しく説明を聞いてもよろしいか?」
「村長、そこから先は私の方から説明させていただきます」
オールグはそう言い俺の事と村に起きたことを詳しく説明しはじめる。
俺が記憶喪失だと説明したとき村長の顔は疑いの顔になっていた。
しかし俺が魔法が使えたことや、魔法の実験絡みだろう事を説明すると疑いはかなり薄れた。
そして俺が魔王軍を知らなかった事とガーゴイルを撃退した事について説明すると疑いは消え、表情に感謝を浮かべていた。
「そのような事があったとは。ラシル殿、疑ってしまい申し訳ない事をした。それからガーゴイルを撃退しこの村を救ってくれたことに感謝を。」
そう言い村長は俺に頭を下げる。
護衛の二人も同時に頭を下げる。
「問題ない。俺が胡散臭いのは自覚している。疑われた事についてはまったく気にしていない。ガーゴイルの事もあれはただ目障りだったから燃やしただけだ。まぁ感謝は受け取っておく」
「なんと心の広い。ありがとうございます! こちらせめてものお礼の3銀貨となります。本来ならこの10倍は必要なのですが、すみません。この村にはあまりお金もなく」
ほう、これが金か。
前の世界でも金なんぞ見たことなかったから新鮮だな。
「構わん。と言いたいところだが一つだけ願いを聞いてもらってもいいか?」
「な。なんでしょうか?」
「いま貰った金も含めてこの世界について説明してほしい。さすがにこのまま何もかも忘れたままというのは、少々厄介そうなのでな」
「分かりました。ではわしが説明させていただきます」
そう言い長い説明が始まった。
「まず、この世界について。この世界は神エリアス様が作ったと言われています。最初にこの世界は4つの大陸でできております。ここウォール大陸、ここより西のシャール大陸、東のレガル大陸、そしてはるか南の魔大陸」
「その魔大陸というのが、魔族の巣窟という事か?」
「その通りです。その昔勇者様が魔王を討伐なされて、それ以降ほとんど魔族はこの大陸から外に出ることはなくなりました。しかし最近になって魔族は大陸から出て、別の大陸で村や街などを襲うようになりました。しかもそのせいか分からないですが、魔物などの動きも活発になっているのです」
なるほどな、滅ぼされた魔王でも復活でもしたか。
「さっきこの村にきたあのガーゴイルとやらも魔族なのか?」
「いえ、あれは魔族ではなく魔物ですね。ただガーゴイルのような魔物は魔族が支配している可能性もあるので注意が必要ですね」
「では魔族とは?」
「魔族は大きさはほぼ人間と同じですね。しかし背中に羽が生えていて、頭に角が生えています。角の大きさはその魔族の強さを示すと言われており、大体は角が大きいほど強い魔族という事になります」
「なるほど、理解した。」
どうやら俺の世界の魔族とは少し違うな。
俺の世界では強さに角など関係なかった。
現に俺の角はかなり小さ目だ。
「魔族により、すでに滅ぼされた街や国も多くあります。ですからいまこの世界の人々は魔族に怯えながら暮らしています」
「魔族に対抗できるような者はいないのか?」
「そうですね。宮廷魔導士や近衛騎士、高ランクの冒険者のような方々は魔族にも十分対抗できると言われています。しかし高ランクの冒険者の数は少なく、宮廷魔導士や近衛騎士などは自らの国を守る責任があるので中々ほかの国が襲われていても救援にはいけないのですよ。人間同士での戦争などもまだまだありますからね」
ふむ、こういう時くらい、一致団結できないもんかね。
前の世界でもそうだった。
どの国が勇者を召喚するかという事で勝手に戦争をして、勝手に自滅していく。
世界が変わっても変わらんものだな。
「なるほど、大体理解したよ。では次に金の説明をしてもらってもいいか?」
「はい。では説明させていただきます」
ダリウスが言うにはこの世界の金というものは
銅貨 銀貨 金貨 白金貨
という感じで区別されているようだ。
銅貨10枚→銀貨1枚
銀貨10枚→金貨1枚
金貨10枚→白金貨1枚
という感じらしい。
「なるほどな、ありがとうダリウス。大体理解できたよ」
「それはよかった! 後の事は実際に街などに行って確かめてみるしかないでしょう。もっと詳しくこの世界の事を知りたいのなら、この村から少し行ったところにある城塞都市サイアリスに行くのがいいかもしれませんね」
ああ、千里眼で見たときに見えたあの大きな街か。
たしかにあの街なら情報はかなりありそうだな。
「そうだな、なら早速明日サイアリスに向かうとするよ。色々ご苦労だったなダリウス。」
「いえいえ、こちらこそ村を救っていただき感謝しかありませんよ。どうぞ明日出発だというなら今晩はこちらにお泊りください。あまり豪華ではないですが夕食もお出ししますので」
「そうか、助かる。少し腹が減っていたところだ」
すると黙って話を聞いていたオールグが、
「話はまとまったようですね。ではラシルさん私は自分の仕事に戻らせていただきますね」
「ああ、ご苦労だったなオールグ。感謝する」
「ではまた明日」
そう言いオールグは部屋から出て自らの仕事へと戻っていく
「ではラシアさん、部屋に案内します。ガレイ、案内してあげなさい」
そう村長が言うと、付き人の一人が、
「わかりました。ではラシアさん私に着いてきてくださいませ」
「ああ、頼む」
俺と付き人の一人であるガレイは部屋を出る。
歩き始めて数秒、部屋に到着した。
「こちらになります。それとラシアさん。ガーゴイルを撃退してくれた事私からもお礼申し上げます。ありがとうございました。」
「ああ、案内ご苦労。ガーゴイルの件については気にしなくていいぞ。こちらもそれ相応の対価を貰ったわけだからな」
「わかりました。では夕飯の時間になりましたら呼びにきます。おそらく数時間後になるかと思われます」
「わかった。ではそれまで寛いでいるとする」
俺に一礼したあとガレイという男は部屋から退出していった。
ふむ、礼儀正しい者だったな。もう一人の護衛とは大違いだ。
さて、夕食まで数時間だったな。暇だ。
そうだ、千里眼で村の様子でものぞいてみるか。
そうときまれば、
「{千里眼}発動」
村全体の光景が俺の視界に映し出される。
ふむ、やはり言っては悪いが古臭い村だ。
ん?なにか店があるな。
ポーション?ああ、人間が使う回復系の物か。
俺には不要だったので使ったことなんてなかったな。
大体ひと眠りすればすべて回復していたからだ。
その後も村の様子をのぞき見すること数時間。
扉をたたく音が聞こえたので千里眼を解く。
ふむ、人の生活を見るのは初めてだったので夢中になってしまったな。
「ラシルさん、ガレイです。夕食の準備ができましたのでこれから案内しますがよろしいでしょうか?」
「ああ、問題ない。ご苦労ガレイ」
その後俺は村長と一緒に夕食をご馳走になった。
正直にいって俺が毎日食べていた物に比べたら貧相な食事だった。
だが、なぜかいままでの中で一番楽しい食事だった。
いままで食事なんて一人でしかとったことなどなかった。
誰かと話しながら食べるのがこれほど愉快だとはな。
「ダリウス、食事素晴らしかった。」
「おお! お口に合ったようでなによりですな」
その後俺はガレイに付き添われ部屋に戻った。
ふむ、異世界に来て1日目だったが中々に楽しめたな。
やはりこの世界にきたのは正解だった。
あんな何もない世界など二度とごめんだ。
さて、明日からは何をしようか。
さすがに生きていく上で金は必要だろう。
騎士や宮廷魔道、いやないな。
なにかに縛られるのはごめんだ。
まぁ冒険者にでもなってみるか。
そろそろ寝るとするか。
明日はここを出てサイアリスに向かう。
楽しみだな。
そんな事を考えながら眠りに落ちていく。
翌朝、
さて、朝だな。
今まで生きてきた中で一番気持ちよく眠れたな。
さて、ダリウスに別れを言い村を出るとするか。
そう考えていると丁度扉がノックされる。
「ラシアさん、起きていますでしょうか?」
「ガレイか。ああ今起きたところだ。今からダリウスに挨拶をしてから村を出ていこうと思っていたところだ。すまんがダリウスの元へ案内してもらってもいいか」
「わかりました。では私についてきてください」
そして俺は部屋を出てガレイと共にダリウスのいる部屋まで歩いていく。
数秒後無事につき、ガレイと共に部屋に入る。
「邪魔するぞダリウス」
「おお、これはラシア殿、昨日はよく眠れましたか?」
「ああ、久しぶりにぐっする睡眠をとることができた。感謝するぞ」
「いえ、我々にできることなどほとんどないですから。それでなんの御用で?」
「ああ、これから村を出ようと思ってな。その挨拶に来たんだ」
「なんと、随分早いですね。では少しお待ちください。いまゴレイに旅に最低限必要な物を取りにいかせます」
「すまんな」
数分後、ゴレイはそこそこ大きな袋をもって戻ってきた。
「遅くなりましたラシアさん。これが村長が用意した物です。中身は水と食料が入っております」
「ご苦労だったなゴレイとやら」
「いえ、私こそ最初に敵意を向けてしまい申し訳ありませんでした」
「気にしていないさ」
ダリウスが用意してくれたらしい食料と水を受け取り、アイテムボックスの中にしまう。それを見たダリウスと護衛の二人は驚いているが気にしないでおこう。
「世話になったなダリウス。では俺は行くとする」
「はい、気を付けて」
俺は部屋から出て村長宅を後にする。
そして村の入り口まで歩いていく。
ダリウスかオーグルが村人に説明したのだろうか。
皆の俺をみる視線に恐怖がなくなっていた。
子供などは俺を輝いた目で見てくる。
今までそんな感情をぶつけられたことがなかったので少々恥ずかしいな。
数分で村の入り口まで着く。
そこには昨日と同じくオールグがいた。
「これはこれはラシルさん。出発でしょうか?」
「そうだ。これから俺はサイアリスに向かう。オールグ、お前にも世話になった。礼を言っておくぞ」
「いえ、世話になったのはこちらの方ですから。ラシルさんほどの強さを持っているなら心配は不要かと思いますが、どうかお気をつけて」
「ああ、では行ってくる。またな」
「は、はい! またお会いしましょう!」
そして俺はオールグと別れダリスの村を後にする。
さて、これから向かう先はサイアリスだ。
行こうと思えば一瞬だがまぁ当然、
「のんびり歩いていくとするか」
最後まで読んでいただきありがとうございます!
引きこもりアサシンと同時更新です。