第2話 新しい世界
……ん。
ここは、どこだ。
俺はあの女の魔法を食らって……
辺りを見渡してみると、かなり広い草原のような場所だ。
ついさっきまで俺は魔王城で勇者一行と戦っていたはず。
つまりは、
「そうか、無事に別の世界に来る事に成功したようだ」
とりあえずは状況確認だ。
まず自身の姿を確認する。
ふむ、前の世界と同じ姿だな。
特に変わっている所もない。
次にステータスの確認でもしておくか。
もし弱くなっていたりしたら面倒だな。
「ステータスオープン」
ユーラシル・アラストファーlevel90000
HP 99999/99999
MP 99999/99999
力 90000
体力 90000
素早さ90000
幸運 90000
{スキル}
火魔法level10 水魔法level10 風魔法level10
地魔法level10 闇魔法level10 光魔法level10
回復魔法level10 剣術level10 直感level10
短剣術level10 棒術level10 格闘術level10
槍術level10魔力操作level10 魔纏術level10
気配隠蔽level10 気配察知level10
全体性level10 威圧level10 変化level10
千里眼level10 料理level10 鑑定level10
アイテムボックスlevel10 話術level10
{称号} 最強の魔王 武王 魔道王
ふむ、特に変化はないようだ。
これなら戦闘においては困ることはないだろう。
さて、俺はこの世界の事について何も知らない。
まずは人里でも目指してみるとするか。
よし、まずは場所を探すとするか。
俺はスキルの一つである千里眼を使うため目に力を入れる。
「{千里眼}発動」
すると視界に辺り一帯が地図のように見えてくる。
ふむ、どうやらここは街と村の間のような場所のようだな。
さて、どちらに向かうべきだろうか。
本来の目的の情報収集を考えるなら、街に行くべきだろう。
しかし、まぁとりあえず小さい方の村に行ってみるか。
いきなり大きな街など行っても混乱しそうだからな。
次は、人間の街に行くんだ。
このままの姿ではまずいだろう。
人化しておく必要があるな。
本当は人化は力を落ちるので極力したいくないのだが仕方ない。
「{変化}発動」
俺の体を音を立てて変化していく。
おそらく周りでこれを見ていたら非情にグロテスクな光景だろう。
数秒後には俺の姿は人間の20代前半辺りの姿になっていた。
身長は変化する前と変わらない、一メートル八十ほどだ。
顔つきはイケメン、というよりは強面の部類だろう。
「よし、これで準備は終わりだ」
さて、人間の街に向けて出発しようかと思った瞬間。
視界の端から一匹の醜い姿の魔物が現れる。
ほう、こいつは俺の軍にもいたな。
たしかゴブリンとかいったか。
覚えている限りでは最低ランクの強さだったはずだが。
ここは異世界だ。鑑定してみるとするか。
「{鑑定}発動」
ゴブリンlevel2
力 12
体力 12
素早さ10
幸運 4
前の世界と変わらんようだな。
たとえ人化していたとしてもこのようなゴミ相手にならんな。
「ギアアアアア」
生意気にもゴブリンは雄たけびをあげ、俺に向かってくる。
ほう、気迫だけはあるな。
だがそれだけじゃどうにもならないのが実力の世界だ。
ゴブリンは片手に持っていたそこそこの太さのこん棒で俺に殴りかかる。
しかし、
「ギアア!?」
俺の体に触れたとたん、こん棒の方が粉々に砕ける。
まぁ当然だろう。
俺の体はドラゴンの攻撃を受けても傷一つつかないからな。
「そら、お返しだ」
俺はゴブリンの頭目がけて軽く手刀を放つ。
欠片も力は入れてない。ただ横に振っただけの一撃だ。
しかし、その一撃でゴブリンの頭は木っ端みじんになる。
ゴブリンは何が起きたかすら理解していなかっただろう。
まぁこんなものか。
所詮魔王軍でも下っ端中の下っ端だったからな。
とりあえずアイテムボックスの中にゴブリンの死体を入れておく。
役に立つかは知らんがな。
さて、今度こそ人里に向かうとするか。
正直普通に走れば数分と経たずに着いてしまうだろう。
しかし俺はそうはせずにゆったりと歩いていく事にした。
なんせ生まれてずっと魔王城に閉じこもっていた身だ。
このような場所を見ながら歩いているだけでも割と楽しい。
そうして歩き続ける事数時間、やっと村が見えてきた。
もう着いてしまったか。もう少し歩いていたかった気もするんだけどな。
まぁいい、着いたからにはとりあえず入ってみるとしよう。
そうだ、この世界での俺の事をどう話そうか。
たしか、冒険者というものもあるんだったな。
それならフリーの冒険者という風にしておくか。
いや、それだとこの世界に情報を聞き出しにくいな。
少し無理があるが仕方ない、記憶喪失ということにしておくか。
さて、とりあえず門番らしき男に話を通すとするか。
そう思い門番に男に話かけようとすると先にあちらが話かけてきた。
「そこの青年とまりなさい。私の名前は門番はオールグというものだ。ダリス村へようこそ、と言いたいところだが、身分を証明するものは持っているかな?」
「ああ、俺の名前は」
やべ、名前の事考えてなかったな。
まあ本名でいいか。いや少し変えておくか。
「俺の名前はラシルだ。よろしく頼むぞオールグ。それで身分を証明だが少し厄介な事になっていてな」
「ラシルさんですかよろしくお願いします。それで厄介な事とは?」
「ああ、実は記憶はないんだ。魔法を使えた事くらいは断片的に覚えているのだがそれ以外はさっぱりでな。きづいたら少し先の草原で倒れていたのだよ」
「なんと! しかし記憶がないですか。魔法が使えるとしたら、もしかしたら魔法の実験を失敗したのかもしれませんな」
「魔法の実験の失敗、詳しく聞いてもいいか?」
「はい。過去に魔法の実験に失敗し、記憶を損失、しかも見知らぬ場所に放り出されたという事件があったのですよ」
ほう、都合のいい事件があったものだな。
利用させてもらうとするか。
「ふむ、それかもしれんな」
「しかし簡単に信用するというのは中々に難しくて。すみませんラシルさん。試しに魔法を使ってもらってもいいですか?できれば一番強い魔法を」
「ほう、いいのか?俺の使える一番強い魔法だとおそらく、ここら一帯を消滅させてしまうかもしれんぞ?」
「しょ、消滅! すみませんラシルさん。中級ほどの魔法でお願いします」
「わかった。任せておけ」
中級魔法か。
おそらくそれでも俺が全力で放てばここら一体は消滅するな。
しかたない、最大限手加減して撃つか。
「ではいくぞ。{フレイムタワー}」
俺たちのいつ場所から数メートル先で大きな火柱が出現する。
ふむ、まぁこんなもんだろう。
すると後ろでこの光景を見ていたオールグという男が、
「こ、これは詠唱破棄! しかもなんて威力だ、最上級魔法に匹敵するぞ!」
ふむ、まぁこれで十分証明にはなっただろう。
俺はいまだ燃え続けているフレイムタワーを消す。
「オールグとやら、これで十分だろうか?」
「は、はい! どうやらラシル殿は宮廷魔導士並みの魔力があるようです! これなら村長も十分に納得できるでしょう」
「それはよかった。しかしいまの魔法で村の人々が集まってきているようだが大丈夫なのか?」
そうなのだ。さっきの魔法で村人がここらに集まってきている。
まぁさっきの魔法のせいだろう。
そしてみな顔に恐れを浮かべているようだ。
するとオールグが、
「みんな! 大丈夫だー。この人は魔王軍じゃない! 普通の旅人だ!」
オールグがそう言うと集まっていた村人はそれぞれ戻っていく。
ふむ、どうやらこのオールグという男かなり信頼されているようだ。
しかし聞き捨てならない言葉があったな。
「すみませんラシルさん。村の人々は魔法などあまり見る機会がないので。」
「いやかまわん。俺も気にしてない。だが一つだけ。質問をさせてもらっていいか?」
「はい! なんなりとお聞きください」
「魔王軍とやらの事を聞かせてもらってもいいだろうか?」
「ふむ、やはりラシルさん。あなたは記憶喪失で間違いないみたいですね」
「どういうことだ」
「この世界に生きていて魔王軍の事を知らない人はまずいないですよ」
そう言いオールグは完全に俺の記憶喪失を信用したようだった。
ラッキーだな。
しかし魔王軍か。この世界でもその名を聞くことになるとはな。
「なるほどな、で、魔王軍の事を詳しく聞いてもいいだろうか?」
「はい。しかしここで話には長くなりそうなので村の中にどうぞ!」
「そうか。では入らせてもらうとしよう」
そしてオールグと村に入ろうとした時だった、
かなり遠くの空から何かこの村に向かって飛んでくるのがわかる。
「オールグ。なにやらこちらに向かい飛んできている者がいるようだが?」
俺のその言葉を聞いたオールグは一気に顔面が蒼白になり、
「ラシルさん! それは本当でしょうか?」
「ああ、翼の生えたゴブリンのようなものだ。それが数十体こちらに向かって飛んできているようだぞ」
「まさか! ガーゴイル! まさかこの村にそんな魔物が来るなんて! すみませんラシルさん私は村長に報告にい」
「話の途中だが、来てしまったようだぞ」
俺とオーグルの目の前にガーゴイルらしき魔物が20匹ほど降り立つ。
ふむ、こいつらも前の世界と変わらんな。
「くそ! こうなったら決死で戦うのみ! 村には入れさせん」
そう言いオールグは腰の剣を抜き放ち戦う準備をしている。
しかし、残念ながらオールグがこいつらに勝てる気がしないな。
「オールグ。やる気になっているところ悪いんだが。こいつら俺はやってもいいか?」
「だめですラシルさん! こいつらはガーゴイルといい剣技も中々で魔法も放ってきます! この数ではいくらあなたでも」
「問題ない。オールグよ、後ろに下がっていろ。いいな?」
「わ、わかりました」
そう言いオールグは黙って俺の後ろに下がる。
うむ、聞き分けのいい者は好きだぞ。
「さて、ガーゴイルとやら。まとめてかかってくるがいい」
俺はそう言い放つとガーゴイルの群れは俺に飛んでくる。
ふむ、まるでハエのようだな。とっとと焼却してしまうか。
「死ね{ファイアウォール}」
すると俺の目の前に数十メートルほどの火の壁が現れる。
そして俺に向かって飛んできていたガーゴイルは全てその火の壁に入り、
「ギァアアアアアアアア」
一瞬でその体を燃え散らしていった。
やはりハエは燃やすに限るな。
そして役目を終えたファイアウォールを消し去り。
俺の後ろで呆然としているオールグに、
「さて、終わったぞオールグ。村に入るとするか」
「ラ、ラシルさんあなたは一体。いや、記憶がないラシルさんにこんな質問に意味はありませんね。どちらにしろあなたは村の恩人だ。歓迎します」
「感謝するぞ。では行こうか」
無事俺はダリス村へ入ることに成功した。
最後まで読んでいただきありがとうござます。