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青天井

 前半2分。


解説『どうやら……後半にはいってから倉木が中盤に下がってヨハンをマークしているようです。代わりに上がっているのは有村。……これまでの試合とは前後関係が入れかわってるのかな』

実況「確かにそうですね」

解説「攻撃だけじゃなくて守備もできる選手ですからね。日本はリードしていますし攻撃は他の選手に任せ、前半オランダの攻撃をひっぱっていた17番・ヨハンをマンマークしているようです。ヨハンもやりにくそうにしていますよ。なかなかボールに触れていない」



 有村がFWに、俺が中盤でプレーするという青野監督のプラン。

 有村の守備負担を減らし俺がヨハンをマークする。

 日本のエースがオランダのエースを直接マークする。バスケじゃないんだからエース対エースなんて滅多に発生しない。しかし世界大会の決勝の後半でそれが現実に実現してしまっている。

 ヨハンはボールをもらいにいかずやや左サイド寄り、11番ワールスとポディションをいれかえ左ウィングか?

 フィールドの後方からオランダの4番がボールをもって押しあげてきた。リベロなんて前世紀の遺物が現存する。こいつは近衛と同じくドリブルがあるセンターバックだ。そのことはコーチたちに注意されていた。

 すぐ左横に左サイドバック、右サイドにもボランチが4番のパスを待ちかまえている。前方にもヨハンと動きだしたFWが2人。

 有村と志賀が前へのパスコースをきりながら距離を詰めてきた。

 その油断。

 有村と志賀の緩い前進にあわせ急加速。2人の間めがけ体とボールを入れる。

 4番のパスを読んでいた日本の最終ラインが下がっている(11番の動きに釣られた)。

 抜かれかけた志賀がユニフォームに手をかけ倒す。笛。

 倒れたまま4番がボールを地面にセット。起き上がり即キック。

 もう試合を再開させている! (志賀と有村は立ち止まっていた)。

 3メートル前のヨハンにパス。

 俺は17番の背中にはりついている。俺の身体能力ならヨハンもマークを剥せない。

 ヨハンは右横をむき腕のふりと声で4番に指示を出す。

 ファウルを受けたばかりの4番がヨハンを追い抜いた! 4番へのラストパスか?


(4番=フィリップスはない)とヨハンは決断する。(カナイが気づいている。元より狙いは)。


 独走だ。

 パスフェイント。ヨハンはタッチラインに沿って縦に走る。

 俺は遅れをとらない。ヨハンの瞬策に気づいた俺は抜かれない。

 どころか、

 肩をいれ奪いにいく。

 バランスを崩しかけたがヨハンは上がった左サイドバックにパス。(ヨハンはペナルティエリアのなかにはいっていく)。

 そこまでは追いかけない約束だ。俺は両センターバックの前のスペースを埋める。

 大槌と志賀がコーナーアーク付近まで追い詰めたがそこからバックパス。真横をむいた16番が右足でクロスボールをいれる。

 狙いはファーサイドで走りだした味方。自分のタイミングではなく味方のタイミングにあわせたいいクロスだ。

 ヨハンがゴールエリア右でシュート体勢。

 まずGKマルコーニが反応し、マークする左沢が前に飛びこむ。

 ヨハンは左足でフィールドに叩きつけGKの上を抜こうとするが、

 跳ね上がったボールが左沢の顔に当たる。高速のシュートを怖がらずブロック。なんという根性。これがあるからDFで使っているのだ。

 転がったボールを近衛が真横にドリブル。CKにはしたくない。

 しかしコーナーアーク付近で7番がファウルすれすれのタックルで奪い返しヨハンの元に。(オランダの選手はヨハンを信頼しきっている)ここから再び、

 ボールはペナルティエリア内へ。ヨハンは首を振るフェイントをいれたあとゴールラインにむかって急加速と急停止を繰り返すドリブル。

 織部がマークしている。

 10センチ以上織部のほうが高い。ゴールを隠すように織部が近づく。

 ヨハンが警戒しているのは織部ではなくその後方の近衛。ボールを奪いにいかず角度を殺せばいいと思っている織部の守りは軟弱ですらある(他の選手ならともかくヨハンが相手では)。織部が壁になれば奪いにくる近衛に守られる心配はない。

 エリア内でヨハンにボールをもたせた時点で、日本は致命傷を受けているに等しい。

 ヨハンはゴール前を見ずに正確なクロスボール。蹴りながらゴールライン上に倒れる。

 狙いはファーサイドから入りなおした11番ではなく(マルコーニが頭上のボールをつかめない!)、

 ファーサイドのポスト。

 殺気をこめないフォームのまま(スタジアムにいる全員が騙された)味方にあわせるクロスではなくゴールを狙うシュート、しかし……。

 クロスバーの外側を直撃する。

 跳ね返ったボールを大槌がゲームの外に逃がした。続いてオランダのCKだ。



 近衛は思う(状況が見えない。ゲーム中落ち着きを取り戻せない経験などこれまでのサッカー人生で1度もなかったのに……。ヨハンが攻撃に参加し始めてからずっとだ。それまではスタンドの観客を見、看板の配置を覚え、言葉でオランダ選手を煽る余裕すらあったのに……クールになれない。状況を客観視できない。ヨハンのプレーが予測できない。それこそが俺の持ち味であるはずなのに。オランダの攻撃が止まらない。試合から片時も集中を切らすことができない。俺はともかく他の奴らが手痛いミスを犯したとき、俺にカヴァーする余裕はあるのか?)


 後半開始早々、日本の守備陣は完全にヨハンに撹乱されている。俺のマンマークは中盤まで。そのマンマークすらいつ食い破られるかはわかったものではない。



 ヨハンのCKは誰にもあわずゴールラインを割った。日本ボールになれば俺はマークせずにMFの位置でプレーできる。



 ヨハンが話しかけたきた。「普段はFWなんだからマンマークなんてしたことないでしょう?」


 俺。「ああそうだよ。だがお前の意図はわかってる。だからFWの俺がマークなんだ」


「どういう意味ぃ?」


「お前は準決勝までゲームメイカーとしてプレーし続けてきた。シュートを狙える場面であえて味方を使う。パスに選択を偏重させ、本当に点が欲しい今のようなシーンでのみゴールを狙ってきた。これまでの6試合のビデオを観た日本の守りの選手はゲームメイカーとしてのお前のプレーがインプットされ、中盤でしかけるプレーを混ぜたとき止められないかもしれない。だからそれに気づいたうちの監督はFWの俺にお前を」


「あったまいいんだねぇ日本の監督」ヨハンは立ち止まった。「そうだね、半分は正解だ。もう半分についてはこれからサッカーで教えてあげよう」


 オランダのエースにはまだ先がある。


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