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倉木一次その8

 スタジアムの歓声がまだ静まらない。


 と、ウルグアイのゴールキックの直前、主審が笛を鳴らす。コーナーアークを指した。俺のシュートはGKに触れられなかったのに。

 つくづく使えない奴だ。しかしもらえるチャンスはもらっておこう。

 ウルグアイの抗議も聞き入れられない。その点は平等であると言える。


 で、俺が左サイドからCKを蹴る。

 ウルグアイは2人選手を前に残す。今ゴールを守っている選手も、ボールを奪い返せば勢いよく攻め上がっていくのだろう。

 ゴール前にいるのは鮎川と木之本。俺の近くに有村。これ以上人数を割いたら逆襲が怖い。

 セオリーでは有村を使ったショートコーナーを使うべきだろう。

 セオリーなら。

 今の俺にはまったく関係ないことだ。

 GKが遠いサイドを守っている。ウルグアイの1番はしきりに190センチの鮎川を気にしている。

 鮎川へのマークは2人。いくらあいつでもこれはきつい。ジャンプするまでの助走を邪魔されたらまともに跳ぶことは難しい。

 俺は有村に意味のない指示を出す。有村は俺の意図に気づいている。

 やや長い距離の助走。

 インフロントキック。

 擦り上げたボールが高く舞い上がる。

 1人のDFが見送る。(これはラインを割る)。

 いや割らない。激しい回転のかかったボールは上空からゴールに襲いかかる!

 角度のまったくない位置からゴールの隅を狙った。ボールは……。

 GKが仰け反りながら必死に伸ばした右手に防がれる。再びCK。



 今、俺はたった一人でウルグアイと勝負している。仲間にあわせるパスはつながらない。相手が数にものをいわせパスコースを消しているからだ。だから俺は本来の俺に戻る。たった一人で試合を決めてきた『想像上の怪物』と言われていたかつての俺に。



 右サイドからのCK。今度は有村が蹴る。

 キッカーの有村に近づくのは木之本。俺は鮎川とともにゴール付近で待つ。

 175センチにすぎない俺に鮎川以上の警戒が寄せられる。さきほどファインセーヴを見せたGKがしきりに俺の名前を口に出している。

 有村はシンプルにボールを入れてきた。GKの前、俺と鮎川が並ぶ空間に。

 俺の前に立った背番号6がヘディングでボールの角度を変えた。

 わずか二メートル先。前方に飛んでくるはずのボールが俺の背後を通過する……。

 眼がボールを追っていた。

 頭が変化したボールの軌道、速度を即座に演算する。

 体がそれにあわせて動く。

 ゴールに背をむけ、跳躍し、体が倒れる。その力を利用しボールに足を当てた。

 オーバーヘッドキック。感触は『当たり』だった。

 しかし俺をマークしていたもう1人の選手の胸に当たった。こいつがいなければゴールに吸いこまれていただろう。青い顔をしたそいつが大きくボールを蹴りだした。

 これが日本の前半の最後のチャンス。あとはただひたすら、ウルグアイが攻め日本が守る展開となるだろう。

 大急ぎで日本陣内に戻る俺、有村、鮎川、木之本。

 俺に追い抜かれながら、ウルグアイ選手たちは首を横に傾け語りあっていた。

 6人を抜き去るドリブル、CKで直接ゴールを狙う得点意識、敵に当たって変化したボールをバイシクルキックでシュートする身体能力。

 どうして日本の10番は、ボランチのポディションでプレーしているのだ?


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