11人いる!
ベンチの前で味方に追いつかれた。大勢の野郎どもから頭を叩かれる、のしかかられるなどの暴行を受けたあとようやく解放された。
先制ゴール。
これが後半45分の得点だとしたら、『そのまま試合は終わり日本が初戦をものにした』と続けることができた。
だがアルゼンチンにはたっぷりと時間が残されている。
電光掲示板で確認する。ようやく前半5分を回ったところ。
85分プラスアディショナルタイム。膨大な残余がある。
浮かれた気分に浸ったままの選手はもちろんいない。
俺は10人のチームメイトとともに自陣へ帰る。
「なんでお前が決めてんだよ」とキレる鹿野島荘。
こいつは左ウィング。恐竜じみた強靭な顎が特徴。エゴイスト。超エゴイスト。嫌な奴だが今はチームメイトなので映画版のジャイアンのようなもの。感情むき出しでプレーする。伸ばしてはいないが髪の量が多い。ビッグマウスだが実力も備わっている。
「今日のぶんはシュート撃ったんだからあとは全部俺に出せ」
「あんたなんかに出したらフカしまくるに決まってるでしょ」と鮎川かなえ。
こいつはセンターフォワード。日焼け対策はばっちりなので色白。身長190センチ体重88キロ。移動要塞(他称)。恋する乙女(自称)。性的指向についてはカミングアウト済み。あらゆる意味で注目を集めるプレイヤーだ。ついでに俺のチームメイト。
「マークがきつくなるわね。私を探すようにして」
「このままの感じでやりましょう」と有村コウスケ。
こいつは左ボランチ。スターティングメンバーのなかでは唯一学年が下で高1。いつもの抑揚に欠ける話し方だ。猫背で撫肩。小柄な印象があるが179センチと俺より4センチも高い。性格はマイペース。最年少の癖に一番落ち着いている。生意気な。
「このままの感じ。超抽象的ですね」
「再開直後は特に集中しよう。こちらのペースで進められるはずだ」と大槌退。
こいつは右サイドバック。険がある眼が一度むこうをむいた。何その長い髪。80年代のロックンローラーか。そんな外見を裏切って真面目人間。元はセンターバックだったがサイドバックにコンバートされた。この試合で1番走るのはきっとこいつだ。
「あっちは絶対焦るしよ」
「やらせはしないです」と近衛類。
こいつは左センターバック。何より重たそうな瞼が目立つ。髪を金に染めて右のほうで縛っている。男でサイドテールってどんなセンスだ。あと丸顔。性悪で邪悪で近くにいると不安で仕方ない。プレースタイルもその性格を色濃く反映する。対戦する相手がかわいそう。
「僕がすぐに脅威になりますよ」
「案外ディフェンスがもろかったな」と志賀劉生が指摘する。
こいつが右ウィング。168センチとこのメンバーのなかでは1番小柄。濃い顔。ぎらついた眼。無口だが野心家なことはわかる。中央に移動していたのはボールに触りたかったからだろう。海外志向が強くこの大会でもクラブのスカウトにアピールしたいのだろう。
「人数をかけないと守れないのかもしれない」
「引いた守りになるってことか」と左沢成通。
こいつは左サイドバック。短髪、老け顔。やたらに長い手足。俺にアシストした選手だ。無頼漢でアウトサイダー。話をしていてもとっつきにくさは明らかだった。まあ一緒にサッカーをするのだから御せないことはないだろう(二重否定)。
「でも早く同点に追いつきたいだろう」
「言ったらぁバンバンシュート撃ってくるでしょうね」とマリオ・マルコーニが予想。
こいつはゴールキーパー。長い顔。スカした顔。イタリア人ハーフ。陽気。うざいくらい陽気。笑い上戸。省略しているけど語尾に常に(笑)がついてる。後輩からも後輩あつかいされるアホの子。
「やべえ俺がしっかりしないと」
「守ってるときでも罠をかけてるって意識をもとう」と佐伯藤政。
こいつはアンカー。細い眼に細い眉。いつも笑っているようにみえる顔だ。身長は俺から逃げるように伸びて今では180センチ後半。社交的で問題提起が得意。意識高そう。自分では謙遜したがるがこいつも天才だ。中盤のフィルター役。
「カウンターから追加点狙おう」
「たり前だ2点差3点差にしてやる」と倉木一次とのたまう。
倉木一次。つうか俺のことだ。右ボランチ。自己分析なんて恥ずかしいからしないけどね。不良っぽい面しているとはよくいわれる。代表は俺が中心。俺の政権。俺のおれによるおれのためのチーム。これまでもそうだったしこれからもそうなる。なんて書いてしまうとこいつふてえ野郎だ不逞な野郎だとブーイングを浴びてしまうが仕方ない。俺はいずれ世界一になる。それくらいのことは計画の範囲内なのだ。
「逢瀬は何か?」
逢瀬博務は右センターバック。そしてキャプテン。とりあえずこいつの紹介は後回しだ。前置きはこれくらいにしておこう。すでにゲームは動いている。「さっさと再開だ……早くヤろうぜ」