表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/112

逢瀬博務の殺し方

 青野さんは6人メンバーを代える。

 俺や左沢、有村が呼ばれた。



 選手交代を終え現在ミニゲームにでているメンバーは、

 ビブス組。

 古賀、逢瀬、大槌、佐伯、鮎川、水上。

 非ビブス組。

 マルコーニ、近衛、左沢、有村、倉木、鹿野。


 俺はラインをまたぎ逢瀬に話しかける。「今度ぁお前に敗北を味わわせてやる……あれ? 味あわせてやる? 味わわせてやる?」


 右隣りの有村が小声で。「『味わわせてやる』で正しいですよ」


指をむけて。「味わわせてやる!」


「真面目にやれよ」と逢瀬。



 真面目にやっている。

 非ビブス組のメンバーを見直した。

 鹿野以外は全員上手くボールをつなげる選手だ。

 だからといって鹿野を最前線に置いたとしても……。

 そこを守るのは逢瀬。これまでのところ鹿野に何もやらせていない。鹿野はゴールを挙げたナイジェリア戦以降絶好調だというのに、逢瀬のディフェンスには歯が立たない。

 俺は鹿野に話しかけた。「俺が前でやる、お前は下がれ」


「ああ? なんでお前が俺のポディションはいんだよ?」


「いいから。お前に点獲らしてやっからよ」



 ……マルコーニのゴールキックで試合再開。

 近衛、左沢が下がった位置でボールを回す。その5メートル前で有村がボールをもらう動き。

 有村は自分にボールがくる直前まで顔を上げ、敵と味方がどこにいるかを確かめている。


 有村はリアルタイムでフィールド上の『地図』を書き換え続けることができるのだ。


 その有村をマークするのは鮎川。

 有村はフィールド中央で前をむいてパスを受けた。

 有村から右前方の鹿野へあっさりとパスが渡った。

 あっさりと。

 有村のインサイドキックを使ったパス。予備動作はほぼない。

 正確だが射程距離が短いはずのインサイドキック。だが有村のそれは並の選手より10メートルは長い。

 そして有村は常に脱力してプレーする。

 そのためボールを受けデフォルトの状態から『パス』、『シュート』、『ドリブル』への移行が余りにも速い。だから誰にとっても有村を止めることが非常に難しいのだ。マークしていた鮎川も今のパスにまったく反応できなかった。


 鹿野は佐伯にマークされながら左沢にバックパス。左沢は11時方向へ俺に転がすパス。

 俺の前方にはビブス組の逢瀬。仮にこいつを突破しても、その後ろで大槌が余っている。

 俺は、

 ボールをスルーした。

 左沢のバックスピンをかけたパス。ここから急激に減速する。

 俺のファーストタッチを狙っていた逢瀬を交差する形でかわし、

 止まったボールに追いつく。(ややゴールに対し左寄り、角度がない。大槌がシュートコースを消している)。

 俺はシュートを強行。大槌とGK古賀の間にねじこんでやる。

 シュートはしかし、逢瀬(・・)の爪先に触れゴールを外す。俺は倒された。

 逢瀬……もう笑うしかない。クロックアップでも使ってるんじゃないのか。

 1度ゲームが止められた。俺に怪我はない。

 鹿野が駆け寄ってきて叫ぶ。「俺に点獲らせんじゃなかったのかよこのカス野郎! だから俺が後ろからスペース走ってたんだろ!」


「ネタバレすんじゃねえよ」芝の上に座ったままの俺が言う。


 まぁ俺が決めるにこしたことはない。ないのだけれど。

 相手が悪すぎる。逢瀬を仕留めるには連携を使わなければならない。

 今のチャンスは『仕込み』。俺の本命は……。



 古賀のキックで試合再開。

 ビブス組の攻撃。

 古賀から佐伯、佐伯から大槌。

 大槌は鮎川へロビングのパス。

 鮎川は有村に追われながらゴール右に流れていた。

 鮎川はボールをトラップしない。

 長い足を伸ばし空中のアウトサイドキック、ゴール前に折り返す。

 そのボールを水上が叩く!

 そう思っていたのは鮎川だけだ。

 鮎川のアクロバティックなパスを近衛がジャンプしながらカット。

 走りだした俺にパスをくれた。

 右寄りの位置で逢瀬と対面。

 右足で小刻みにタッチ。

 逢瀬(倉木はカットインからシュートを狙っている?)

 そう、俺なら左足でカーヴをかけ、遠いポストぎりぎり内側を狙ってシュートを決められる。

 俺はしかける。

 チェンジオブペース。(ゼロからトップスピードへもっていく)。

 俺の最速に逢瀬はついていく。ついていくどころか、

 距離を詰めボールを()りにきた。

 そのタイミングでアウトサイドキック、逢瀬の開いた足の間を狙う。

(股抜き? だがボールスピードが速すぎる。ゴールラインを割るに決まって……)

 股抜きのスルーパス。

 鹿野が大槌をふりきってゴールへ突っこんでいく。

 1対1! GKがシュートコースをふさぐ。

 ぎりぎりのコースを狙え!

 しかし鹿野は狙えなかった。シュートは古賀の広げた足にあたり外れる。

 フィールドの外からため息が聞こえてくる。

「ここで外す?」と俺はつぶやく。


「詰めが甘いですよ」と近衛が言った。「本当に」

 近衛は転がったボールに軽く触れ、ゴールの中におさめた。


「ってここまで上がってたのかよ」俺は驚く。


「僕はマークがいなかったんでずっとゴール狙ってたんですよ。パスからじゃなくてこぼれ球からだったのは意外でしたけど」近衛は戻りながら大声でチームメイトに。「古賀ぁ、ボール切れてないんだからすぐ起き上がってキャッチしてください! 大槌は倉木を見すぎ! マークから眼ぇ離すな捕まえておけ! 逢瀬、ちゃんと眼ぇついてるんですか今の守備。相手に勝負させる前に片をつけろといつも言ってるでしょうが! ああ?」

 以下逢瀬と近衛が口論にはいる。またしてもゲーム中断。青野監督がため息をつく。


「俺DFじゃなくて良かった」


 試合が再開する前に逢瀬と近衛がフィールドから出る。

 この2人がいなくなったことでようやく点が頻繁にはいる展開になった。

 ゴールはアタッカーの自信になるし、DFにとってはいい反省材料となる。




 青野監督が言ったようにこのミニゲームでウズベキスタン戦のスタメンは決められたようだ。

 サイドバックはこれまでどおり連戦を避け大槌と左沢がはいる。

 そしてとんでもないループシュートを決めた水上がセルビア戦以来の先発復帰。代わりに志賀がベンチに下げられた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ