逢瀬博務の殺し方
青野さんは6人メンバーを代える。
俺や左沢、有村が呼ばれた。
選手交代を終え現在ミニゲームにでているメンバーは、
ビブス組。
古賀、逢瀬、大槌、佐伯、鮎川、水上。
非ビブス組。
マルコーニ、近衛、左沢、有村、倉木、鹿野。
俺はラインをまたぎ逢瀬に話しかける。「今度ぁお前に敗北を味わわせてやる……あれ? 味あわせてやる? 味わわせてやる?」
右隣りの有村が小声で。「『味わわせてやる』で正しいですよ」
指をむけて。「味わわせてやる!」
「真面目にやれよ」と逢瀬。
真面目にやっている。
非ビブス組のメンバーを見直した。
鹿野以外は全員上手くボールをつなげる選手だ。
だからといって鹿野を最前線に置いたとしても……。
そこを守るのは逢瀬。これまでのところ鹿野に何もやらせていない。鹿野はゴールを挙げたナイジェリア戦以降絶好調だというのに、逢瀬のディフェンスには歯が立たない。
俺は鹿野に話しかけた。「俺が前でやる、お前は下がれ」
「ああ? なんでお前が俺のポディションはいんだよ?」
「いいから。お前に点獲らしてやっからよ」
……マルコーニのゴールキックで試合再開。
近衛、左沢が下がった位置でボールを回す。その5メートル前で有村がボールをもらう動き。
有村は自分にボールがくる直前まで顔を上げ、敵と味方がどこにいるかを確かめている。
有村はリアルタイムでフィールド上の『地図』を書き換え続けることができるのだ。
その有村をマークするのは鮎川。
有村はフィールド中央で前をむいてパスを受けた。
有村から右前方の鹿野へあっさりとパスが渡った。
あっさりと。
有村のインサイドキックを使ったパス。予備動作はほぼない。
正確だが射程距離が短いはずのインサイドキック。だが有村のそれは並の選手より10メートルは長い。
そして有村は常に脱力してプレーする。
そのためボールを受けデフォルトの状態から『パス』、『シュート』、『ドリブル』への移行が余りにも速い。だから誰にとっても有村を止めることが非常に難しいのだ。マークしていた鮎川も今のパスにまったく反応できなかった。
鹿野は佐伯にマークされながら左沢にバックパス。左沢は11時方向へ俺に転がすパス。
俺の前方にはビブス組の逢瀬。仮にこいつを突破しても、その後ろで大槌が余っている。
俺は、
ボールをスルーした。
左沢のバックスピンをかけたパス。ここから急激に減速する。
俺のファーストタッチを狙っていた逢瀬を交差する形でかわし、
止まったボールに追いつく。(ややゴールに対し左寄り、角度がない。大槌がシュートコースを消している)。
俺はシュートを強行。大槌とGK古賀の間にねじこんでやる。
シュートはしかし、逢瀬の爪先に触れゴールを外す。俺は倒された。
逢瀬……もう笑うしかない。クロックアップでも使ってるんじゃないのか。
1度ゲームが止められた。俺に怪我はない。
鹿野が駆け寄ってきて叫ぶ。「俺に点獲らせんじゃなかったのかよこのカス野郎! だから俺が後ろからスペース走ってたんだろ!」
「ネタバレすんじゃねえよ」芝の上に座ったままの俺が言う。
まぁ俺が決めるにこしたことはない。ないのだけれど。
相手が悪すぎる。逢瀬を仕留めるには連携を使わなければならない。
今のチャンスは『仕込み』。俺の本命は……。
古賀のキックで試合再開。
ビブス組の攻撃。
古賀から佐伯、佐伯から大槌。
大槌は鮎川へロビングのパス。
鮎川は有村に追われながらゴール右に流れていた。
鮎川はボールをトラップしない。
長い足を伸ばし空中のアウトサイドキック、ゴール前に折り返す。
そのボールを水上が叩く!
そう思っていたのは鮎川だけだ。
鮎川のアクロバティックなパスを近衛がジャンプしながらカット。
走りだした俺にパスをくれた。
右寄りの位置で逢瀬と対面。
右足で小刻みにタッチ。
逢瀬(倉木はカットインからシュートを狙っている?)
そう、俺なら左足でカーヴをかけ、遠いポストぎりぎり内側を狙ってシュートを決められる。
俺はしかける。
チェンジオブペース。(ゼロからトップスピードへもっていく)。
俺の最速に逢瀬はついていく。ついていくどころか、
距離を詰めボールを殺りにきた。
そのタイミングでアウトサイドキック、逢瀬の開いた足の間を狙う。
(股抜き? だがボールスピードが速すぎる。ゴールラインを割るに決まって……)
股抜きのスルーパス。
鹿野が大槌をふりきってゴールへ突っこんでいく。
1対1! GKがシュートコースをふさぐ。
ぎりぎりのコースを狙え!
しかし鹿野は狙えなかった。シュートは古賀の広げた足にあたり外れる。
フィールドの外からため息が聞こえてくる。
「ここで外す?」と俺はつぶやく。
「詰めが甘いですよ」と近衛が言った。「本当に」
近衛は転がったボールに軽く触れ、ゴールの中におさめた。
「ってここまで上がってたのかよ」俺は驚く。
「僕はマークがいなかったんでずっとゴール狙ってたんですよ。パスからじゃなくてこぼれ球からだったのは意外でしたけど」近衛は戻りながら大声でチームメイトに。「古賀ぁ、ボール切れてないんだからすぐ起き上がってキャッチしてください! 大槌は倉木を見すぎ! マークから眼ぇ離すな捕まえておけ! 逢瀬、ちゃんと眼ぇついてるんですか今の守備。相手に勝負させる前に片をつけろといつも言ってるでしょうが! ああ?」
以下逢瀬と近衛が口論にはいる。またしてもゲーム中断。青野監督がため息をつく。
「俺DFじゃなくて良かった」
試合が再開する前に逢瀬と近衛がフィールドから出る。
この2人がいなくなったことでようやく点が頻繁にはいる展開になった。
ゴールはアタッカーの自信になるし、DFにとってはいい反省材料となる。
青野監督が言ったようにこのミニゲームでウズベキスタン戦のスタメンは決められたようだ。
サイドバックはこれまでどおり連戦を避け大槌と左沢がはいる。
そしてとんでもないループシュートを決めた水上がセルビア戦以来の先発復帰。代わりに志賀がベンチに下げられた。