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最強プレイヤーが代表チームを率いて世界一を目指す話(旧題/日本サッカー架空戦記)  作者: 三輪和也(みわ・なごや)
トーナメント1回戦/争奪
61/112

鹿野島荘その3

(後半29分)

実況「……さあ有村から長いパスが右サイド金井に通った」

解説「ここは勝負でしょう!」

実況「押されたが金井は倒れない! ゴール前にいれてくる、志賀には通らない。鮎川はスルー! 決まったぁ! ゴオオオオオオーーーーール!!」

解説「やってくれましたねえ!」

実況「決めたのは鹿野でしょうか、そのままベンチまで走っていきます。これで鹿野島荘大会3得点目。先制点となる素晴らしいゴールでした」

解説「はい。やっぱりストライカーの本能というんでしょうか、短いクロスボールに近い位置の2人が反応できないで、1番遠いところに鹿野がはいっていきて……いて欲しいところに走ってましたね」

実況「残り15分とアディショナルタイム、ナイジェリアはもう攻めるしかありません。……両チームともメンバーの交代があるようです。日本は誰が出てくるのか……」

解説「キャプテンの逢瀬が声をかけています。気持ちを切り替えて試合に集中させたいようですね」

実況「この大会からキャプテンを任された逢瀬ですが立派にその役割を果たしています。選手がフィールドに戻ります。まだ選手交代は両チームとも認められていないようです。そのままの選手で試合再開。ナイジェリアは一度下げ、ロングボールを選択します。ここは佐伯が戻ってクリア、しかしつながれます」

解説「ナイジェリアはラインを押し上げてますね。逆に日本はカウンターのチャンスですよ」

実況「中央から攻めますナイジェリア。10番がボールをキープ、ここはバックパス。倉木がそのまま追います。クティ、あ、トラップが大きい。倉木が奪い横の有村へ。有村から鹿野へ。前が空いてます!」

解説「よし!」

実況「ナイジェリアのDFは2人だけ、鹿野は自分で突っこんでいく突っこんでいく!」

解説「撃っちゃえ!」

実況「撃つか? いや倒れた! 懸命に戻ったクティが鹿野を横から倒しました。ファウルの判定。主審のフロイスさんがナイジェリアの8番クティにイエローカードを出します」

解説「決定的でしたからレッドカードでも良かったんですけれど……。邪魔されなかったら決めてたと思いますよ」

実況「ゴール正面からのFKです。25メートルの距離、日本は直接決めることができます。ボールの前には倉木と有村が並びます。ナイジェリアは壁を築く」

解説「どっちが蹴ると思います? 僕は有村だと思うんですけれど」

実況「その有村がボールをセットした」

解説「なんかこれ決まる流れじゃないですか?」

実況「鹿野の先制点から1分経過するかしないかという時間。後半30分。主審がナイジェリアの選手に近づきすぎないよう注意しています。さぁ笛。どちらが蹴るのか。有村が短い助走決めてきたあああ!!」

解説「よっしゃー!」

実況「日本決定的な2点目! ナイジェリアを突き放します!」

解説「相手が前がかりになって、でも日本も追加点を狙ってましたね。前からボールを奪いに行っていた。だからこそ鹿野がドリブルで独走できて、相手がファウルで止めることになって、それであのFKですからね。有村のキックはとんでもない。どのチームでもキッカーやれますよ」

実況「どこのチームでも……」

解説「はい、やれるでしょう。だって16歳ですよ。とんでもない選手が現れたと思います」

実況「試合再開前に今度こそ選手交代が認められるようです。日本は古谷がはいります。ナイジェリアは……」



(後半アディショナルタイム)

実況「……ほとんど時間がありません。ナイジェリア右からボールを上げてくる。10番トラップが大きい。しかしオーヴァーヘッドを狙った! いや樋口が体を張ってブロックだ」

解説「ナァイスディフェンス!」

実況「ボールが外へ出たところ、今試合終了の笛! 日本2対0でナイジェリアを下しました!」

解説「やりました」

実況「選手たちもこの表情。日本は終始ボールを支配しましたがなかなかゴールが奪えませんでした。そんななか鹿野、有村とゴールが立て続けに決まり勝利を手繰り寄せました」

解説「これでベスト8。いやもう優勝しかないでしょう。本当にいい試合をしてると思います。有村もそうですけれど面白い選手がいっぱいいるチームです。ずっと観てたいですよ」

実況「次の試合は準々決勝、相手はイングランド対ウズベキスタンの勝者との対戦です」

解説「どんどん強い相手が出てくることになりますけれど、今のこのチームなら全然問題ないんじゃないですかね、なんかこう、負けようのないオーラみたいなものを感じます……」




 試合終了。


 スタジアムから少しずつ観客の数が減っていく。興奮したままの日本のサポーターはまだ残っていたが。

 俺はアンダーウェア姿の逢瀬を見つけた。相手選手と交換したのだろう、ナイジェリアのユニフォームを肩にかけている。

 俺は指を4本立てて見せてから、小指を折った。

「あと3試合だ」


「ああ」


「これからどんどんきつくなるだろう。怪我人がでなかったことは幸いだ」


「もちろんだ」


「どうだったサロ=ウィアは? 抑えるのには苦労したか?」


「そうでもない。味方からいいパスがくればってストライカーだからな。俺とあいつが勝負する前に決着がついてしまった」


「中盤で勝ったからな」と俺。「俺と有村がパスで相手をふりまわした。大型選手は細かいパス回しに弱い。それに守備でもしつこくいけたし、佐伯もいつもどおり空気が読めるポディショニングだった。何より俺が、俺がクティに喰らいつけたからだけどね」


「俺だってやることはやってただろう」と逢瀬。「今日は右で攻めてたんだ。右のセンターバックの俺の担当するゾーンは広かった。俺がいたからこそあんなに人数かけて攻められたんだ」


「自画自賛ブラザーズだな。鹿野は……」

 鹿野はもうスタンドのなかに引き上げている。あいつも4試合連続で先発出場。かなり消耗しているはずだ。疲れているところをチームメイトに見られたくないようだ。

「鹿野は本能でプレーする奴だ。これまでなんていうか、チームプレーに徹するところが多かった。FWのなかでは1番いい守備をするし、なんていうか空気が読めすぎていた……けれども先制したところ……見てないか」


「いや遠くからでもわかってた。金井がクロスいれて、志賀が届かなくて、鮎川が後ろむいてて」


「かなえからボールを強奪したようなもんだった。鹿野をマークしてる奴がボールウォッチャーになって、フリーになったのはいいけれどあそこに走ったら邪魔になるだけだった」


「でも現実にゴールを奪ってるだろ?」


「いや、やっぱり鮎川がシュートを撃たないことは予想できない。鮎川のスルーは奇策だった。金井だって鮎川を狙ってラストパスをだしたんだ……あれは鹿野のストライカーとしての本能的なプレーだよ」


「本能……」


「あいつは味方の動き、敵の動きが数秒前にもう見えているんだ。ペナルティエリア限定でな。だから」通常なら。「こぼれ球を詰めるために後ろでまつところを、かなえの外を追い抜いてシュートを撃てた。セルビア戦のときも思ったがあいつは意外に観察力が高い。選手の特徴を読む力は俺よりも上だろう。だからこそここに」代表に。「いられて、そいでチームの得点王にだってなれる」


「鹿野か……2点目のドリブル突破も、相手が鹿野にミドルシュートがないと思ったから、それを鹿野自身が知っていたからだった」


 なんだそれもわかってたのか。


「……俺がいてお前がいて、近衛、有村、鹿野、鮎川……」


「優勝できなかったらもったいないレヴェル」


 逢瀬は横をむき、何事か思いつめた表情で1人の人物を見つめだした。

 俺はその視線を追う。逢瀬が見ているのは青野監督、および監督と話をしている木之本伴だ。


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