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最強プレイヤーが代表チームを率いて世界一を目指す話(旧題/日本サッカー架空戦記)  作者: 三輪和也(みわ・なごや)
トーナメント1回戦/争奪
60/112

鹿野島荘その2

『試合前』


 青野さんはロッカールームで講義を始める。あまりサッカーとは関係の内容だった。

「ブラックアフリカンはみんな自立心が強く自分1人でなんとかしようとする性格をしている、とされる。日本みたいに国がしっかりしていないから、自分たちで問題を解決しようとするんだ。それはサッカーにも通じている。彼らは仲間に頼らない。チームワークに頼らない。攻撃ならともかく守備ではこれは大きな問題になるね」


 近衛が指摘する。「ボールを奪いにいきすぎなんですね?」


「そう。だから3試合で6失点もしてしまった。むこうの監督は日本戦で方針転換してくるかもね。守備に人数割いてアタッカー減らして」


「現実路線ですね」と俺。


「もちろんわからないよ。グループリーグのときのように失点覚悟の撃ちあいにくるかもしれない。そちらのほうが実は勝機があるのかもしれない。グループリーグを見る限り日本のほうが格上なんだ。セルビアやアルゼンチンを倒してのけたんだから。……どんな試合になるかはナイジェリアの監督次第だね」




『志賀劉生その4』


 ハーフタイム。

 志賀は思いつめたような表情で日本のロッカールームに引き上げてきた。

「お前いつもハーフタイムに怒ってんな」


「悪いか? FWだっつうのにここまで無得点だ」


「アルゼンチン戦途中まででセルビア戦欠場だったじゃねえか」


「んなこと関係あるか……青野監督は得点力を評価して俺を選んでくれてるのに、全然貢献できていねぇ。チームの足を引っ張ってるだろ」


「ゴールだなんて偶然の産物だろ。このレヴェルで」世界大会だぞ。「ゴール量産できる奴なんてそうはいない」


「じゃあ相手のサロ=ウィアは?」


「サロ=ウィアこそうちのDFに完封されそうになってるだろ」

 ベンチに座った近衛がこちらをむく。

「お前は自分の得点で勝たなきゃ喜べないほど器が小さいのか?」


「……どうしてお前なんだ? 俺じゃあなくて」


 俺は渋い顔をする。

「そんなことを考えてる奴に試合に出て欲しくない」


 ……志賀はトップ下の位置でプレーする機会が多くなっている。

 相手が3バックで中央を固めている以上、志賀にはミドルシュートもない、ドリブル突破も選べない。味方にパスを出す役割に終始していた。フラストレーションの残る前半だっただろう。




『鹿野島荘その2』


「鹿野が大人しい」と俺は言った。


「鹿野さんが大人しい?」木之本が疑問形で返した。


 これまたハーフタイムの会話だ。後半開始直前、通路を抜けフィールドに出ようとしていた。

「鹿野さんはいつもどおりガサツな人のままですよ。口喧嘩大好きで大声で」


「サッカーがだよ。明確にそうだろう。たとえば相手ボールのときはベンチの指示にいちいち従ってる。攻撃のときは味方にスペースをつくったり、空気が読めるパスを選んだりしてる」


「そういうときもありますけど……あ、そうだ、アルゼンチン戦のときの誤審がありましたでしょう。相手がハンドでクリアした。そのときハンドした選手に喰ってかかったじゃないですか」


「それは初戦のときのことだろ。今の鹿野は違う。正直今のあいつは腑抜けだ。どこにでもいる選手と変わらん。なんか空気読みすぎて気持ちが悪い。ストライカーっていうのはね、誰にも邪魔されず自由でなんというか救われてなきゃあダメなんだ」


「何が言いたいんですか」


「あいつが人並みのプレーを始めたら、誰にだって止められる選手になるってことだよ」




『スルー』


 後半29分。


 クティが高い。

 ボランチのクティがアタッキングサードまで攻めがってきた。

 時間が時間だ。延長戦がない以上ナイジェリアもPK戦を嫌がっている。

 クティは左サイドを攻め上がる。俺は後半にはいってからはこの選手にマンマークされていた。

 今度は俺の守備。

 サイドバックから縦パスをもらい、この場面では……。

 カットイン?

 いや中央にドリブルしてから左サイドの10番にパス。

(金井にマークされながら)10番はこねずにクロスボール。

 狙いは逆サイドではない。再びクティ。

 その長身を加速させ、何者にも邪魔されない上空からボールを叩きつける!

 だが逢瀬がその高みへ浮上する。ボールに先に触れたのは逢瀬。

 転がったボールを俺が拾う。

『鬼』の役割を代え追いかけっこがまた始まる。

 クティより俺のほうが体力は残っていた。風通しの良い中盤を駆けあがる。

 40メートル。これが限界。

 もう1人のボランチを引っ張りだしたところで俺は志賀へパス。

 志賀は中央へ。

 前を向く。

 俺は叫ぶ。後ろの「有村だ!」

 シュートを選びかけた志賀。だが相手の守りはもう固まっている。

 俺たちから見て『左』へ。これなら右が使える。

 今度こそ右で崩す。

 志賀から有村へ。有村は2時方向にサイドチェンジ。

 金井がボールを受けた。

 金井と木之本の違い、それはドリブル突破があるかないか。

 小柄な金井のほうが上手なのは当たり前だ。

 金井はゴールにむかって直進する。

 マークするナイジェリア選手が金井を背中から押した。

 だが金井は倒れない。(まだペナルティエリアにははいっていない、カードよりも大事なのは)。

 ゴールだ。

 金井のクロスがペナルティエリアを横断する。


 志賀は。

 間受けを狙っていた。(DFが飛びだせないポディションでミドルシュートを狙っていたのに……)

 ボールは志賀の前方を通過。


 鮎川は。

 ゴールに背をむけてしまった。(ヒールシュートを狙う? でも確率は低い。ならばここは背中のDFの動きを封じて、あいつに決めさせる)。

 ボールは倒れた鮎川の爪先を通過。


 鹿野は。

 鮎川の背後を追い抜いていた。(この流れ、こいつが決める流れだ! 読めるぞ、鮎川はこのDFに掴まれ動きは封じられる。なら鮎川、お前もこいつを抑えられるはず。お前は潰れろ、俺が)「決めるからよ」

 ボールは鹿野が無人のゴールに流しこんだ。


 2人の選手が犠牲になり。大外からゴールをかっさらったのは鹿野島荘だ。




日本

    1-0

         ナイジェリア


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