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最強プレイヤーが代表チームを率いて世界一を目指す話(旧題/日本サッカー架空戦記)  作者: 三輪和也(みわ・なごや)
グループリーグ第1戦/幸先
6/112

倉木一次その1

 倉木一次(くらき・かずつぐ)

 所属チーム/ガンズ大阪ユース

 適性ポディション/センターフォワード・ウィング・トップ下・ボランチ

 背番号/10

 利き足/右

 学年/高校2年

 出身地/大阪

 身長/175cm

 体重/69kg

 呼称/クラ・カズなど




 前半4分。

 現在日本ボール。


 左サイドバックがハーフウェーライン上から相手ディフェンスラインの裏を狙うボール。

 前をむいたFWに通れば、というパスだ。左のインフロントキックで精緻な弾道を描く。

 だがアルゼンチンのDFがヘディングでクリア。完全に読まれていた。

 高いボールをアルゼンチンのMFがコントロールできない。相手のトラップミスを日本のボランチがさばく。ワンタッチで右にいる味方へ横パス。さらにその選手から右サイドを走るサイドバックへ。右へ右へとボールが流れる。

 アルゼンチンは日本のボール回しに難なくついていく。ドリブルを選択しかけた日本のサイドバックは、一端ボールを下げた。



 サッカーとはゲームであり、ゲームに参加することとはプレーすること。プレーすることとは……。

 ゲームで勝利を目指すことと同義だ。

 勝利を目指す……つまり相手のやり方につきあうのではなく、自分の意志で、自分の選択で、先手を打って勝利を指向したサッカーをすることだ。


 俺はボランチ。絶妙なパスで味方を動かし好機をつくる、それがボランチといわれる役割の仕事。本来シュートを放つ役割は課されていない。

 だが俺の本職はFW、そのことは青野監督だってわかっているはずだ。

 青野監督は俺のサッカーに二面性をあたえてくれた。

「中盤でプレーする以上普段はつなぎ役に徹し、究極の場面(・・・・・)がきたらドリブルで、あるいは味方を追いこす動きで最前線へ走りこみ、ゴールを奪ってくれてもかまわない」

 サッカーにおける究極の場面。それはシュートシーン。

 1人の選手のテクニック、身体能力、判断力によって貴重な得点がチームに与えられるか否かが決まる。

 決定力。これがサッカー選手のすべてとはいえないが、もちろんあるにこしたことはない。

 この試合、日本がチャンスを量産することはきっとないだろう。中盤の俺にあたえられたチャンスは1度か2度。

 そのすべてを(・・・・・・)相手ゴールに叩きこむ(・・・・・・・・・・)



 ……右サイドバックからのバックパスをセンターバックが受けようとする。

 アルゼンチンの長身FWがボールを追いかけてきた。

 長い距離を走っている。日本にボールをつなげさせたくない。雑なパスをださせたい。

 ボールを後方の味方が奪えばそのままDFの裏を狙いにいくはずだ。

 FWがジャンプすると同時に大きく蹴りだす。

 その直後に軽い接触があった。笛が鳴り日本のプレースキック。敵陣からボールがもどされる。

 主審はアルゼンチンの9番に注意をあたえられた。まだ落ち着いている様子。悪意のあるプレーではなかった。ファウルを受けた日本のセンターバックも平常心のままだ。



 ……話には聞いていた。これがアルゼンチンの守り方なのだ。

 アルゼンチンは『ボールを守る』。ボールを支配していれば失点を心配する必要はない。

 だから日本ボールになれば速やかに奪い返しにいく。

 アルゼンチンの選手はみんな走る。その走力でボールをもった選手にプレッシャーをかける。パスコースをふさぐとかそんなんじゃなくて、全力で潰しにいってくる。

 タックルやチャージといったファウルぎりぎりのプレーが混ざることは予想していた。なんたって俺たちが今対戦している相手はアルゼンチン。連中にとって『マリーシア』は選択肢の1つにすぎない。



 ……蹴るのはファウルを受けたそのDF。このチームのキャプテンでもある。

 ボールが置かれたのはフィールドのやや右寄り、センターサークルの約10メートル後方。

 キャプテンが蹴る前に俺はポディションをあげる。首をふって味方の位置を確認。

 前方に志賀の姿があった。

 こいつは右ウィングのはず。

 位置取りが中央すぎる。自分とポディションが被っている。どうしてもボールにタッチしたいようだ。

 このままでは中央に人数が集まりすぎてしまう。そして指示している時間はない。

 俺は志賀から離れ右寄りのポディションに移動する。

 その時だった。ゴールの匂いを嗅いだのは。

 キャプテンが改めてボールを縦に送る。左サイドのFWを狙ったキックだったが、やや後方で控えていたアルゼンチンDFが駆け寄って高くジャンプ。ヘディングでクリアした。

 だがタッチを割ってはいない。

 弾んだボールが上がっていた左サイドバックの前に。

 センターフォワードがパスをもらいに近寄る。よりゴールに近い志賀という選択肢もある。

 離れた位置にいるサイドバックと俺は思考をシンクロさせる。


((志賀はない。囲まれる。出すなら大きな展開。右に開いた倉木に)俺に(・・))。


 左サイドバックはなんとボレーでサイドチェンジ。

 浮いた球をダイレクトで蹴る。相手の対応がワンテンポずれる。

(すべての味方がペナルティエリアから離れる動き。ドリブルするスペースができる)。

 志賀が頭をさげてボールを避ける。俺の足元に。

(アルゼンチンのDFがパスを追いかけてきた)。右足でボールが飛んできた方向にトラップ。DFとすれ違いになるかっこうでかわす。

(『究極の場面』! いきなりすぎる)。

 残る敵はただ1人。真っ向に勝負。「決めろ!」

 決めるさ。左足にもちかえ右斜め45度から侵入する。

 シュートを撃とうとするも粘ってくる。

 まだエリア内じゃない。相手はファウルでもいい。カードでもいい。

(俺が決めるんだ)。

 右腕を掴まれた。俺も右腕を使う。

 使うのはシュートのため。相手の引っ張る力を利用し後ろに回りこむ。

 3人目が視界の左に見えた。相手はお前じゃない。

 キーパーだ。

 左インフロントキック。軸足前に置いたボールを蹴り抜けた。破裂するような音を耳にする。

 俺は倒されながら前方を睨んだ。ボールは横に跳んだキーパーの手に弾かれ転がる……。

「やっぱりそうだ」と俺は口に出す。

 転がるボールはやがて勢いを失う……。

「最強は俺だった」

 ボールは優しく、ゆっくりとゴールネットの内側に包まれた。アルゼンチン選手が棒立ちになる。




   日本

     1 - 0

          アルゼンチン


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