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最強プレイヤーが代表チームを率いて世界一を目指す話(旧題/日本サッカー架空戦記)  作者: 三輪和也(みわ・なごや)
トーナメント1回戦/争奪
59/112

青野健太郎その5

(ハーフタイム)

実況「……0対0のまま前半戦が終了しました。どうでしょう」

解説「やっぱり負けたら終わりのトーナメントですからね。慎重な立ち上がりでした。……試合を観て思ったんですけれど、やっぱり戦力的に日本のほうが上です」

実況「ほう」

解説「日本は特別穴っていうポディションがないですから」

実況「なるほど。試合前にも話してましたがナイジェリアはDFが弱点だと……」

解説「日本がチャンスをつくり続ければ後半先制点が生まれると思います。なんといったって大会規定で延長戦がありませんから」

実況「同点のままで終わればすぐにPK戦ですからね」

解説「PK戦はサッカーじゃありませんからね。運任せですよ。グループリーグであんなにいいサッカーしてきたんですから、PK戦なんかで負けたら選手たちがかわいそうです。もっとリスクを負ってガンガン攻めにいって欲しいです」

実況「えー、注目されていたナイジェリアのサロ=ウィア選手ですがここまでシュート1本です」

解説「この選手は典型的なスピードスターってタイプですね。最初の一歩が爆発的に速くて、味方からパスをもらったときには勝負がついている。でも近衛類選手がサロ=ウィアへのパスをことごとく読んで奪いとっています」

実況「なるほど」

解説「でもこれまでの試合6点奪ってるわけで、それが自信にもつながるわけですよ。ですから後半日本の選手が少しでも隙をつくればそれを突いてくるでしょう」

実況「わかりました。では後半日本の健闘に期待しましょう」

解説「健闘じゃ困りますよぉ、勝ってくれなきゃ……」



(後半開始直前)

実況「……ナイジェリアは選手を1人代えるようです。主審が確認しているようです。前半左ウィングにはいっていた選手に代えて背番号20、新しい選手がはいってきました。ポディションは試合でわかり次第伝えます。日本ボールで後半のキックオフです……」



(後半1分)

実況「……新しくはいった選手は右ウィング……でしょうか」

解説「そうですね。トップ下だった10番が左にはいって3トップは維持したまま。3-4-3なのかな」

実況「さあここでナイジェリアの攻撃。クティから長いパスが左サイドに通ります。10番が柔らかいトラップ。木之本がマーク。左足でまたぐ! かわして左足でゴール前にいれてくる……ここは近衛がヘディングでクリア。佐伯につなぎます」

解説「今のは……」

実況「日本ピンチでした」

解説「ニアサイドのサロ=ウィアを囮にしたプレーでしたね。狙いは遠い右サイドの20番でした」

実況「なるほど」

解説「樋口選手は高さがないですから、逆のサイドからボールを上げられるとちょっと厳しいかもしれません。今のは近衛選手が上手くクリアしてくれましたが……」

実況「おっと……まだ後半始まったばかりの時間帯ですが、青野監督動くようですね。選手の怪我ではなさそうですがアップしているのは……」




 後半2分。


 木之本伴とハイタッチをし、ゲームにはいってきたのは金井侑一。

 金井はそのまま木之本の勤めていた右サイドバックのポディションにはいるという。

 金井は同じ右サイドでプレーする俺と志賀に話しかける。「監督からの伝言だ。ナイジェリアベンチは攻撃的な采配をふるってきた。ならこっちも攻撃で応えてやろう」


 志賀はただうなずく。

 俺は黙ってなんていない。「もちろん行動で応えてくれないと」


「もちろんだ。青野監督はベンチでつぶやいていた。『サイドバックとしてプレーするなら俺が2番目に攻撃的な選手だ』と」


 ほえ~。「なら1番は?」


 金井は顎で目の前の志賀をしめす。


 志賀は衝撃を受けている。自分を指して。「俺? 俺サイドバックなんてしないよ……『なんて」なんて言っちゃいけないかもしれないけど」


「ゴール欲しいもんな」と俺。


「そんなサイドバックなんてゴールから遠い位置……」志賀はあからさまに不満気。


「もちろんトップ下やウィングほどゴールは奪えないかもしれない。それでも俺は俺の弱さを……」


 俺は吠える。「またそれかい!」


「認識している。安定をとるならまだ疲れていない木之本をそのまま使い続けただろう。この采配は博奕だ。青野さんは俺に賭けてくれた。勝つも負けるも俺次第なところがある。これまで試合の流れは均衡していたんだから」


「素晴らしくプレッシャー」


「だが俺はやってみせる」

 金井は決意を胸にフィールドへ降り立っていた。試合に出たのはアルゼンチン戦以来か。



 試合が再開した。

 日本は攻撃をこれまで以上に右に偏らせる。金井と俺と志賀がいい距離でパスを回す。全員がゲームメイカーにして全員がドリブラー。右で崩しゴール前の鮎川や鹿野にいいパスが通り始めた。

 金井の上がったスペースは鬼足を誇る逢瀬がカヴァーしている。



 右サイドから.ばかり攻撃をしかけるのには理由がある。何も新しくはいった金井を活かすためだけではない。

 両チームのフォーメーションを重ね合わせてみればわかることだ。

 今もっとも警戒すべきナイジェリアの選手、10番に近いのは新しくはいった金井。

 金井が長い距離を走って攻撃に参加すればするほど、マークする10番はそれだけ守備に体力を消費してしまうことになる。

 10番は木之本に対し見せたようにフェイントを多用するテクニカルなドリブラー。しかし体のキレやスピードは結局体力に依存する。攻撃に使いたい体力を守備で浪費させれば10番は怖くはない。

 青野さんは相手のプランを、ナイジェリアから見て左サイドを崩し右からでゴールを奪うというプランを2分で瓦解させた)。




 後半12分。

 ナイジェリアはボールを奪っても10番が引いた位置に戻っている。そこでボールをもたせても(ナイジェリアにとって)危険なドリブルをするだけだ。

 DFは長いボールを選択。

 マルコーニの前で逢瀬がヘディングでクリア。

 そのボールを20番に拾われた。バッドラック!

 この選手は前方にスルーパス。

 サロ=ウィアに。ファーストタッチで左にきり返す。

 マークする逢瀬が逆を突かれた。ペナルティエリアにはいる。

 ストライカーは、(左インサイドでは間に合わん、右アウトサイドで転がす!)

 この選択は間違っていない。この選手の技巧ならシュートは決まっていたはずだ。


 逢瀬がいなければ。逢瀬は驚異的なストライドでサラ=ウィアに追いつく。まるで縮地だ。そのままゴールへの壁になる。


 近衛がいなければ。近衛はサロ=ウィアが左に方向転換することを読んでいた。背後から追いつきボールとの間にはいる。


 フィールドにむかって胸から倒れたサロ=ウィア。だがすぐさま起き上がる。(やっかいな奴だ。うちのDFなんて比較にならん。……だがどんな攻略できないDFなんていないはず。俺たちの強みはパス1本で状況を変えられること。変えられるのは他でもない、この俺だ)。




 試合が動いたのは後半27分のことだった。


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