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最強プレイヤーが代表チームを率いて世界一を目指す話(旧題/日本サッカー架空戦記)  作者: 三輪和也(みわ・なごや)
グループリーグ第3戦/臥龍
51/112

有村コウスケその3

トリニダード・トバコは専守防衛の体勢。日本が深く攻めこめばGKと5バック、それに4人のMF、計10人がペナルティエリアにはいる。シュートを撃たれても体で止めるような守り方だ。

 だが、セルビアとアルゼンチンは大量得点を奪っている。

 1ゴールでも奪うことができれば、トリニダード・トバコは攻撃に人数をかけざるを得ない。守っていても集中力を保てないはずだ。

 だからこそ前半のうちに先制しておきたかった。俺はベストを尽くしたし、フィールド上でミスを繰り返したわけではない。



 有村コウスケがベンチに座る俺の眼の前を走り抜ける。



 まだ日本対トリニダード・トバコの試合は動いていない。スコアは依然0対0。

 俺にできるのは、ただ声の限りを尽くしてチームメイトに全力を強いることだけだ。


 有村が試合にはいった。だからといって試合の内容が特別変化することはない。日本が圧倒的に攻めトリニダード・トバコは守備に奔走するばかり。テレビで観ている人は前半戦のリプレーを流しているのかと疑うかもしれない。

 両チームの実力の違いは、そう、日本が1部リーグの首位クラブなら相手は2部リーグの中位から下位に値するだろう。


 トリニダード・トバコ選手のほとんどがアフリカ系、あるいはそれと他の人種とのハーフだ。身体能力の高さについてはいうまでもない。

だがそのスピードを有効に使っているとは俺には思えない。ペナルティエリアに閉じこもっていてはその駿足が活きる場面が少なすぎる。



 俺は相手の立場になって考える。

もし俺や有村のような選手が1人でもむこうにいたら、そしてアタッカーがその選手のパスにあわせて走ることができれば、日本ゴールに迫ることだって可能なのに。

今のところトリニダード・トバコのシュートはまったくのゼロ。

スタジアムにいる約1万もの人間のすべてが日本の失点を予想していない。



 後半が始まって10分ほどが経過したころ、俺は隣に座る織部古太に話しかけた。

「料理マンガだとさぁ、先に出した料理より後に出した料理のほうが高い点になるんだよね」


「倉木さんと有村のことですか?」


「だって同じポディションなんだから比べられて当たり前だろ?」


「……有村と倉木さんは比べられませんよ」この試合では。「同じようにチャンスをつくってますけど……」


「でも俺がいた前半は無得点だ」


「結果と内容は違います……有村は苦戦しているみたいですね」


「そうか?」


「わかりませんか? 相手は引きすぎている。有村はいろいろ工夫しているみたいだけど上手くいってません。たとえば今です」

 織部が手でフィールドをしめした。

 ペナルティエリア正面で有村がボールをキープ。

 当然相手選手の1人がプレッシャーをかけてくる。

 有村は5メートル横にいる左沢にパス。

 そう、パスをしたはずなのに。

 相手選手が動かない。有村をマークしていた選手はまたペナルティエリアのなかにひっこんでしまい配列を動かさない。

こんなのサッカーじゃない。

 織部は説明してくれる。「有村は自分にマークが集まった場合、横パスバックパスをすることでマークを味方に引き渡し、リターンでフリーになるプレーを得意としています。ですがトリニダード・トバコの守り方はあまりにも愚直です。彼らはゴールそのものを守っています」


「ボールを追いかけようとしない。だから有村のそれが通じない」


「そうです。あの密集地帯にスルーパスはまず通じない。有村にできることはそんなにないかもしれない」




 左沢がロングクロスをいれてきた。ファーサイドで鮎川が中央に折り返したが、飛びだしたGKがしっかりキャッチング。シュートには至らない。


「GKが絶好調だ」と俺。


「波に乗ってますね。今のだって出るか出ないか判断は難しかった……。これだけこっちが枠内に飛ばしてるんですから、もう何本もセーヴされているってことになりますね」

 あのGKが凡庸な選手だったら、日本は何十分も前に先制していただろう。

 引いて守る9人よりも、むしろ厄介なのは最後の壁となるキーパーか。




 後半30分。


 ペナルティエリアの外でボールを回しても意味がないことは前半のうちに確認済み。

 まるで穴熊囲いだ。問題は攻撃に手が(足が?)回らないことだが。


 日本はトリニダード・トバコに対しシュートを延々と、縷々と、次々に浴びせかける。



 ドリブルで1人をかわした近衛がミドル→DFの頭に当たる。


 鹿野が押しこもうとするも→DFが競ってヘディングでクリア。


 そこから志賀が低いクロスボール、古谷が右足でそらしてゴールへ→GKが右手で阻止。


 DFがクリアしたボールを有村がそのまま打ち返す→クロスバーに跳ね返される。


 ペナルティエリア内、混戦のなかから鮎川がコンパクトなキック→DFの足にあたり、


 変化したシュートにGKは反応できない→ボールはしかしネットをゆらしはしなかった。


 外れていったボールを日本選手は見送るしかない。


 CKから志賀がシュートを放ったが枠を捉えられない。

 トリニダード・トバコのゴールキック。キャプテンマークを巻くウィリアムズが蹴る。

 ここから日本のゴールが生まれる。


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