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作戦会議

 昼食の直前、チームのドクターから血液の検査を受けた。疲労度をチェックするため試合後にすべての選手から採取する。採血の際マルコーニがやたら痛がっていた。まったく期待を裏切らない奴だ。



 で、昼食。

 円形のテーブルには俺、逢瀬、近衛、織部、マルコーニという謎面子。

 話をするのは食事をしてからということになった。どうもシリアスなことを話していると飯が不味くなる。

 この食以外快楽がないと言いつつ俺はお盆をもってテーブルにつく。白身魚の塩焼き、白米、味噌汁その他をもってきた。

 試合を終えたばかりの織部は大盛りにしたチキンカレーを平らげる。甘いものが食べたいようと口走るマルコーニは食後にコーヒーをもってきた。「食べすぎた。眠たい」とも呟く。


 近衛は無視して話を始める。「今のところ2連勝で勝ち点6です。グループリーグ首位通過はほぼ決定ですね」


「俺はもっと苦戦すると思ってた」と逢瀬は口をはさむ。「アルゼンチンもセルビアも調子が悪かったんじゃないか?」


「そう」と近衛は同意する。「両チームとも連携した攻撃があまりみられなかった。そういう問題は大会を通して徐々に解決していくだろうと思われます。僕たちは優勝を狙っているんです。だからまだ大会の7分の2しかこなしていない。えっと、全体の約29パーセントです」


「今計算したのか」と俺。


「たった29パーセントです。選手を1番成長させるのは試合ですし公式戦となればなおさらそう。すべてのチームがこれからもっと強くなると思っておいてかまわないでしょう。もちろん僕たちもそうなんですけど……。僕たちも試合を観てますよね」


 俺はうなずく。スペイン対ナイジェリアの試合だけではない。他のグループの試合も時間があればチェックしている。

「でも倒せないほど強いチームはいなかっただろ」


「それが傲慢だというんですよ。どのチームもトーナメントにはいるころには仕上げてくる。むしろ我々の弱みはすでにチームとして完成してしまっていることです。特に攻撃については文句のつけようがない。そうでしょう?」


「褒めてんのか?」と俺。


「褒めてますよ。前の選手が相手の脅威にならなかったらもっと攻撃に人数をかけられていた。2連敗していた可能性だってあるんです。こうやって明るく」明るいか?「トーナメント以降のことを話してなんてられなかったわけですから」


「本当によくやってくれた」と逢瀬が俺を見て言う。なんか上からだな。


「青野監督は攻撃のためのメンバーを選んでいます。木之本は攻撃では大活躍でしたが、引いて守る場面では判断ミスが目立ちました」


 欠席裁判だ。木之本は壁際のテーブルで樋口や西田と談笑している。

「大槌に比べたらそうだったな」俺は後半のある場面を思い出した。「たとえばテスラにルーレットで抜かれたときとかか?」


「そうですね」と同意する近衛。「あれはまず自分にむかってくるこぼれ球に対しテスラは1度足を止めて見せていました。疲れて反応が鈍ったと木之本に錯覚させたんです。だから木之本は奪いにいってしまった。だからルーレットでかわすことができた。テスラは敵を騙すのが上手い選手です。僕以外の人ならみんなひっかかっていたでしょう」

『僕以外なら』とは自信満々だな。


「大槌のほうがDFとして完成度が高い」と逢瀬。「攻撃なら木之本で守備なら大槌だな」


「選ぶのは監督ですから」と近衛。「でもサッカーではまず守備からだと思っています。相手の攻撃を止めないと自分たちの攻撃が始められません」


 俺は年下に話を振る。「織部はどう思う?」


 織部古太はサッカーをしていないときはコンタクトを外し、レンズの小さな眼鏡をかけている。

「攻撃は文句がないそうですけれど、なら守備は完成していないってことですか?」


「僕はそう思う」と近衛。「他のみんなは違うみたいだが」


「セルビア戦は1失点したけれど、あれは仕方なかったと俺は思う」とキャプテンは言った。「誰かが言ったけどあれは100回に1回のプレーだ」


「あのゴールについては何も言わないよ」と近衛(僕の責任でもある)。「守備についての論点は主に2つ」


「何と何」と俺がたずねる。


「1つ目は『対ミドルシュート』。2つ目は『2列目からの飛び出し』だ」




 10分間。近衛が守備のやり方について説明し、合間合間に俺が茶々をいれる。

 逢瀬と織部はほぼ聞く役割に徹した。




 ……1人無口だったマルコーニ。横目に見ると睡魔に襲われたのか座ったまま眠っていた。

 話が終わっても眼を醒まさない。「どうしますか?」と近衛。


「いいこと思いついた。水をちょっと股間にひっかけてやろう。面白い勘違いをするところをみんなで離れて見よう」


「高校生にもなってそんなイタズラしないでくださいよ」と織部。冗談だって。


「面白いですね」と近衛。


「大事な話してんのに眠ってた罰だ」と逢瀬。


「俺が少数派なんですか」と困惑顔の織部が言った。

 流石に実行にはうつさなかった。


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