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トレーニングマッチ

 セルビア戦の翌日の午前中。

 昨日試合に出たメンバーがスタンドでトレーニングマッチを観戦している。

 ホテルから歩いて5分の距離にある練習用の極小さなスタジアムだった。

 代表のサブメンバーと対戦しているのは近くのクラブのユースチーム。

 サブメンバーの試合勘を損なわないために行われるゲームである。決勝戦以外のすべての試合の翌日に行われていることになっていた。



 この大会の登録メンバーは全部で21名。

 うちGKは3名。フィールドプレイヤーは18名。

 うち昨日セルビア戦先発で出場したフィールドプレイヤーは10名。残りは8名。

 西田と古谷は途中出場とはいえそれなりに長い時間試合にでていたのでトレーニングマッチにはでない。鹿野に代わって1、2分だけ出場した沖という名前の選手はでてくる。残りは6名。

 そして怪我をしている志賀は大事をとってこの試合には出ない。よって使えるフィールドプレイヤーはわずか5名だ。足りないメンバーは代表チームのコーチ、それに相手チームから借りる。

 逆にベンチ組のGKは2人であぶれる。1人の選手は相手チームにはいってプレーしていた。

 30分ハーフのトレーニングマッチはもう後半戦にはいっていた。



 珍しく日本チームが攻めこまれている。

 左サイドのMFから同じサイドに流れたFWに縦のスルーパスがとおりそうになった。

 大槌はそのFWの背中を追いかける。(大丈夫だ、通っても余裕でオフサイド)。

 と思っているのだろう。だがしかし。

 フィールド中央、同じくセンターバックを務めるコーチがポディショニングミス。深い位置に残っている。

 よってパスが通っても線審は笛を鳴らさない。大槌とそのコーチ(40代)が必死のカヴァーも間に合わない。鋭いドリブルから思いきってシュート。

 キーパーが一直線に腕を伸ばす。右真横に倒れながら片腕でパンチング。

 こぼれたボールをコーチ|(名前は佐久間)が大きく蹴りだす。ずいぶん慌てた様子だった。

 守ったのは第2キーパーと目される丹羽だ。

 最後尾からの味方への的確な指示を長所とする選手だが、この場面ではコーチがうまく動いてくれなかった。


 その流れから今度は日本がチャンスをつくりだす。

 コーチがクリアしたボールをつなぎ中盤で細かいパス回し、その間に左サイドを走り抜いた左沢へ。フリーになっている。

 相手チームのDFが飛び出してくる前に長いクロスボールをいれる。

 すでに相手のマークがついているFWの3人ではなく、

 後ろから飛びだしてきたMFの織部へ。

 ダイヴィングヘッドが枠内に決まったと思われたが、GKがファインセーヴ。美しく宙を舞いパンチングで外へかきだした。

 日本の3人目のキーパーは古賀。179センチとGKにしては小柄だが高い身体能力とシュートへの好反応で代表にまで登りつめた選手だ。



 昨日試合に出た選手たちがスタンドから試合を見守っている。

 鹿野は最前列でふんぞり返り足を組んで選手たちを傲岸に見下ろしていた。

 佐伯がトイレから戻ってきた。隣に座る木之本はずっと両手の指を立てて試合のスコアをみんなに伝えていた(誰もそんなことは頼んでいないと思う)。右の日本が3本で3ゴールをしめしている。左のクラブチームは『グー』、無得点のままだ。


 金井がペナルティエリア外から思いきってシュートを放つ。相手キーパーの古賀がまたしても好セーヴ。しかし弾いた位置が悪かった。ゴールエリア内のこぼれ球をFWの沖が押しこむ。

 木之本の小指が持ち上がる。日本の4得点目。

 試合はそのまま4対0で終わる。青野監督は手を叩きながらベンチからでてきた。

(最初のトレーニングマッチを含めればこれで)「4連勝だよオッケーオッケーよくやった」と。



 昨日のセルビア戦、抜擢された水上や木之本はトレーニングマッチの第1戦で眼を見張るような(古典表現)活躍を見せていた。

 今終わった試合はいわばトリニダード・トバコ戦出場を賭けたオーディションでもあった(使うか使わないかは青野さんが一存するのだけれど)。

 観戦していた面々からわざわざ聞くまでもないことだ。雑談のなかでもっとも話題に上がっていたのはあの(・・)選手。

 このトレーニングマッチ第2戦でもっとも活躍した選手は織部古太。織部の存在が俺たち出場組の立場を脅かすことになるだろう。

「なんていったって」スタンドからフィールドへ降りる近衛が言った。「競争がなくっちゃチームじゃないですよ」


「織部はDFじゃないからな」と後ろをついていく俺。


「まぁ少なくとも僕からはポディションは奪えませんね。お昼一緒に食べませんか? 昨日のことで話があります」


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